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防災インタビューVol.122

子育て世代のための防災情報や知識

放送月:2015年11月
公開月:2016年6月

吉田 穂波 氏

国立保健医療科学院 主任研究官

ゲームを通したアクティブ・ラーニング

まず「もし災害が起こったときに、自分の地域に妊婦さんがどれだけいるのか、赤ちゃんがどれだけいるのか、そしてその妊婦さんや赤ちゃんの自宅が流されてしまったり、つぶれてしまったりしたときに、その人たちはどこに行くのか」というのをちょっと想像してみてください。赤ちゃんを連れて、たくさんの荷物も抱えて、寒空にいるわけにもいかない。一番心細い、デリケートな存在の妊婦さんやお母さんや赤ちゃんのことですが、私は、一つの自治体でそのような問いかけを、行政の方、保健士の方、医療従事者の方と一緒に考えてみました。

まずは、皆さんに「この自治体では、この女子大学で、この母子を引き受けましょう。支えましょう」あるいは、「この児童館に困っている母子がいたら来てもらいましょう」という仮の設定をしてもらいます。その児童館、その女子大学の1/10、1/20の大きさに印刷した図面をみんなの前に広げて、カードゲームをします。例えば、カードゲームでは、4人家族で奥様が今妊娠後期で、なんだかお腹が張っていて不安で来ましたという方や、親を亡くした震災孤児の5歳と3歳のお子さんが2人で手をつないで来ました、自閉症気味でなかなか集団生活には耐えられないと思って、普通の避難所ではなく、こちらの母子、あるいは子どもの対応ができるような避難所に来ました、という方が出てきます。そういうように困っている子どもたち、困っているお母さんたち、困っている妊婦さんたちがもし、あなたの近くの避難所、あるいは児童館、大学に来たときに、「あなたはどういうふうにしますか?」という設定で、次々に避難民がやってきたり、次々に「こんなことが起こりました。あなたはどうしますか?」という問いかけのカードゲームをすることで疑似体験をしてもらうという研修をしています。

このシミュレーションゲームだけですと、バタバタあたふたして、どうすればいいのかが分からなかったというように、もやもやが残ります。例えば「ペットを連れてきちゃった。一緒にしていいの?」、例えば「子どもだけで親がいない。そういう子たちは誰と一緒にしたらいいの?」、そのようなことをいろいろ頭を使って、グループみんなで話し合って考えてもらいながら、その後に、振り返りということをするんですが、「ご自分の地域で、まさに災害の時にこんなことが起こったら、今できることはありますか?」「今決めておけるルールはありますか?」「今決めておける役割はありますか?」というようなことをたくさん口に出してもらいます。そしてその中から「じゃあ、この体育館の中に、一応こういう取り決めを決めて書いておこう」とか、「妊婦さん、あるいは子どもさんは、この判断基準で部屋を開けよう」「この判断基準でこういう方だったら、もうすぐに救護所、あるいは病院に送ろう」という事前の取り決めができます。このような研修を繰り返しますと、その地域、地域で独自に災害のときの母子救護マニュアルというものができますし、このゲームを通じてできたポスター、ルール、役割などをそのまま防災の時のアクションカードの中に入れ込むことができます。

ゲームをしてあたふたして、バタバタして「災害の時って怖い、どうしたらいいかが分からない」というふうにパニックに陥るだけでなく、このゲームの後の振り返りの時間をたっぷりとって「じゃあ、今回はシミュレーションだったから良かったけれども、本当にこんなことが起こったら、私たちはどうしたらいいんだろう、どんなことを事前に決めておいたらいいんだろう」ということを話し合って、地域の意見の抽出といいますか、エッセンスを絞り出してマニュアルを作る、そこまでが研修の目的だと思っています。

そういうものを体験された後には、皆さん、本当に戦友のような感じで、友だちになって帰られますので、そういうアクティブ・ラーニングの場が、大人に対しても非常にいい効果を及ぼすと実感しているところです。

妊婦さんのための防災意識啓発

最近は、私たちの周りには妊婦さんが少なくなってきました。今全人口の0.8%しか妊婦さんがいなくなりましたし、子育て世代はほとんど都市部に流入して、半数以上は都市部に住んでおり、ほとんどが核家族ということが分かっています。そういう孤立しがちな妊婦さんだからこそ、災害の時の備えを自分でしておく、自助力を高めることが、災害の時に妊婦さんたちが犠牲にならない、一つの方法ではないかと思っています。

例えば、妊娠中はつわりがあったり、虫歯になりやすくなったり、長時間立っていると腰痛が出やすくなったり、便秘になりやすくなったり、妊娠期の特徴というものがありますので、一般的に備えている防災バッグでは足りないところがあります。例えば、妊娠中ならば、その方々に合わせた薬、サプリメント、アロマセラピーですとか、ご自分の心をリラックスさせるようなもの、いろいろなものを避難バッグ、避難リュックに入れておく必要があります。また先般の東日本大震災では、母子手帳が流されて、自分の妊娠経過が分からなくなってしまったという方が数多くいました。そのような時に備えて、自分の母子手帳の情報を写真に撮っておく、あるいはスキャンしてWEBメールで自分宛てに送っておく、スカイプやLINEなど、どこかクラウド上に保存しておくということが求められます。実際に、携帯電話がなくなって、連絡手段がなくなって、情報が取れなくなって非常に不安だったという妊婦さんもいました。携帯電話や普通の電話が通じないときに備えて、他の方法、例えばスカイプやインターネット上の情報網など、いろいろなものを準備して練習しておく必要もあります。また非常食、離乳食、水など、ちょっと食の味覚が変わって受け付けなくなるということもありますので、今自分が好きなもの、今自分が食べられるものを妊娠中に選んでおくことも必要だと思います。

また、災害時にお産ができる病院がなくて、とても困ったという妊婦さんを宮城県でたくさん見ました。震災後に300人くらいの妊婦さんに調査をしたのですが、その中の2、3割の方は、なかなか分娩できる病院が見つからなくて、宮城県の中でも3カ所、4カ所転々としたということを聞きました。ですので、災害の時、自分の病院は大丈夫なのか、動いているのか、それを確認する方法や、自分の病院や個人の開業医さんがダウンしてしまったときに、一番近くでお産を取ってくれそうな大きな災害拠点病院はどこかというのを調べておくのも大事なことだと思います。

あと「ご自分の体はご自分で守る」という心構えも必要です。例えば、妊婦さんでしたら、おなかが痛い、おなかがキューっと硬く張る、破水したような、ジャーっとお水が流れたような感じがする、あるいは生理のような出血がある、赤ちゃんが動かない、あるいは動きが少なくなった気がする、めまいがある、むくみがある、そのような少しいつもとは違うなというような兆候があったときに、なかなか避難所、あるいは避難中では家族、周囲の方に気兼ねして言い出しにくいのですが、こういうことがあったら、必ず手を挙げて知らせてください、必ず救護班の方に申し出てくださいということも話しています。今現在、全国何十カ所で妊婦さん向けの防災啓発講演というのをやっておりますが、その内容も「赤ちゃんとママを守る防災ノート」に書いてあります。これは国立保健医療科学院の生涯健康研究部、私の所属しているところのWEBサイトから無料でダウンロードできますので、ぜひ妊婦さんを周囲にお持ちの方々、これから妊娠するかもしれないという方々は、これらの妊婦さん向けの防災ツール、防災ノートをダウンロードして、いつも手元に置いていただいて、「自分で自分を守ることもできるんだ」ということを思い出していただければと思います。

「受援力」のすすめ

私自身が5回の妊娠を通じて感じたことは、妊婦さんは「周りから愛されている」「労わられている」「周りからウェルカムだと思われている」というのが大きな心の支えになるということでした。ついつい妊娠中は、私もそうでしたが、なんとなく周りに気兼ねしてしまったり、周りの人に気を使わせまいとしてしまったり、ちょっと無理をして重いものを運んだり「助けてください」「これを手伝ってください」と言うことがなかなかしにくかった覚えがあります。

東日本大震災で、私が何十カ所も避難所を回った時もほとんどの妊婦さんは「もっと大変な人がいるのでその人たちのところに行ってください」「私なんかまだ生きているだけでましなほうなのです」と言って、本当はすごくつらくて、寒くて、ひもじいはずですけれども、なかなか「助けて」「困っている」と言えないような状況です。私もその気持ちはすごくよく分かるのですが、お二人分の命を抱えているので、なんでもいいからとにかく頼ってほしいと思います。

妊婦さん自身は助けられるだけでは、ちょっと居心地が悪そうだったのですが、お互いにママ友同士で情報交換したり「先生、私にもこのお薬をくださって、とってもありがたかったので、ママ友のこの子も妊娠しているので、この子のところにも行ってください」とか「この子にも情報をあげたいので、この子にも教えてください」とか、他の人の役に立つことで、自分の自尊心、自信を取り戻しているようにも感じました。私たちは、平時でも人に頼ることや助けを求めることに対して、なんとなく気恥ずかしくなったり、ちょっと格好悪いなと思ったりしてしまいがちですが、人から頼られるととてもうれしいです。そのことを私はいま子どもたちを通じて見せてもらっています。子どもたちも本当に素直に人に助けを求めますし、それでできなかったことができるようになり、次にまた下の子たちのために何か役に立つ、そういう過程を繰り返して成長していきますけれども、私たち子育て世代こそ、この「助けて」と言って、人の力を借りてできるようになって、また他の人の役に立つという、こういうサイクルが必要なのではないかと思いました。

このように、妊婦さんたちから教えていただいたことを「受援力のすすめ」というパンフレットにして、こちらも私の研究機関のWEBサイトからダウンロードできるようにしてあります。この「受援力」というのは、内閣府が2010年に作りだした言葉で、私はこれはすごくいい言葉だと思います。日本人はガツガツと交渉したり「助けて、助けて」と言ったり、「自分が、自分が」と言って自己中心的になるのをちょっとみっともないと思うきらいがありますけれども、助けてもらうとき、あるいは誰かに何か力を貸してもらうときにそれを素直に受け取る、「ここの席空いていますよ、どうぞ」と言われたら「いいんです、いいんです」じゃなくて「ありがとうございます」と言って座る。あなたは妊婦さんなんだから、二人分食べてね」と言われたら「いいんです、いいんです」じゃなくて、ありがたく頂くというような、この「受援力」というのは、地域がボランティアを受け入れるときだけでなく、子育て中、あるいは若者すべてに必要な力ではないかと思いました。

私は東日本大震災の直前までアメリカに留学しておりまして、本当にたくさんの何百人、何千人もの人の力を借りて、やっとなんとか卒業したものですから、やはり人の力を借りなければ人はやっていけないということ、そして受援力、自分が誰かに助けられることで、その助けた人にも喜びを与えているということ、誰かの役に立つということで、相手の幸せにもなるし、相手の自信もつくし、相手の健康にも寄与しているんだということをもっと広めなければ、なかなか子育て世代、妊婦さん、若者は災害の時に助けを求められないなと思いました。今日本では20代、30代の死因の第1位が自殺ですけれども、やはり妊婦さんだけでなく、「助けて」と言えないことが原因になっている気がします。私はそのことを東日本大震災で教えてもらいました。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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