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防災インタビューVol.135

防災のためのレジリエンスとリテラシー ~予測力・予防力・対応力~

放送月:2016年12月
公開月:2017年7月

林 春男 氏

防災科学技術研究所理事長

プロフィール

防災研究をする国のただひとつの研究機関と言われている、国立研究開発法人 防災科学技術研究所の理事長をしています。防災を始めるきっかけというのは非常に偶然なことで、逃げそこなって30年防災を研究するようになってしまいました。

僕はもともと社会心理学が専門で、その最先端を学ぼうということでアメリカに留学し、学位をもらい、1983年4月1日付で青森にある国立大学の弘前大学に採用され、ロサンゼルスからそのまま赴任をして、50日目の5月26日に日本海中部地震が起こりました。自分が今居る所で起こった地震でもあり、しかも国立大学でお給料を頂いているので、「こういう地域にとって大きな問題が起こった時に見過ごしていていいのか」と周りの連中に声を掛けたら、皆若かったせいもありまして、「じゃあ研究しなきゃ」ということで大学挙げての研究チームができました。その時に教授だった人から「お前が言い出したんだから逃げたら駄目だぞ」と言われて、結局逃げそこなって、今こういうことをしています。

その後、もともとの心理学に戻って、広島大学へ行ったのですが、今度は1991年に台風19号が広島を襲い、災害の研究に引き戻されました。その後「そんなに災害ばかりやっているのならば、24時間災害をやる所に来い」と言われ、京都大学の防災研究所に移って9か月目に阪神淡路大震災が起こってしまったということで、「絶対に関東にだけは帰ってくるな」と周りの人からは言われていましたが、去年つくばに戻ってきました。

僕はそういう意味では、被災している場所にずっと暮らしているので、被災した人たちや、被災した社会がどうやってそこから立ち直っていくのかというのを一番中心のテーマにして、研究をしてきました。

レジリエンス ~予測力・予防力・対応力~

「レジリエンス」というのは国際規格の中でもきちんと定義されている言葉で、「環境がどんどん変化していく中で、それに適応できる力」のことを「レジリエンス」と呼んでいます。今日本の防災の世界では、「レジリエンス」をもう少し分かりやすく定義しようということで、「予測力・予防力・対応力」という3つの力の組み合わせとしてレジリエンスを捉えるという考え方をしています。

やみくもに災害を恐れるのではなく、孫子の兵法ではありませんが、「敵を知る」ということがまずその第一歩になるわけで、敵を知るということが「予測力」ということになります。「予測力」を高めていく中で、自分の健康や財政状態を考えると災害が来たら大変なので、それを防ぐために予防されると思います。それが「予防力」です。では、きちんと予防したからもう万全かというと、世の中はそういうふうにはなっていなくて、予想外のことが起こってしまったり、予想していたよりももっと厳しい状況になったとしたら、やはり被害が出てしまいます。でも、それでお手上げということではなく、そこから立ち直っていくというプロセスが始まるので、それを「対応力」と呼んでいます。

そういう意味では、予測力、予防力、対応力はどれが欠けても実は安全安心な生活や、安全安心な地域というのは成り立たないので、何があっても乗り越えていける力「レジリエンス」を「予測力」「予防力」「対応力」という3つの力の組み合わせとして捉えていこうとして、それぞれの分野でいろいろな研究を、防災の人たちがやっているのが現実です。これは誰かがやればいいという訳ではなく、一人一人が、このような「予測力」「予防力」「対応力」を高めていこうという気持ちを持ち、その能力を高めていく必要があると思います。

防災リテラシー ① 「予測力のリテラシー」

読み書きの能力のことを「リテラシー」と呼びますが、防災に関する読み書き能力という意味での「防災リテラシー」を、これからいろいろな災害が予想される日本において、一人一人が高めていくことが、必須の課題だと思っています。

読み書きというのはそれだけで意味があるわけではありませんが、その力を持っていることでいろいろなものを読めたり、いろいろなことが表現できたりします。そうすると防災についても知識を必ずしも全部持っている必要はないのですが、防災についてきちんと判断できたり、そういうことに価値を持っていただいたり、そういうことに皆さんの努力を注いでくださるような考え方をしっかり持っていただけると、「リテラシーが高い」と言えると思います。

レジリエンスにおいても「予測力」「予防力」「対応力」という3つの側面で考えましたが、リテラシーということについても、この3つの側面で考えていくことができます。まず「予測力」というのは一体何かと言うと、自分たちを取り巻いているこの地域、社会、あるいは自分自身の健康状態、あるいは家族の状態について考えた時に、「これから先にどんなことが起こるんだろうか」ということを考え、科学的な根拠のある情報に基づいて将来を予測してみる力を持つことが、予測という面でのリテラシーを上げていくことになると思います。

昔は災害というのは神様が起こすものだとか、人知を超えていて人間には何もできないとか、そういう思いがありましたが、だんだんに科学が進んでいくことによって、この世界というものの理解がどんどん深まっています。そういう意味で言えば、自然現象というのは人間が引き起こすさまざまなものに比べると、もっと秩序高いものですので、そういうものがどうなっているかを科学的に推測することができます。例えば、あと20年ぐらいの間に大変大きな南海トラフという地震を迎えるだろうということは、科学的な事実として証明されています。そういうものに対してきちんと「自分たちは、何をしなければいけないか」を考えていく、これが予測面でのリテラシーだと思います。

例えば、ここ横浜でも、南海トラフ地震が起これば大変強い揺れに見舞われますし、津波もやってくるかもしれません。しかし、それよりももっと大きな被害が静岡から西に、九州まで太平洋岸に沿って広がっていくことを考えてみると、ここには誰も助けに来てくれないかもしれず、むしろ皆さんが助けに行かなければならない側にいることになります。そうなった時に自分たちの被害は自分たちで何とか収めて、皆を助けに行けるぐらいのことをしなければいけないという思いを持っていただくことが、もしかすると「予測」という面でのリテラシーの表れかなという気もします。

僕らは、今北海道の皆さんと「シェイクアウト」という防災訓練をしています。「地震がもし根室で起きたとしたら」ということで北海道のいろいろな場所で訓練をしましたが、この場合、被災地だけが被災するわけではなく、まわりの地域に応援に行ったり、外から応援を受けるための基地になったり、いろいろな役割をすることになるかと思います。そういう想像力を少し高めてみると、自分たちが何をやらなければいけないのか、どんなことを備えておかないといけないのかということへだんだんと思いがつながっていくのではないかと思います。そういうことに少し自分の時間と努力を傾けようとすることが、「予測力のリテラシー」だと思います。

災害の時の一番の教訓は、「災害時には普段やっていることしかできない」ということです。実際には、普段やっていることも満足にできないので、普段やっていないことは絶対にできないというのが阪神淡路大震災や東日本大震災の時にも教訓になっていますので、ぜひ日ごろから考えていただけるとうれしいと思います。

※今回のインタビュー記事は、東急電鉄の協力のもと、「FM salus」が過去に放送した『東急建設 presents 「サロン・ド・防災」』の内容を、一部改定して掲載しています。

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