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防災インタビューVol.122

子育て世代のための防災情報や知識

放送月:2015年11月
公開月:2016年6月

吉田 穂波 氏

国立保健医療科学院 主任研究官

少子高齢化先進国・災害先進国の日本から世界へ伝えたいこと

阪神大震災と東日本大震災を研究してきて、一つ確信したことがあります。妊産婦さんに対する災害対応が今後改善されるかについては、なかなか見通しが明るくはないのではないかということです。どうしていざというときに次世代、赤ちゃん、妊婦さんが優先されないかというと、子どもの割合、15歳以下の割合が世界最低の12.8%となってしまった日本では、やはり災害の時にまず助けるべきはマジョリティーの人々、負傷者、高齢者、障害者のほうに行ってしまって、非常に少ない妊婦さんや赤ちゃんには目がいかないんじゃないかということを痛感したからです。

東日本大震災後の被災地で産婦人科医として回った時も思ったのですが、500人、1000人避難民がいる避難所の中で妊婦さんたちは肩を寄せ合って、ちょっと心細そうに過ごしていました。でもその時も10人、20人と妊婦さんだけ、あるいは子ども連れだけの避難所に集まれば、お互い気遣い合い、シェアし合い、支え合いながら暮らしていくことができます。全体の中では少数かもしれない妊婦さんや赤ちゃんですので、もっと大事なことがあると言われてしまうと優先できないのですが、もし各自治体で1カ所でも、2カ所でも、妊婦さん、赤ちゃんだけを集める所があれば、支援も情報もすべてそこに送ればいいわけです。ここの避難所にはMサイズのおむつがあるけれど、こっちの避難所にはSサイズしかないということも起こらずに、支援する側も支援を受ける側も効率がいいですし、数のパワーでは勝てませんけれど、一カ所に集めることでもっと効率的な助け方ができるのではないかと思いました。

日本は今世界で一番少子化高齢化が進んでいます。皆さんもご存じかもしれませんが、気候の温暖化に従って、日本だけでなく世界中で自然災害が増えています。この前の関東の水害のように、あのような規模の災害がこれからも後を絶たないということが分かっています。そういう時に赤ちゃん、妊婦さんを見かけることがほとんどなくなった地方の地域で、本当に貴重な妊婦さん、赤ちゃんを守るためには、やはり事前からどうやってこの地域で災害の時に守るのか、どこに集めるのか、どうやって助けるのかという取り決めが必要だと感じています。その取り決めだけでなく、前回お話ししましたような研修や人と人の顔が見えるような関係づくりをして、腹を割って話せるような、そういうような訓練の内容を地域ごとに展開していくことができれば、もしかしたら、日本が世界に誇れるような、日本が世界に輸出できるような日本モデルとなっていくのではないかと思います。地球の裏側のアフリカで水害が起こったり、あるいはもっと遠くで地震、津波が起こったときに、日本が世界に貢献できるひとつのなにか無形遺産になるのではないかと思っています。

私は今、国の公務員として働いていますので、国民の皆さまに、私が東日本で得たこと、あるいは研究や調査で分かったことをどんどん、どんどん還元したいと思っています。研究機関のwebサイトに、見つかったことや新しくできたものは適宜アップしていきますし、それだけでなく、このラジオ番組をお聞きの皆さんの元に飛んでいって一緒に考えたり、勉強会をしたり、検証をしたりということをしたいと思っています。そこで皆さまから教えていただいたことが、きっといつか世界のどこかで役に立つようなものとして輸出できるのではないかと思っており、これが私の今の楽しみです。

未来につながる命をみんなで守る

私は2012年から多数の自治体と共同で、災害のときに妊婦さんや赤ちゃんをどのように守るのかという勉強会、研修、訓練などを重ねてまいりました。例えば文京区の跡見学園女子大学では、年に1回必ず学生さん、行政の方、助産士さん、みんなが集まって訓練をしています。また2015年12月23日には宮城県石巻市の石巻赤十字病院で医療関係者、行政、保育士、その他さまざまな職種の方が集まって、災害時の妊産婦救護研修というものが大々的に行われます。このような研修のお手伝いをして、調査研究を繰り返してきた中で、やはり「災害」というキーワードが平時から子育て支援のための連帯を強めることを確信しています。それまでは、つながりのなかった組織の方々が顔を見あわせながら、子どもたちのことを考え、初めてこの地域の分娩数を知り、この地域の赤ちゃんはどこで生まれて、誰がケアをして、どんな病院があって、どんな体制が敷かれていてということを考える、すごくいいきっかけになっていると感じます。

このような準備が、明日、または1年後、10年後、いつか必ず起こる災害のときに、貴重な新しい命を救うのではないかと確信しています。未来のある貴重な次世代というのは、その一人一人の命から、また新しい命が生まれて、また新しい世代が生まれて、樹形図のようにつながる、本当に大切な命で、その地域の未来の希望につながるような存在ですので、そのような赤ちゃん、妊婦さんをどのようにして地域で守っていくのか、平時から訓練を重ねることで、その土地に住む妊婦さんが「ああ、私たち、いていいんだ。私たちはこの地域に受け入れられているんだ。守ってもらえるんだ」という安心感を得て、土地への愛着を感じることにつながればと思っています。

このように私は3.11で大きな教訓を頂きました。今までの研修、今回のラジオの放送を通じて、私の被災経験や学んだことを皆さま方と共有できたことを本当に感謝しています。そして、今までの、そしてこれからの経験値を蓄積することによって、お聞きの皆さま方の地域のお子さん、そして未来、将来がますます明るくなるようにと願っています。

災害が起こったときに妊婦さんをどうするか、赤ちゃんをどうするかを、地域の人たちが考え、決め、練習をするということももちろんですが、私たち産婦人科医も、自分たちが病院から出ていってサービスを出前する、妊婦さんたちを助けに行くというだけではなく、自分たち以外にも妊婦さん、赤ちゃんのケアができる人をたくさん育てるということがこれからは求められていると感じます。例えば、今現在では、全国で5000人ほどの受講生がいるAdvanced Life Support in Obstetrics(ALSO)という研修があり、私もインストラクターをしています。消防士さん、保健士さん、家庭医さん、救急外科の先生、そのような命を守る第一線で働いていらっしゃる方々に向けて、「妊婦さんにはこのようなケアをしましょう」「赤ちゃんがもし被災地や避難所で生まれてしまったら、まずこの対応をしましょう」というようなことをトレーニングしています。産婦人科医は非常に少ないですから、私たちだけで妊婦さん、赤ちゃんを守るというのではなく、たくさんの方々の協力を得て、みんなで災害の時に貴重な次世代を守るというようなプロジェクトが本当に必要なのではないかと思っています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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