1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報
  4. 防災インタビュー
  5. 災害に強い社会をつくる
  6. 防災のためのレジリエンスとリテラシー ~予測力・予防力・対応力~
  1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報

防災インタビューVol.135

防災のためのレジリエンスとリテラシー ~予測力・予防力・対応力~

放送月:2016年12月
公開月:2017年7月

林 春男 氏

防災科学技術研究所理事長

防災リテラシー ② 「予防力のリテラシー」

次に「予防」という側面でのリテラシーを考えてみたいと思います。予防というのは大変魅力的な言葉で、被害を未然に防げればこれに越したことはありません。ですから予防力を高めるということはとても大事なことですが、残念ながらどんな種類の災害にも役に立つ予防の仕掛けというのは1つしかありません。それは何かというと無尽蔵にお金を持っていることです。これがあればいろんなことができます。だけどそれを持っている人はほとんどいません。

そういう意味で予防をどうしているのかというと、「本当にヤバい」と思うものについてだけ、私たちはしっかり予防しているということです。ですから、災害についても危機についても、いろいろな予測をする中で、「本当にこれは重大な危機だ」「重大なリスクだ」と思うものだけ選んで予防しているというのが実際だと思います。

インフルエンザを予防しようと思ったら、うがいをする、手を洗う、人混みに出ないということは大変有効ですが、これをやったからといっても、地震の災害の予防にはなりません。ということは、「予防が効く」というのは特定の原因に限定されているというのが実態だと思います。しかもそれぞれに専門性が非常に高いので、例えば地域の役所などを見ると、建築の人が地震の予防をしたり、保健の人が健康災害の予防をしたり、あるいは学校の先生たちが不審者の予防をしたりというふうに、それぞれのセクションセクションで自分たちが予防しなくてはいけない災害はどんなものかを考えながら予防されているわけです。全部が一つのことを一緒になってやっているわけではなくて、みんながそれぞれに分かれて、自分が守らなくてはいけないと思っているものを一生懸命予防するというのが予防の現実だと思います。

このような予防の仕方というのは、大きく分けて3つに分けられます。1つはそういう危険を「回避」すればいいということで、「君子危うきに近寄らず」というものです。2つ目は、その敵の力を弱めてしまえばいいということで、「緩和」というふうに言っていますが、こっちが強ければ相手がいくら来ても被害が出ないので、例えば地震で言えば、建物を強くするとか、堤防をしっかり造るというような形が「緩和」です。3つ目は「転化」と呼んでいますが、たとえ被害が出たとしても、元通りに建て直せれば、あるいは作り直せるだけのお金があれば、それは被害を予防したことと同じだろうと考えられます。そういう意味では、予防法に今言った、「回避」「緩和」「転化」があるわけですが、相手の性質によって、必ずしも全部が使えるわけでもありませんし、その中から言ってみれば一番コストパフォーマンスがいいものを選んで予防策として採用していくことが必要になるんだろうと思います。

まず「地震が来る」ということを前提に考え、それによって大きな被害が出ては困るというふうに思っていただければ、耐震補強をしたり、耐震性の高い建物に改築をしていただくようなことになっていくと思います。

防災リテラシー ③ 「対応力のリテラシー」

予測、予防のリテラシーを高め、被害が出ないに越したことはないのですが、それでも被害が現実に出てしまう事というのは多々あります。これには2つのパターンが考えられますが、1つは、「そんなことはまあ起こらないよな」というふうに予測して予防をしてこなかったことというのがあります。もしかして日本中の多くの場所で起こっている災害はそういう結果かもしれませんし、十分な予防がされていなかった部分もあるかもしれません。それからもう1つの場合は、せっかく予防はしていたものの、相手がそれを超えてしまうような場合、やはり被害は出てしまいます。東日本大震災というのはまさしくそういう災害です。東北地方の太平洋側というのは、昔から津波の被害については注意されていましたし、それなりの対策は十分とってきました。しかし、今回の津波は今までよりも大きかったというのがやはり原因で、特にこれまであまり大きな被害を経験してこなかった平野部の所で大変大きな被害が出ています。それを数字で言えば、2メーターの津波だと思っていた所に3メーターの津波が来たということです。たかだか1メーターの差だと思うかもしれませんが、2メーターで予防できるようにしていても、それを超えた分が全部内陸に入って、3キロ浸水が広がって大変大きな被害になったわけです。

このように予想はしていても防ぎきれなかったとしても、茫然自失のままではいられませんし、なんとか対応しなければいけません。その対応としては「現場でやること」、それから「後ろで後方支援すること」の2つのタイプの活動があります。現場でやることはさらに3つに分けられます。

1つは「命を守ること」です。これは非常に時間的に切迫した問題です。通常では、災害が起きてから最初の72時間が人の命を救える限界だというふうに言われています。ですから、この72時間の間にどれだけたくさんの人たちが救助に入れるかが問われているという課題です。せいぜいもって100時間ということなので、命を守るのは最初の100時間の大きな仕事です。

それから次に、最初の1,000時間の大きな仕事と私たちが考えているのは、「私たちの毎日の生活を取り戻すこと」です。毎日の生活の中には、いろいろなものの流れがあります。人も流れています。物も流れています。情報も流れています。お金も流れています。こういう流れが止まってしまうのが災害の特徴です。停電し、断水し、交通はマヒし、通信もできないという状況です。それがずっと続いたら私たちの生活は大変困りますから、命が助かったとしても大変大きな試練があるので、それを何とか解除して、元に戻さなければいけないというのが、2つ目の仕事です。そのように止まってしまったものを元に戻すために、やはり時間が必要です。その間、何がいるかというと、避難所が大きな問題になってきます。皆が仮の場で生活していかなければいけないということで、この20年間、地方自治体は一生懸命避難所の対策を考えてきています。そういったものと実は関わっているんだということはぜひご理解をいただけたらと思います。

3番目ですが、避難所が解消されると、もう何となく災害が終わったように思うかもしれません。マスコミも取り上げなくなりますが、被災した人たちにとってみると、ここから本格的な復興というのが始まってきます。僕らはこれを「生活再建」というふうに呼んでいますが、たとえきれいに町が建て直されても、そこにいる人たちの暮らしが立ち直らなかったら何の意味もないので、生活再建こそが一番大事な復興の要素だと思っています。そのための努力が必要になるわけですが、今日本の制度においては、被災者台帳を作り、被災者の皆さんを補足して、抜け漏れ落ちなく、きちっとサービスを提供できるようにというような仕組みが数年前からできています。そのための材料を提供するための罹災証明を出すための仕組みも開発されてきています。

このように「命を守る」「毎日の暮らしを守る」、それから「生活を再建する」という3つの違う仕事が、同時並行で発生するのが災害対応です。この3つの仕事は災害が起こった直後からどれもスタートしないと、後に行けば行くほど問題は難しくなっていきます。

大きな災害においては、どうしても初めて体験することなので、目の前の命を救うことに専念して、避難所対策やライフラインを戻す対策が後回しになってしまったり、さらに生活再建なんて考えたこともないというのが今多くの被災地で起こっていることです。ぜひこの3つの活動が必要で、なおかつ同時に始めないとうまい立ち直りはないということを念頭においておくことが大切です。そして、行政やボランティアや海外からのいろいろな援助や支援を、必要とされる方にきちんと届けるということが実は後方支援の一番大事な仕事でもありますが、それだけではなく、現場での命、それから社会のさまざまな日常の暮らし、生活再建を支えるようにこの後方支援ができるかというのが実は災害対応で問われている私たちの能力だと思います。

これは役所だけでできるわけではありません。もちろん役所も最善は尽くしていますが、いろいろなことを考えると、1割のニーズを満たせるかどうかぐらいの力しかないと思っていただきたいと思います。それ以外の力、もっと具体的に言えば自助、互助、あるいは共助、そういうものと公助が組み合って初めて立ち直ることができ、災害に対する対応力を高めることができます。そうしていくことで、対応力という面についての防災リテラシーが高まっていくというふうに思っています。

行政が何とかしてくれると考えるのは最悪のパターンです。過度に行政に期待をして、実際の行政の対応を見たときに、「これだけなのか」という失望感のほうが先に立ってしまって本当に落ち込んでしまうというのが、多くの被災者が経験されていることだとも思います。

対応力の中身 ~自助・互助・共助・公助~

ここでは、対応力の中身について話したいと思います。公助だけに頼って災害対応ができるとは、皆さんも思っていないと思います。必要なのは、自分で自分を助ける「自助」、そして、前から知り合っている人たちの間でお互いを助け合うことも必要で、これは「互助」と言います。それから、阪神淡路大震災の時に非常に着目をされたのが「共助」です。普段そういう互助がないような割と気楽な都会生活をしている人たちが、大きな災害を経験した時に、思ってもみないような人たちから助けてもらったという気持ちを込めて「共助」という言葉を作っています。そう考えると災害から立ち直っていく中で私たちは、自助の力、互助の力、共助の力そして公助の力という4つの力を持っていて、この4つをうまく組み合わせていくことが大事だと思っています。

「互助」というのは、トトロの世界を思い出していただいたらいいのではないかと思いますが、昔ののどかな光景の中で、人々は「お互いさまだから」と言いながら暮らしていました。その中では、メンバーは全部決まっているわけです。お互いにお互いを長い時間をかけて付き合っている中で、「お互いさま」という言葉が生まれてきます。これが「互助」だというふうに思います。日本のように非常に歴史のある社会というのは、やはり互助力というものが基本にありながら、いろいろと長い年月生き延びてきています。しかし、その互助力は、特に都会では弱まってきていると思いますが、日本全体を見るとかなりやはり高い所が多いです。他の言い方をすると、「知らない人から助けてもらうのは何か変だ」と思う人がまだたくさんいるということです。そういう方の気持ちの中にあるのは、やはり自助であり互助で、「自分たちが乗り切っていかなければいけないんだ」というのが基本にあるわけです。阪神の時は「共助」ということで、たくさんのボランティアが来てくれて、いろいろな活動が起こり、「これは新しい日本の防災のあり方だ」ということで「共助」という言葉が非常に大切になりましたが、その後新潟で2回続けて地震が起こったり、今回のように東日本で岩手、宮城、福島というような所で起こってくると、そのかつて活躍したボランティアの人たちがそんなにうまく活躍できていない時もあるわけです。「見も知らない人に助けてもらういわれがない」という気持ちも実は被災された方の中にたくさんあります。これはさきほどの言葉で言えば、「これは自助や互助で切り抜けていくものだ」というふうに皆思っているということの表れかとも思います。

しかしながら、日本全体を見れば、どんどん社会のあり方は変わってきています。昔ながらの自助力、互助力があれば大変うれしいけれど、多くの都市に住んでいる人たちは、そういうものが薄れているという実感も持っています。だけど逆に新たな光として出てきたものに共助への期待というのがありますし、それを伸ばしていくこともこれからの防災、対応力の向上ということから考えると大事なのではないかと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

123

会社概要 | 個人情報保護方針