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防災インタビューVol.108

防災と金融

放送月:2014年9月
公開月:2015年4月

蛭間 芳樹 氏

日本政策投資銀行 BCM格付け主幹

CSRとしてホームレスを支援「野武士ジャパン」

私は「野武士ジャパン」の監督も務めているのですが、「野武士ジャパン」と聞いてザックジャパンから連想される方もいると思います。これは、とあるサッカーチームの日本代表の名称です。このチームで特徴的なのが、選手の皆さんが実は全員ホームレスの方だということです。一応こう見えても日の丸を背負ってワールドカップにも出ました。私自身も小学校3年の時にちょうどJリーグが始まり、カズさんにあこがれてクラブチームにも参加していたサッカー小僧でした。ですので一番長いキャリアは、この防災とか危機管理ではなく、実はサッカーです。

このチーム「野武士ジャパン」の目標は、試合とか相手に勝つことではありません。このチームの目標は、それぞれの選手の自立にあります。メンバーは皆ホームレスですので、路上生活からアパート暮らし、就職といろいろなステップに向けての歩みを、このサッカーでサポート、支援するというチームです。これは社会貢献の一つになっていますが、ヨーロッパ、アメリカではホームレスの問題はCSRの筆頭課題、筆頭テーマにもなっています。世界の失業率を見てみると、日本では大体5、6%ですが、スペイン20%、フランス30%など、ヨーロッパでは10%を超えている国々が当たり前です。アメリカでも10%ぐらいです。失業というのは、ほとんどホームレスへ直結してしまう話になってくるのですが、これは各国、地域が歩んできた歴史です。移民などの問題もさまざまありますが、今グローバルのCSRのテーマとしては環境うんぬんではなく、雇用、人権、労働などが筆頭のテーマになっています。

また、もう一つ社会保障の財政という観点からも非常に重要な問題があります。彼らが路上にいて生活保護を受けていることは、財政負担が逼迫する中で非常につらいことです。その意味においても彼らに何とかして働き手になってもらい、納税してもらうのは非常に重要です。ある意味、危機管理かもしれません。

このチームの母体はビッグイシュージャパンという組織です。皆さんよく街角でビッグイシューという雑誌を掲げて売っている赤い帽子をかぶった販売員を見掛けたことがあるかと思いますが、あの雑誌はホームレスの方しか売れない雑誌です。そこが母体となって、このチームを支えています。

練習は月に2回、大体1回あたり2、3時間ぐらい行い、練習試合も行います。その対戦相手は基本的には外資系の金融機関、コンサルティング会社などです。もちろん日本企業にもサッカーの試合の申し出や、さまざまなバックアップをお願いしに行っているのですが、ある意味門前払いです。「CSRとか関係ないでしょ、何でうちの企業がホームレスの支援をしなきゃいけないのか?」と言われてしまいますし、中にはホームレスに少し接点があると、企業のブランドイメージが悪くなるというので断られてしまうのが事実です。

「野武士ジャパン」の成果

野武士ジャパンは2011年、世界中のホームレスのチームが集まるホームレスワールドカップに出場しています。当時74のチームが集まりましたが、日本はアルゼンチンと戦ったり、日韓戦も実現しましたが1勝もできず、残念ながらビリでした。その理由はいろいろあり結果的にはビリでしたが、重要なのは、このご時世にホームレスワールドカップに出場した後の日本の選手8人のうち7人が就職できたということです。

これは、やはりサッカーというスポーツがすごくいいのだと思います。個人としてのスキルアップもそうですが、チームスポーツですので、チームとしてのコミュニケーションもあります。さまざまな攻めや守りの戦術、戦略の理解、その中でどう自分をアピールしていくかというところが、実は社会的、基本的なコミュニケーションやスキルの部分、あとは協調、対話の能力もトレーニングされたのだと思います。このように自立を促し、人生を変えられたのは、とても素晴らしいことだと思います。

誰もホームレスになりたくてなった人はいませんし、東日本大震災のような災害や経済的なリーマンショックなど、個人ではどうしようもできない偶発的な外力によってホームレスを余儀なくされるわけです。このようなことで社会から退場させられてしまった人を速やかに緩やかに戻していく社会の仕組みが、日本は非常に弱いのです。一度王道から外れると「あなたたちはホームレスね」というふうに大きな概念でくくられてしまって、そのままになってしまいます。これは非常に対応性が少ないというか、寂しい社会でもあるような気もします。

ここで重要なのは、ホームレスの定義が日本と海外、欧米では全然違うということです。日本のホームレスの定義は厚労省が出していますが、例えば河川とか公園とかにいる人であり、最近ちょっと減りましたが大体今1万人ぐらいいると言われています。海外、特にヨーロッパの定義では、ホームレスというのはそういう方々だけではありません。例えば、潜在的なホームレスにならんとしている人たちを含みます。具体的にはネットカフェとか引きこもり、ニートの方々、フリーターも含んでいます。日本で、この潜在的なホームレスがいるのかという統計数字によると、全体で300万人ぐらいです。今いわゆる現役でホームレスで生活している方は1万人ぐらいですが、その母集団、背景には300万人という数字があるわけです。彼らはたまたま今両親や親戚が健在なので衣食住は問題なくやっているものの、これが5年、10年たってどうなるのか。もし路上に出た場合、そのインパクトはどうなのか、社会保障財政としては大きな問題ですので、そのためには先手先手で打つべき政策も必要ですし、われわれがやるべきこともたくさんあると思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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