プロフィール
東京の岡本正総合法律事務所で弁護士をしている岡本正と申します。弁護士の他に、大学で教授としても教えています。また、マンション管理士や防災士として、防災やコミュニティに関わるような仕事もしています。
弁護士と防災
弁護士が防災をやるというのはあまり聞き慣れないことだと思いますが、きっかけはやはり3月11日、5年前の日に戻ることになります。所属していた弁護士事務所から、国の機関である内閣府に出向して、官僚として仕事をしている部屋で、私は震災を迎えました。その揺れた瞬間も弁護士でしたけれど、特に何か担当があったわけでもありませんし、国の中で役割があったわけでもなかったので、防災という分野は、お医者さまや自衛隊、警察、消防の方の分野であろうと思っていたぐらいで、まさか弁護士として、それから今日に至る5年間の間、防災や復興に関わることになるとは、当時は夢にも思っていなかったというのが正直なところです。
3.11の後、1週間もしないうちから、岩手や沿岸部の被災地の弁護士さんたちは、避難所に自分で出向いて行って「何か困っていることや分からない情報はありませんか?」ということを聞いて回って法律相談を受けたところ、これが大変な反響を得ました。この時初めて、弁護士は災害後に無料の法律相談をしたり、情報の提供をすることで、被災地の役に立てるのだということを、東京にいながら知ることができました。この後、日本弁護士連合会や各地の県の弁護士会、東京都の弁護士会などが動きまして、被災地の無料法律相談の活動を大規模にやり始めたことを聞きました。私も何か活動をできないかと思っていたところに、弁護士も被災地での相談活動や、情報提供活動において活躍ができ、役に立つことを知り、少しずつ防災あるいは復興と弁護士ということを考えるようになりました。
ただそこには、一つ課題がありました。弁護士は現地に行って活動するということは非常に得意なのですが、被災された方や企業の皆さんの悩みを聞いたその声を、なかなかまとめる時間がなかったという、そういう新しい課題にも気付きました。3月の終わりから4月の初め頃にどれぐらいの相談がたまってしまって、そのままになってしまっているかを調査したところ、手書きのカルテのような状態になったままのものが、3000~4000枚もありました。それぐらいマンパワーが足りなかったわけですが、私は当時、国の中にもいましたし、経験もありましたので、困っている方の声を何とかまとめることはできないかということで、駄目もとで弁護士会や日弁連に提言したところ受け入れられまして、全国の法律相談を集めて、リアルタイムで分析して、どこが困っていて、どんな支援策があるのか、不足している支援策は何かということをメディアや政府に理解してもらうような活動、提案、提言を担うようになりました。
災害時に「希望」を見い出すために
被災地での法律相談と言っても、皆さん、理路整然とした課題をもって相談に来るわけではなく、「津波や地震で家がなくなってしまった」「働く先も今は稼働していないにもかかわらず、お金の支払いはしなければならない」「自営業で運転資金もたくさん出ていってしまう中でどうやって生活を立て直していけばいいのかわからない」ということから、そもそも何からどうしたらいいのか、どこに行けばいいのかも分からないという、声にならないような悲痛な声も、本当にたくさん出てきていました。それこそ避難所でうずくまってしまうような方々の話を少しずつ少しずつ聞いていって、これからどうしていったらいいのかを一緒に考えたり、被災後に立ち直るための知識や、生活を再建する知恵のようなものをお知らせして、災害時に立ち直るひとつの希望のきっかけにしてもらうことで、弁護士も大きな役割を果たすことができました。
例えば、震災で家がなくなってしまったときに、自分が被災した被災者だということを証明するのも大変です。まずは罹災証明書というものを入手することが、支援につながるということも、最初は発想が出てこないものです。われわれは、東日本大震災の現場や電話相談などで、被災されたその直後から、実は先ほど言ったようにお金の話や住まいの話、仕事の話、場合によっては亡くなってしまったご遺族の話などを聞きながら、その方がそういう絶望の中にあっても、少しでも希望を持てるような情報の種と言いますか、希望の光を少しでも伝えたいと思って活動してきました。例えばその一つが罹災証明書であり、それに準じてつながっていくさまざまな支援策であると思います。このことをその時になって初めて聞くのではなく、事前の自分たちの生活の延長上にそういうものがあることを知らせること、それこそが防災と弁護士の役割ではないかと思っています。