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防災インタビューVol.100

災害を我が身のことと考える ~知識が命を助ける~

放送月:2014年3月
公開月:2014年8月

河田 惠昭 氏

関西大学教授

京都の大雨から学ぶこと

2013年8月30日に京都に大雨が降った際、気象庁は「特別警報」を出すというところから動き始めました。大雨の特別警報というのは大体50年に1回程度降る大雨の際に、府県単位で出すということになっています。実際に特別警報が2013年9月18日に福井、滋賀、京都府に出されました。この時は嵐山を流れる桂川が、渡月橋という木製の橋の所であふれました。京都市は周辺の住民に避難勧告、避難指示を出しました。この時、桂川だけではなくて鴨川もあふれ、全体で避難指示26万5千人、避難勧告3万5千人、合わせて30万人に避難勧告指示を出しましたが、逃げたのは約3000人ということで1%だけで、全然逃げませんでした。そして実際には桂川の渡月橋の所であふれて、お土産物屋さんやレストランの床下浸水ぐらいにとどまったので、避難所に避難した人たちからは「なんだ大したことなかったじゃないか」「こんなんだったら家にいてもよかったんじゃないか」と言われました。ただ、これはいろいろなことがうまくいったために被害が最小限にとどめられたので大丈夫だったのですが、その過程は報道されないため誤解を招きました。実際は、嵐山の上流に日吉ダムがあり、降った雨をここで蓄えているのですが、満杯になったためゲートを開けないといけないという事態になりました。この時、近畿地方整備局長と河川部長が、ゲートを操作しているダム統合管理事務所に「開けるな」という指令をしたことで何とか難を免れ、床下浸水にとどまったのですが、この時、桂川の嵐山の所で約10cm堤防を超えて洪水になり、市街地に入りました。実際に、もしゲートを操作手順通りに開けていたら50cmオーバーして、市街地の洪水の深さが6.5mになり、家の2階も水没し、家が流されることもあり得ました。実際には、このことがなかなか報道されなかったために「なんだ、空振りになったのか」ということになってしまったわけです。今から10年前は、同じような雨の際に避難する人は10%いたのですが、どんどん減ってしまって今は1%です。10月に伊豆大島に台風27号がやって来て大きな土砂災害があった際にも、避難勧告を出しても避難した人はたったの1.5%でした。つまり情報が命を助けてくれるのだということが、どうも我が国の住民にはきちんと理解されていないで、行政が勝手に出しているという捉え方をしているところに非常に大きな問題があると思っています。

これはやはり民主主義の原理なのですが、要は自己責任の原則を徹底すると、このようなことが起こります。雨が降っている最中に、ずぶぬれになっても避難所に逃げるというのは勇気がいることですが、日本人全体に勇気がなくなってきていることは間違いありません。単に高齢化だけの問題ではなくて、何か新しい事にチャレンジするという覇気が、どんどん少なくなってきています。このことが、実は避難しないということにつながっているのだと思っています。

知識が命を助ける

ぜひ皆さんに理解いただきたいのは「知識が命を助けてくれる」ということです。知らないばっかりに犠牲になるということは往々にして起こります。災害だけではなく、私たちが生きていく上で出てくるたくさんのリスクを、どうやって乗り越えていくか、それには実は知識がいるのです。その知識がなければ、危険に巻き込まれてしまうということです。

例えば、最近インドネシアでスキューバダイビングをやっている女性7人が、行方不明になるという事故が起きました。幸い5名は助かったのですが、浅い海に大きなうねりが来ると非常に流れが速くなって、流れに巻き込まれたらどうしようもないということは、実は分かっているわけです。実際に現場にいるベテランというのは2種類あって、いろいろな修羅場をくぐってきてベテランになっている人と、たまたまラッキーなことに、全然修羅場を経験せずに何年もその場におられてベテランと称する人がいるということです。経験しなければ賢くならないのかというと、そうでもなく、経験しなくてもそれを補うのは知識だということです。今はスマホもありますので、身近なところで必要な情報を検索して身に付けることは昔ほど難しくはないのですが、それを生かす努力をしていくのは自分です。

情報は必要な人が取りに行かなければならないですし、向こうからいい情報が飛び込んでくるような時代ではありません。何かをやるときには必ずその情報の助けを求めることを習慣にしていけば、いろいろな災害だけではなく事故や事件のリスクも、うまく乗り越えられると思っています。災害のことを考えると、どんどん憂鬱になってきますが、実際に自分たちが生きていく上で、リスクは本当にたくさんあるわけです。例えば、私は今学生の指導をしていますが、どこに就職するか、誰と結婚するか、親ががんになったときにどこの病院に入院させてどのような治療を受けるか、これは全部リスクなわけです。そういうものをどうクリアしていくかというところで知識を使っていただきたいと思っています。知識を使わずヤマ勘で対処しては、命を落とすことになりかねないということです。「命は尊くて、生きていくことは大切だ」という哲学を持ちながら、現実の問題として、知識がそれをサポートしてくれているということを知り、どんどん新しい知識を持っていってほしいと思います。そしてその知識を基に、何か行動を起こすときには勇気がいります。勇気がないと一歩踏み出せません。

例えば、原発の問題もそうですが、オランダやドイツは、できるできないにかかわらず「脱原発」すると言っています。オランダでは既に洋上で風力発電機が100機以上、回っています。日本は経済的にペイしない、耐用性に問題があるからと言って、いまだに1機も回っていないのです。ぶつぶつ文句ばかりを言って、一歩踏み出す努力をしない、つまり勇気がなくなっているのだと思います。日本という国が、これから発展していくためには、原動力を持っていかなければなりません。それが守りの姿勢になってしまったら、災害や事故や事件にやられてしまうことにつながっていくということです。そのためにも、いろいろなことを前向きに、どうしたらそのリスクに侵されないかを考えながらやることは、とても大切ですし、そのためには知恵もいりますし、人の意見も聞かなければいけないし、いろいろな形で自分から出ていくことが、とても重要だと思っています。結果はそれに付いてくるのです。初めから結果を推定して動こうとしてはいけないので、やるだけやってみるという前向きの姿勢が、いろいろな問題の解決につながっていきます。そういうことを基本にしないと、今の社会はどんどんデフレスパイラルにはまって元気がなくなってしまって、文句ばかり言っている国になってしまうと思います。そうではなくチャレンジしていくことが、やはり防災、減災にも通じていきます。人ごとではなく我が事としてやっていただく、そして勇気をもって行動していただくことが重要です。「率先避難」もまさにそうですが、「津波てんでんこ」という言葉をご存じだと思いますが、自分で逃げたければ逃げたらいいのです。しかも1人で逃げるのではなく皆を引き込んで、大声を上げて逃げるだけでいいのです。例えば、皆がパニックになったときにも、大声を上げて「大丈夫だ」と誰か1人が言ったら、それで収まるのです。誰もしゃべらないから皆不安になってしまう。たくさんの人がいる中でパニックにしないというのは、それほど難しい話ではなく、誰かが「皆安心しろ、大丈夫だ」ということを大きな声で言っていただくだけでいいのです。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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