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防災インタビューVol.108

防災と金融

放送月:2014年9月
公開月:2015年4月

蛭間 芳樹 氏

日本政策投資銀行 BCM格付け主幹

災害レジリエンス

「レジリエンス」という言葉は、大本をたどると物理学や精神医学の専門用語だと言われています。あるストレスに対抗する力という意味で物理で使われていますし、精神医学では子どもが大人に成長する過程で、いろいろなストレスを受けながらも成長していくトータルの能力を「レジリエンス」と言います。危機管理の分野の中では「ディザスターレジリエンス」と言い、これは日本語で言うと「災害レジリエンス」です。レジリエンスという適当な日本語はまだ見当たらないのですが「災害レジリエンス」という言葉は非常に使われています。日本で一番大きい災害危機というと自然災害ですが、リスクはそれだけではありません。例えば金利や為替などの経済のリスク、技術関係ですとサイバーのリスク、あとは地政学的なリスク、気候変動など環境のリスクです。このように、いろいろなものがリスクにさらされているという背景があります。その中で危機管理の一つの大きな戦略として「レジリエンスを高めよう」ということが世界的に広まっているわけです。これは従前の防災や減災と何が違うのかというと、前提として、危機が発生すること自体は避けられないという立場をとるわけです。ストレスや外力を受けた後、いかに早く復旧をして、いかにより災害に強いシステムを構築していくかという力強さ、早さを「レジリエンス」と言います。その対象は自然災害のみならず、先ほど申し上げたさまざまなリスクに対してのもので、私が所属している銀行における金融リスクも対象範囲になっています。

「レジリエンス」というのは非常に使い勝手がいい言葉なので、非常に重要なキーワードになっています。過去10年、20年さかのぼりますと「サステナビリティ」とか「イノベーション」などという言葉はありませんでしたが、今は当たり前に使われている総合概念になっています。それと同じように「レジリエンス」に関しても、間もなく皆が当たり前に使うような時代がくるのではないかと思います。

実際この「レジリエンス」を評価するには長い時間軸が必要で、その具体的な例として、いつも紹介しているのは神戸の地震の際の神戸港の事例です。1995年に神戸港は国際物流の中で世界第3位の物流量を誇っていたのですが、震災直後は代替地として釜山、上海、シンガポールなどに荷物を預かってもらい、以降その荷物は戻らず、今現在、神戸港の取扱量は世界第45位になってしまい、大変なギャップが生じています。災害を契機に神戸港の地位は少し下がってしまいました。これはレジリエンスが低いと評価せざるを得ません。復旧、復興の過程において、どういう新しい神戸港をつくっていくべきか、そこの検討が国際的な荷物を扱う競争環境から少し置いていかれてしまったので、今、神戸港は少し弱いポジションにいることが一つの学びです。従前に言われていたような自然災害対応型の防災は非常に重要なのですが、さまざまなものが国際的につながっている時代においてサプライチェーンもそうですが、いかにグローバルな競争の中でこのレジリエンスを発揮していくかは、次のビジネス、国力、あるいは企業の成長力にも直結するものだと思います。

今、東北のエリアはまだ復旧のフェーズだと思いますが、ここからどう10年後、30年後に東北エリアが世界での地位を獲得する復興を目指すのか、レジリエンスを発揮するのかは、日本の今の国力そのものが試されていると思います。

世界における日本の危機管理能力

過去の事例として神戸を例に挙げてレジリエンスに関して紹介をさせていただきましたが、一つ非常に衝撃的な調査結果をご案内したいと思います。私は縁あって世界経済フォーラム、俗にいうダボス会議のリスク研究チームに入っていますが、そこが2013年に国の危機管理の能力、レジリエンスの評価をしました。その評価の結果、日本のレジリエンス、危機管理能力は世界139カ国中67位という結果が出ました。

G7、G20あたりの国を対象に、X軸に経済的な競争力、Y軸に危機管理能力をとりますと、ちょうど45度線に並びます。すなわち経済的に成功している国は併せて危機を管理する力もあり、次の成長ができるということです。一方、日本の場合は経済的な競争力はG7並みにあるけれど、危機管理能力は非常に低く、中堅国、途上国並みという評価です。この話をするとよく「日本は防災先進国ではないのか?」という指摘を受けますが、ここが対象としているリスク危機はオールハザードで、地政学、経済、サイバー、技術、環境など、さまざまなリスクに対しての強さを考えているので、こういう評価となってしまいます。これに対してどうしたものかと、政府をはじめ私も含めまして検討をしている次第です。このレジリエンスというものは単に災害に対して備えることだけではなくて、国の成長力、企業の成長力にも直結するような能力、価値であり、それも高めていかなければならないという話です。

私がいろいろお話をさせていただくときに 「リスク新時代」というキーワードを使わせていただいているのですが、従前の防災対策、リスクマネジメントの範疇では収まりきれないリスクが今はたくさん出てきています。それらはさまざまでサプライチェーンを介して、グローバルな広域ネットワーク、交通のネットワークなどを介して、いろいろなリスクが瞬時に世界に伝播するような環境の中で、いかにリスクを管理するのかが大切です。気候変動などに対してもグローバルでマネジメントしていくにはどうすればいいか、またそのマネジメントのリーダーシップをどういうふうにとっていくのか、そのような話に今レジリエンスはなっています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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