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防災インタビューVol.132

地域を守り、会社を守るためのBCP

放送月:2016年9月
公開月:2017年4月

中澤 幸介 氏

新建新聞社取締役、リスク管理.com編集長

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

地域を継続させる ~BCPとDCP~

事業の継続「BCP」に対して、地域を継続させることを「ディストリクトコンテュニティプラン」、「DCP」という言い方をしますが、とかく各企業は、自分の事業を継続するということは、地域の継続にもつながると考えています。これは当然各企業がそれぞれの役割を達成するわけなので、地域としては、例えば通信の会社がしっかりと通信を維持してくれたり、道路の会社が道路をしっかり通れるようにしてくれたりということが地域継続につながるということは間違いないですが、一方で考えなくてはいけないのは、各企業が自分たちの事業の継続のことだけを考えるがあまりに、地域に負荷をかけてしまうということも起こり得るということです。

熊本地震でもありましたが、ある報道機関が自分たちの中継車両を走らせるために燃料が足りなくなって、長い列に割り込んで燃料を入れてしまったということが問題視されましたが、これは会社としての対応ではなく、一社員が行った行動だとしても、やはり地域から見れば「あの会社は自分たちの事業を継続するために地域に負担を掛けた」とか、逆にいうと地域に迷惑を掛けているのではないかと見られてしまっても仕方がないことだと思います。あるいは、小さな事業所で、備蓄をしていなかったが故に災害直後に食事を買い溜めたり、あるいは燃料を買い溜めるということがあったとしたら、やはりこれも周辺の地域の方々に迷惑を掛けるのだということをしっかり企業としては考えておかなくてはいけません。「木を見て、森を見る」というような言い方をすれば分かりやすいのかもしれませんが、自分の会社のことをしっかり考えるとともに、地域全体にどのような影響を与えているのか、地域全体にとっていいことなのかということも考えておかないと、その場の災害対応のその瞬間は乗り切ることができても、後から、「あの会社は災害の時にこんなことをしていたよね」というようなことを言われてしまって、会社としては決していい方向に向かないことも起こり得るということを、特に経営者は頭の片隅に入れておくべきではないかと思います。

地域と共に生きる企業 ~地域を守り、地域に守られる~

地域と企業の関係ということで言いますと、会社がやっている間、事業時間中でしたら社員を守るのは会社の役目かもしれませんが、休みであったり夜間であったり、会社にいないときに災害が起きた場合、社員を守ってくれる場所はどこかというと、やはり地域の避難所、地域の安全な場所にまずは安全確保で逃げ込むわけです。逆の考え方をすると、地域が社員を守ってくれているというふうに私は思います。ですので、その地域を会社として守るということは、これは共助ではなくて、企業の自助、企業として当然のメリットを感じて地域を守っているのではないかと思っています。

今回の地震では益城町にある再春館製薬という有名な化粧品を作っている会社が大きな被災をしました。そうした中でも、この会社が今何をやっているかというと、社員から有志を募って、地域の避難所を回って被災者のケアをしています。これは強制でもなんでもなくて、やりたい方々に手を挙げてもらって、そういう活動をしているのですが、それは「熊本という地域で支えられてきて、今まで社員を守ってもらってきて、そこのご恩返しをするというのは当然のことだ」と彼らは言っています。「何かをしてあげる」というよりは「いつも守ってくれてありがとう」という気持ちで、避難所を今回っていろいろな支援活動を行っているということです。

このように、会社が災害時にどのような対応を取るかということは、地域にやはり大きく関わってきます。社員全部が避難所に行っても、やはり地域に負担を掛けますし、自分の社員をしっかり守ることができれば、それだけ地域への負荷というものは減ってくるということをしっかりと考えなくてはいけないと思います。

BCPの達成のために

いろいろな側面から言えると思いますが、一つはBCPというものの実行性が大切で、絵に描いた餅にするのではなく、しっかりとそれが動かせるように、一つ一つを検証していくことが大事です。それから、やはりBCPを達成するためには、何と言ってもまず社員を守ることが大切です。社員が自分で自分の防災に努めることはもちろんですが、会社が社員を守れなければ、それだけ地域に対する負荷というものを掛けてしまうことになりますし、社員を守れなければ、結局は自分たちの事業を行うリソースが減ってしまって、事業が継続できなくなるという原則を、各企業も考えておかなくてはいけないと思います。そういう意味では、社員に全部任せるのではなくて、社員一人一人に防災意識、BCPの意識をもう一度徹底して根付かせてもらうための施策を、各企業としてぜひ取り組んでほしいと思います。

熊本の企業の話を聞いていると、いまだに社員のケアというのは非常に大変だと言われます。まだ避難所生活をされていて、そこから通っているという方も多いのですが、例えば工務店では、いまだに屋根の工事など、仕事量がとても多くなっていて、自分たちが普通の生活を取り戻せていない中で、どんどん仕事量が増えている、いつまでこんな状況が続くんだろうという出口が見えない状況というものが、社員の負担になっていると聞きます。やはりこういうことに対して重要なのは、出口をしっかりと見せてあげる、いつまでもこういう状況が続くのか、いつぐらいまでに平時化に戻すのか、こういうことをしっかりと社員に伝えて災害対応に当たっていくということが重要だと思いますし、簡単なことを言えば、どれだけの手当を出すのかとか、そういうときの特別休暇をどうするかを平時からある程度考えたほうがいいということを改めて感じました。

そうは言っても社員一人一人の能力というものが、災害時には非常に求められるものだということは今回分かった点であり、いろいろな所で人手が足りなくなると、一人の社員がいろいろなことをやっていかなくてはいけないわけです。例えば工務店のアネシスでは、社員が被災した各住宅を回って、自分たちでできる修理は工具を持って行って、水道管のつなぎ替え工事などを行っていたそうです。工務店だから当たり前と思うかもしれませんが、今工務店の多くは、職人は外注に出していて、社員は管理業ということで、実際に工具を持って作業をすることはあまりないのですが、このように、一人がいろいろなことができるのを多能工という言い方をしますけれど、やはり災害時にはこういう多能工が非常に有効になってきます。この多能工を多く抱えるためには、やはり平時からイレギュラーなことにも対応できるように意識を持って仕事をしなくてはいけません。アネシスでは、年に1回顧客サービスとして、やはり社員を全てのお客さんのところに回らせて、自分たちでできることは自分たちでやるということにしており、これが、この組織の文化になっているのでできたということだと思います。こういう社員を大切にすることは、当然会社にとってもかけがえのないことだと捉え、社員のケアにも努めていることが成功につながっていると思います。BCPにはこのように、さまざまな切り口がありますが、皆さんも平時から常に災害に備えて、考えていただければと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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