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防災インタビューVol.132

地域を守り、会社を守るためのBCP

放送月:2016年9月
公開月:2017年4月

中澤 幸介 氏

新建新聞社取締役、リスク管理.com編集長

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

連携のための共通認識の必要性

本社と現地、あるいは本部と現地、あるいは外の支援と現地の連携とか、いろいろな連携の姿があるわけですが、災害対応でやはり一番現地の状況が分かっているのは、本部や本社の人間ではなくて現地で災害に直面している人です。何が必要か、どういうことをしなくてはいけないかということは、現地が分かっているとすれば、それに対して本社側がいろいろ指示命令を出すのではなくて、現地の判断を尊重して、何をどうやれば現地を支援できるのか、どうやれば現地の負担が軽くなるのか、どうすれば現地のためになるのかということを考えて、指示ではなくてサポートするという観点に立って、現地の心をおもんばかるということが重要ではないかと思います。

もうひとつ、本社では現地の土地勘がないということもありますので、現地の状況を本社側がしっかりと把握するためにも、例えば簡単なことですけれど、土地の名称とか地図をお互いに見られるようにしたり、統一の物差し、一つの物差しで両方の状況が分かるというような、標準的なルールというものをお互いに事前に決めておくということがポイントになるのではないかと思います。

例えば、これは本社の中ならほとんどないことですが、外部から人が来ると、役職の名前だけでは、どちらの人が上なのか下なのかも分からないということもあります。特に工場の名称や地区の名称と場所がよく分からなかったり、住所を見せられても現地は被災してボロボロになっていると「何番地の何とかに行ってくれ」と言ってもなかなか行けないことも多いです。そういう時にお互いに分かるような地図があると助かります。もっと対策が進んでいる企業ですと、地図の上にグリット線という縦と横の線を引いて、番地を言わなくてもAの3番だとか、Bの4番の地点だとか、そういうことを本社側と現地でお互いに共通で話せるようにしておくというのも一つの工夫としてあります。

今システムもいろいろ発達してきて、GISとGPSを使ったようなもので、位置が分かるようなツールもいろいろ出てきていますけれど、そういうことを必ずしもしなくても、工夫次第でお互いに今どこで何が必要なのか、どういうことをやっているのかというものを共通理解として可視化することはできるのかなと思います。

現地と本社の連携の一つの例として、イオンの体制が挙げられます。被災した店舗において、販売活動を継続できるかどうかの判断は、やはり現地しか分からないということで、各店長が自分の店舗の状況などを見て判断することになっています。当然店長として何の商品を販売しなくてはいけないのか、レジなどが使えない中でどういう販売の仕方をしなくてはいけないのかは、本社からの指示を受けるのではなく、現地が決めるということです。一方、店舗自体の修復や設備の修復については、店長ではどうにもならないとすれば、それは本社側のほうで支援をするというような、逆のエスカレーションの仕組みというのが特に重要になってくるのではないかと思います。本社側から「こうしろ」「ここがどうなっているんだ」と怒鳴りたくなる気持ちも分かるのですが、そこはやはり現地を支えるという気持ちをしっかり持ってもらうことが必要だと思います。

BCPを通じて一番大事なこと

私も10年ほど、ずっとBCPの取材をしてきた中で、BCPと言うと、ビジネス・コンテュニティということで、とにかく事業を継続するということが大切だというふうに思ってしまいますが、それ以上に大切なものがあることに今回の熊本地震で改めて気付きました。具体的に申しますと、「事業を止める勇気というものを持たなくてはいけない」ということです。これは「何でもかんでも止めろ」というわけではなくて、やはり優先すべきは社員の命、あるいは安全であって、そういうものが脅かされるときは事業を止めなくてはいけない。これは当然の話かもしれませんが、できそうでできないことなのかもしれません。被害がこれからも拡大しそうだというときは、まずそこをしっかり食い止めるために1回事業を止めることが必要です。「事業を止める」というのは簡単そうに見えるのですが、例えば半導体の工場や富士フィルムのような非常に精密な機械、24時間体制で動かしているような所は、1度止めると復旧するのに調整だけでも3日も4日もかかります。そういうことを考えると、やはり機械損失が非常に大きくなるので「止める」ということは莫大な費用の損失を出してしまいます。そういうプレッシャーがあるとなかなか止めるということができません。今回熊本地震では富士フィルムは、前震の時点でラインは自動的にストップしなかったのですが、いくつかの余震を受ける中で、現地の社長が「これはやはり止めたほうがいい」という決断をして止めたことで、本震の大きな揺れがあった時にはラインが止まっていたので、被害を非常に小さくすることができました。

あるいは、工務店の事例で、多くの家の屋根が壊れて、「早くブルーシートを掛けてほしい」「早く対応してほしい」ということを言われたのですが、地元工務店の新産住拓とアニシスという会社では、社員に対して「屋根に上るな」ということを指示していました。これはBCPとは明らかに逆行する話ですが、社長たちが考えたことは社員の命のほうが大切だということです。余震がある中で社員の命を脅かしてまで屋根に上って事業を継続するということは、自分たちの会社にとってもお客さんたちにとっても良くないことだということを理解して、このような対応をしたということです。ですから、この「止める」ということが一つ非常に重要なキーワードになってくるのではないかと思います。

災害時に守るべき優先順位 ~LIP~

私は最近、災害は「珍しい、へんちくりんな奇怪な生き物」だと思うようにしているのですが、結局地震というものも原因の一つであって、その後にどういうふうに起こるか分からない、あるいは発生する場所によって、そこに人が居るのか、危険なものがあるのかによっても非常に変わってくるということで、しばらくの間、災害によって、何がどういうふうに事象として起こってくるかというのは予測しにくいことです。2つの頭を持つ巨大な龍のように、同時に大きな地震が起こってみたり、あるいはものすごくしっぽの長い動物のように何度も何度も余震が起きたり、やはり1発目で油断するのではなくて、災害の全体像を見極めるまでしっかり安全を確保するということが重要ではないかと思います。

欧米ではLIPという言葉を使いますが、これは緊急時の優先順位を表す言葉です。Lというのは「ライフセービング」、要は「命を守れ」ということ、Iは「インステントスタビライゼーション」、「2次災害を防げ、2次被害を防げ、被害の拡大を防げ」ということで、最後のPというのは「プロパティプロテクション」ということで「財産の保護」ということです。何でこんな当たり前のことをLIP、LIPと言うかというと、やはりこの順番というのが災害時に間違いやすいものだからです。安全を確保しないまま、あるいは2次災害を防止するのを忘れて財産の保護、生活の保護に入ってしまうとか、そういうことが起こりやすいということだと思います。ですので、災害の全体像を見極めるまでしっかり安全の確保と被害拡大の防止に努めるという姿勢が、これはBCPに限らず求められてくると思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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