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防災インタビューVol.100

災害を我が身のことと考える ~知識が命を助ける~

放送月:2014年3月
公開月:2014年8月

河田 惠昭 氏

関西大学教授

南海トラフ巨大地震の被害想定について

南海トラフ巨大地震、これは首都圏の方にはあまりなじみのない言葉だと思いますが、日本列島の下には駿河湾から四国沖にかけて、深さ4000mぐらいの深い溝が東西に横たわっていて、ここに南から押し寄せてきているフィリピン海プレートが潜り込んでいます。その潜り込む量が増えると定期的に地震が起こります。歴史に残っている一番古いものは684年の南海地震で、これは日本書紀に載っています。それ以降100年から150年に1回、全部で9回は確実に起こっています。この地震について東日本大震災以降、起こり得る最大規模の地震と津波はどのくらいなのか、という検討を行ってきました。私はその検討の座長ということで2年ばかり活動しましたが、いろいろなことが分かってきました。しかし結果的には、この地震の直接の被害は首都圏にはないので、2013年5月23日に最終報告が世間に発表されたときには、東京のメディアではあまり真剣に捉えず、ほとんどニュースにはのりませんでした。東海地方、西日本は大変だけれど東京にはそれほど被害がないので人ごとのように感じていましたが、実はそうではありません。なぜかというと、実際には、この地震は最大規模でマグニチュード9.1、被災地に住んでいる人が6100万人いるということなので、2人に1人が被災するかもしれないということです。想定死者数も32万3千人という数字が出ています。

このことが何を意味するかというと、この地震がもし起これば、日本で最初に食べるもの、飲み物がなくなるのは首都圏なのだということです。被災地で物を調達するわけにいきませんので、政府は首都圏で食べるもの、飲み物を調達します。それによって首都圏のスーパーマーケット、コンビニエンスストアから食べるもの、飲み物が一切姿を消すという形の間接被害が最初に起こるのが首都圏なのですが、そういうことがほとんど理解されていません。しかも今、我が国はクオリティー・オブ・ライフといって、いわゆる量よりも質を求める生活になってきているので、流通在庫がとても少ないのです。例えば、ペットボトルの水は全国でわずか11日分しかありません。もし生産が止まれば、4日目には全部姿を消すということです。新しいものを食べ、飲んでいるということが日常化してしまっているので、ストックがほとんどないということです。そういう状況で南海トラフ地震が起こると、実際には本当に日常生活すらできなくなってしまうということです。特に東京は関西に比べて井戸が少ないので、ペットボトルの水やお茶がなくなってしまったら本当に困る状況が身近で起こるということをきちんと考えておかないと、とんでもないことになるということです。

東日本大震災の後も物資がなくなりましたが、東日本大震災の被災地人口730万、南海トラフ地震の被災地人口は6100万人なので、およそ9倍です。万が一地震が起これば、いろいろな日常品は身の回りから姿を消すという形で首都圏に非常に大きな影響があるわけです。常に我が事と思っていただかないと、それに巻き込まれてしまうということです。

南海トラフ巨大地震への備え

今の日本の社会は情報のネットワークと物流のネットワークでサポートされていますので、そのどちらかがおかしくなると、とんでもない不自由な生活を強いられることになります。南海トラフ巨大地震が想定通り起こると、特に東海地方が非常に大きな被害を受けることになります。人的な被害が一番出るのが静岡県で、大体5分から10分以内に10mを超える津波が全県的に来ますので、11万3千人が亡くなるという数字が出ています。そうなると、首都圏には西からの物資が全く来ないという形になるわけです。この地域は東海道ベルト地帯といって、日本のGDPの多くの部分をここで稼いでいるので、ここが被害を受けると日本の国際的な地位もどんと落ちるということになります。首都直下地震もそうですし、南海トラフ巨大地震もそうですが、実際にこのような地震が起こると日本の国際的な立場が非常に弱くなり、海外からの援助なしには立ち直れないような状況になることも、しっかりと認識しておかなければいけないということです。

普段の生活は非常に便利にできているのですが、それは情報システムと物流システムがうまくかみ合っているからサポートされているのであって、どこかで不具合が起こると量が半端ではないので、すぐに物がなくなるということが身近なところで起こるということです。南海トラフ巨大地震が起きることを想定した場合の家庭内での必要な備蓄は、計算しますと20日分ということになります。阪神大震災の後、3日分の物資を備蓄しておけば、4日目からは救援物資が届きますということを言っていましたが、南海トラフ巨大地震を想定すると、備蓄品は20日分必要なのですが、突然20日分の備蓄は無理なので、取りあえず1週間と発表させていただいています。ですから、常にそのような災害を前提として、なるべく日持ちのするものを余分に蓄えておくことを心掛けていただきたいと思います。新鮮なものを求めて毎回毎回、近くのコンビニやスーパーで、その時に必要なものを購入して生活をしていると、地震が起こった際には、赤ちゃんのミルクがなくなったりということがすぐに起こってしまうということです。ただ、20日分の食料をわざわざ段ボールに備蓄するのではなく、お中元とかお歳暮でもらったようかんなどは8ケ月以上持ちますので、それらをすぐに食べないで身近なところに置いておくというのも備蓄です。乾パンなどのような備蓄品ではなく、身近なところで利用できる食べ物全部が備蓄になります。そうしないとかさばってしまうので、日常生活の中で少し工夫して少しでも日持ちする、通常使っているようなものをストックしておく、そういう社会にしていかなければいけないということです。

実はジュネーブに本部のある国際赤十字では、紛争国、災害国に何を援助するかというと、水しか送らないのです。彼らに言わせると、水さえあれば1週間は食べなくても生きられるということで、やはり水が最重要ですので、万が一食べるものがなくてもそれで我慢できるということなので、まずは水の備蓄を心掛けていただきたいと思います。

東京湾の台風被害について

2013年11月に台風30号がフィリピンのレイテ島を襲って、高潮によって海面が約5mぐらい上がり、同時に風速毎秒60mを超えるようなすごい風が吹いて、7000人が亡くなりました。地球温暖化に伴って極端な気象現象が起こるので、このような超大型の台風が今後、日本へ来ないという保証はないということです。2014年の冬にも、今までにない雪が降りましたが、実は地球の温暖化によって、雪が降るときは徹底的に降るし、降らないときは全く降らないという両極端が起こりやすくなっているということです。そういう意味では夏もゲリラ豪雨に注意しなければいけません。都市が暖かくなってヒートアイランド現象が起こると、ピンポイントで大変な雨が降るということですので、現在は、そういう非常に不安定な気候が心配されています。

東京湾は湾口が南西方向に向いていますから、ちょうど台風が日本に近づくときには北東方向に進路を取っている場合が多いので、「台風の吹き寄せ」といって、風に吹かれた海水が浦賀水道から東京湾にどんどん入ってくると高潮が起こることが、とても心配されているわけです。しかしながら、いまだ東京湾では高潮が起こっていません。千葉県の東京湾沿岸では、埋め立て地がどんどん広くなり住宅地も増えていますし、工場やコンビナートも増えています。これは今後、新たに海面が上がる高潮の脅威にさらされるということなのです。もし想定している通りのことが起こると、東京では羽田空港だけは水面下にはならないけれど、沿岸部のゼロメートル地帯には全部水が入るということになります。こうなると100万人単位で避難しなければならないのですが、そのようなことは経験したこともありませんし、実際に今のように市町村長がばらばらに避難勧告を出したら、皆、車で逃げようとしますので大渋滞が起こって逃げ切れないという問題が、また新たに出てきます。ですから、地震だけではなくて台風による高潮の問題も、きちんと対処できるようにしておかなければいけないということです。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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