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防災インタビューVol.122

子育て世代のための防災情報や知識

放送月:2015年11月
公開月:2016年6月

吉田 穂波 氏

国立保健医療科学院 主任研究官

赤ちゃん連れの家庭のための防災情報 「赤ちゃんとママを守る防災ノート」

東京にいました時に、3.11が起こりましたが、あっという間に周りのスーパーからお水や牛乳がなくなりました。私の親戚が遠くから心配しておむつを送ってくれたこともありました。東京は被災地から300キロ、400キロと離れておりましたが、それでもインフラも止まり、一種被災地のような感覚になったのを覚えています。その時、私は自分と子どもたちを守るために何の備えもしていなかったことに初めて気が付いて愕然としました。

私は、宮城県の30カ所、40カ所の避難所を回って、そこにいたお母さんたちから聞き取り調査を行い、海外のさまざまな文献を集めて、災害が起こったときに、子どもを持っているお母さんたちや家族にとって、こういうものがあればよかった、こういうものを用意しておけばよかったというものをまとめて「赤ちゃんとママを守る防災ノート」というパンフレットを作りました。これは、無料でWEBサイトからダウンロードできるようになっています。この中には被災地3県のお母さんたちから聞いた「これは絶対に平時から備えておこう」「準備しておこう」というものがたくさん詰まっています。よくスーパーなどで売っている避難袋には、水や乾パンが入っていますが、実際に子どもたちが乾パンを食べられるか、長い長い暗い夜をおもちゃもなく、飴やお菓子もなしで過ごせるのかなどと、現実的なことを考えて、この「赤ちゃんとママを守る防災ノート」を作りました。母子健康手帳、健康保険証のコピーを紙媒体で持っておくとか、おしりふき、スプーン、非常食、特にお子さんが食べられるような賞味期限が長いクッキーや飴などが必要だということで、そういうものを記載しています。

また、災害が起こったとき、私たち親は自分さえ子どものそばにいればと思いがちですが、職場にいたり、いろいろな事情で自分が子どものそばにいて子どもを守れないこともあるかと思います。「赤ちゃんとママを守る防災ノート」には、「発災時のサポーターズリスト」というページもありまして、自分が子どものそばにいられないときに、誰に子どもを頼むか、誰に迎えに行ってもらうのか、そしてどこで集合してもらうかということが細かく書けるような仕組みになっています。

私たちは、平時において、こういうものを用意しなくてはいけないと思っていても、問い掛けがないと、あるいは書き込み先がないと考えることができません。災害の時に冷静になるために自分自身でチェックして、「自分がどんなもので癒やされるのか」「自分がどういうもので平静心を取り戻せるのか」、あるいは「心のケアに必要なグッズ」や「母乳が止まってしまわないような工夫」など、日ごろ安心して暮らせるときにそれを書いておきますと、災害の時に大きな備えになると思います。

赤ちゃんをお持ちの方は、毎日本当に忙しいので、防災のことまでは考えられないという方が多いのですが、例えば「携帯電話が水没したら、情報手段がなくなってしまうな」と考えれば、ご自分の携帯電話の中の連絡先を紙媒体にしておいたり、あるいはスキャンしてクラウド上にアップしたり、ウェブメールにアップしておくということは、本当に5分、10分あればできることですので、ぜひやっておいていただければと思います。この「赤ちゃんとママを守る防災ノート」を見ながら、そこに書いてある「こんなことをしてみましょう」「こんなことはどうですか」というのを参考にしながら、いろいろ気付きのきっかけにしていただければと思っています。国立保健医療科学院の生涯健康研究部というページに私の研究WEBページがございまして、そのWEBサイトから「赤ちゃんとママを守る防災ノート」というものをみつけていただきますと、PDFでダウンロードすることができます。とてもかわいらしいデザインになっていますので、ぜひお使いいただいて、またご批判、ご意見など頂ければと思っています。

妊婦さんと赤ちゃんを守るために

子どもを持つ家庭に対する防災情報や知識の提供がもっともっとあればと思うことがありまして、私自身、実は東日本大震災で被災地支援の経験をして、改めて勉強を始めました。国際基準として、災害の時に妊婦さんや赤ちゃんを守るために、どんなことが決められていて、どんなことが分かっているのかを調べていたら「ソフィア プロジェクト」というハンドブックに突き当たりました。これには、全世界で何百カ国もの方が集まって、災害の時に子どもを守るにはどうしたらいいかということを含め、災害対応について書いてあります。そこでは、子どもや授乳中のお母さん、妊婦さんは、災害の際に犠牲になりやすいということが分かっているので、優先的に配慮をして、温かい栄養のあるものを与えられる安全な場所にまず避難させなければならないということが書かれています。私は、それまではこのようなことを知りませんでしたので、愕然といたしました。

実は実際に災害の時に、妊婦さん、子どもがどれだけ犠牲になったのかは、なかなか分からないままになっておりますが、阪神大震災の時の調査を私が掘り返してみましたら、やはり激震地区では、ある程度、一定数の妊婦さんが亡くなっていたことが分かりました。しかしながら、災害の時の犠牲者の中には、妊婦か妊婦でないかというチェック項目がありませんでしたので、実は今回の3.11でも、多数の妊婦さんが亡くなっているはずなのに、その数が見えていないということがありました。私は今、国の研究機関におりますので、国のナショナルデータベース、ビッグデータを活用しまして、この3月11日、東日本大震災では、たった1日で72名の赤ちゃんが亡くなっており、これは平時の11倍だったという事実を突き止めまして、すごくショックを受けました。それを私たちはなんとかすることができなかったのか。溺死、津波被害というのは、もちろん人の力が及ばない範囲もありますが、なんとか地域で、あるいは医療で、行政で守れる部分がないのかというのが、私の強いモチベーションになっています。また、国際的な基準では、災害時に母子を真っ先に避難させるということが決まっていますが、日本の実情に合わせて、避難させる先はどんな所がいいのか、大学なのか、児童館なのか、あるいは公園のような所なのか、これを地域の実情に合わせて地域の人たちと考えていく、その場づくりが必要だと思いました。

私は、東日本大震災の際に、宮城県、岩手県、福島県のお母さん、子どもたちからたくさんのことを学びましたので、それを次の世代に伝えていかなければ、自分は死ねないと思いまして、さまざまな啓発パンフレットも作っています。特に子どもの心のケアに関しましても、今回の災害まではあまり知られていませんでしたが、子どももやはり災害でダメージを受けます。その心のダメージの様子をどうやって評価したらいいのかというチェックリストや、子どもの災害による心のダメージが、体や行動のどんな部分に出てくるのかという評価リストなども保健士さん、助産師さんと一緒に作って配布しています。このような知見は科学的な根拠がないとなかなか行政のほうには取り入れられないということがありますので、たくさんの論文や新聞記事、いろいろなメディアの方々のお力を借りて、正しい情報をきちんと伝えるというところに力を尽くしたいと思っています。

子育て世代を巻き込んだ地域防災訓練

私自身、5人の子どもを育てながら、地域の皆さまのお世話になって、なんとか生活している中で、地域の中で、社会全体で子どもを育てるということの重要性を痛感してまいりました。私や夫、親だけで子育てをしようと思っても何ともならないことがございますが、地域や社会の人たちの力や協力があると、とても楽しく子育てをすることができます。そういうような中で、子育て世代も一緒になってできるような防災訓練、避難訓練がないものかと思ってまいりました。

私が住んでいる自治体では、非常に熱い行政マン、育メンのパパ行政官の方もたくさんいまして、そういう方々と子育て世代のための防災訓練や意識の啓発、避難所運営研修などのお話をしましたところ、大変乗り気になってくださって「子育て世代も一緒になって、巻き込んで防災訓練や防災事業をしよう」ということになりました。これが全国10カ所、20カ所と広がっている「災害時母子避難所事業」というものです。例えば世田谷区では、母子向けの避難啓発パンフレットや防災情報パンフレットなどを作るだけでなく、子育て中の方、妊婦さん、行政官、医療従事者、中学生、高校生などが一緒になって「災害時に避難所で、あなたが妊婦さんを見たらどうしますか?」「赤ちゃんがいたらどうしますか?」というようなシミュレーショントレーニングをしています。世田谷区と同じように北区、福島県をはじめ、たくさんの自治体がこのような取り組みを始めています。私がそこでお手伝いをして感じたのは、このような取り組みというのは、いろいろな組織の方を横断的につないで、それぞれの方々の優しさを引き出す、そういうキーワードになるなということです。

例えば、われわれ医療者や研究者、行政、民間企業の方は、平時の段階ではお互い仕事での接点などはありませんが、一旦防災、災害対応、危機管理、子どもを守るというような共通のキーワードでくくられますと、みんなが出会って、一緒に研修をして、そして顔の見える関係をつくって、腹を割って話して、友だちをつくっていきます。私は、それまで災害の専門家ではありませんでしたが、この災害とか防災とか、そういうちょっと人の背中をシャキッとさせるような、こういうキーワードがありますと、それまであまり接点のなかった子育て世代や行政、医療従事者、保健士さん、保健所の方とか、いろいろな方々の出会いの場を作れるなと感じました。

今現在たくさんの事業所や自治体で、このような災害時母子救護研修を行っていますが、みんなとっても楽しそうです。私は今、保健士さん、医師、行政官のための研修、教育の仕事についておりますが、成人教育の基本はアクティブラーニング、耳で聞いたことだけでは5%しか残りませんが、自分の体や手や頭を実際に動かして学ぶと、50%、60%身に付くということが分かっています。そして、自分が人に教えることで定着度が90%にアップすることが分かっています。そのため私は、地域のみなさんと研修する際に、体を動かして、頭を動かして、声を出して動く、そういうシミュレーショントレーニング「避難所運営ゲーム」というものを静岡県の専門家の方々と一緒に開発しました。各地域の実情に合わせて、シミュレーショントレーニングをしながら、実際の災害現場を疑似体験して、お互いに助け合うというような取り組みを現在進めています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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