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防災インタビューVol.112

日常の中での防災 ~目的防災&結果防災~

放送月:2015年1月
公開月:2015年8月

定池 祐季 氏

東京大学助教

直球と変化球の使い分け

「目的防災」「結果防災」についてお話ししましたが、それと組み合わせて「直球と変化球の使い分け」という話をしたいと思います。私は3月まで北海道にいて、日本ハムを応援していたこともあり、北海道でこの話をすると理解していただきやすいので、この例えをよく話すのですが、例えば自治会の防災担当の方が、地域の防災行事として避難訓練や防災行事をやるというのが、「直球のアプローチ」です。「変化球のアプローチ」というのは、例えば町内会、自治会、地域の集まりの時に、「ちょっとウォーキングしませんか」「健康づくりのために町内会、地域を歩きませんか、ついでに避難ルートを確認しませんか」という形で、防災を前面に出すのではなくて、何かのついでの形で防災も抱き合わせでやってしまおうということです。「地域の歴史を学びましょう」「地域の地名の由来を学びましょう」という企画をすると、地域史の中では自然と災害史が出てくることが多いので、知らず知らずのうちに歴史好きの人も地域の災害史について勉強してしまうことがあります。これもある意味「結果防災」ですが、それを狙ってやることを「変化球のアプローチ」と私は呼んでいます。

このような変化球を増やしていこうと考えると、防災を今までずっと頑張っていて、仲間が増えないと悩んでいる方も、ちょっと楽しんでアイデア出しができるようになると思います。頑張れば頑張るほど、防災の活動というのはきりがないので、頑張っても、頑張っても天井がないと行き詰まりを感じてしまう方も多いという話をよく伺います。そのようなときには、変化球を投げて、楽しいアプローチも時にやってみたり、気付かないうちに皆を巻き込んでしまおうと考えていくと、ちょっと楽しみが出てきます。それで参加してくださった方が楽しんでくれて、「こういう由来で私たちの地域は暮らしていたんだね」とか「こういう災害のことがあったんだね」という感想が出てくると、また励みになっていくと思います。このように、いい循環を回していくために、直球、変化球を使い分けて、時に変化球で楽しくいろいろな仲間を増やし、時には命を守るために欠かせないところは直球でビシッとやる、そういった直球と変化球の使い分けをしていくと良いと思います。直球と変化球を使い分ければ、野球でもバッターを翻弄させることもできます。それと同様で、防災のアプローチも、直球、変化球と変化をもたらすことで、関わる人も楽しむことができ、メリハリをつけたり、仲間を増やすことができると考えています。

自主性を高める防災訓練

今年の2月に北海道釧路市の近くにある幼稚園を訪れた時に、ハッとさせられたことがありました。この幼稚園ではおよそ週1回、抜き打ちで避難訓練をしています。抜き打ちというのは園児にとっての抜き打ちではなくて、放送する教頭先生以外の先生に対しても抜き打ちです。私が訪れた時は、子どもたちはドッジボールをしていたり、小さいお子さんたちは、絵本を読み聞かせしてもらっているところでした。そこに突然緊急地震速報のチャイムが鳴ります。そこで子どもたちがサッと身をかがめて身を守る行動をして、その後園内の安全確認を先生方がして、そして教頭先生が「逃げろー、大津波警報が出ました、逃げろー」と言うと、子どもたちは一斉に走り出します。まず自分たちのコートを着て、帽子を被って、食糧が入ったリュックを背負って、外に出て走ります。冬の北海道ですので、気温は氷点下で、釧路は結構雪は少ないのですが、路面はツルツルです。私も子どもたちと一緒に転びそうになりながら一生懸命走ったのですが、子どもたちはとにかく一生懸命走ります。ツルツルした路面で滑って転んでしまっても、起き上がってまた走ったり、怖くて泣いてしまう子がいたら、ほかの子が励ましたり手をつないで一緒に走って逃げます。この避難訓練はわずか数分の間に高台まで走って逃げる訓練なのですが、見に行った私もまた同席されたほかの方も、皆目がウルウルしてしまって、わずか数分の間の避難行動の中に、子どもたちの人間としての素晴らしさがいたるところに垣間見えて、まるで本当に小さなドラマを見ているような、そんな感動を覚えました。子どもたちは訓練だとは思っていなくて、家に帰ると「今日も津波が来たよ」と言うらしいです。真剣に走って逃げる中で、子どもたちの成長が見えてくるようです。真冬の北海道では、室内のままの格好では逃げられないので、まずコートを羽織るのですが、この訓練を通して着替えが早くなったということです。幼稚園の先生によると、着替えができる子は自分のことはたいてい自分でできるそうで、これは自立の一つのステップとなります。また早く入園した子が自分よりも幼い子の手を引いて逃げるようになったりする、そういう優しさが芽生えたり、声を掛けて逃げるというような行動が見えるようになりました。その幼稚園はドッジボールの最中だろうが遠足の最中だろうが、運動会の練習の後であろうが、容赦なく走らせるらしいです。ある意味本当にスパルタですが、真剣に走ることを通して、基礎体力も向上したそうです。この幼稚園は海辺の近くにあり、子どもたちの命を守るために始めた訓練ですが、これを繰り返す中で、園児の成長につながっていったということです。このように防災の取り組みというのは、ただ命を守るためだけではなく、生活を豊かにしたり、人の成長を促すものにもつながるということを私自身も教えてもらいました。

この訓練を実施している幼稚園の先生たちにも、教育方針、教育観の変化をもたらせたそうです。子どもたちの可能性を先生方が見えるようになってきましたし、そういった訓練を通した子どもたちの成長を保護者の方も見ていくことで、家庭の中でも防災についての理解が深まっていきました。そういった防災の活動を通して、子どもたち、園児の生活成長だけではなく、ご家庭の防災力も高まることになりますし、子どもたちを通した生活の充実も見えてきたと伺っています。

2012年の冬に北海道の各地で大規模停電が何度か発生し、寒さに耐えながら自宅での生活を送られた方がたくさんいました。停電を耐え抜いた人たちは、ガスコンロでお湯を沸かしてペットボトルに詰めて、即席湯たんぽにして使ったり、ポータブルストーブを暖房に使ったり、キャンプ用のランタンを照明に使ったということです。これは、冬の備え、停電の備えをしていたから持っていたものではなく、もともと持っているものを防災の視点で見直すことで、いざというときに使うことができたということです。そういうものを備えておくことで、電気に頼りすぎない生活も送れるようになったし、いざというときの生活の幅が広がることになります。これは、先ほどお話しした「結果防災」だと思います。いざというときの自分の暮らしを見つめ直すことで、防災にも通じるし、暮らしを豊かにすることにもつながっていくと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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