1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報
  4. 防災インタビュー
  5. 災害に強い社会をつくる
  6. 地に足着けて地球を考える
  1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報

防災インタビューVol.142

地に足着けて地球を考える

放送月:2017年7月
公開月:2018年2月

桜井 愛子 氏

東洋英和女学院大学
国際社会学部 准教授

被災地の子どもたちとの「復興防災マップ作り」

このような経緯で、震災の1年後に「復興防災マップ作り」のプログラムが、実際に東日本大震災を経験して津波の被害を受けた学校で始まりました。しかもその取り組みを始めた学校は、海から1キロほど離れた石巻市の東部の沿岸部にあり、学校自体は被害は免れたのですが、1階が10センチほど浸水しました。また学区の海に近い南側の家はほぼ流出して、津波に流されてしまったエリアであり、子どもたちが避難所で生活をしていたり、家の建て直しがまだ進んでいないので親戚の家や仮設住宅で暮らしているという時期に、このプログラムは始まりました。
震災から1年しかたっていない子どもたちが、マップ作りを通じて何を学んでいくのだろうかということを、学校の先生方と何度もお話をしました。実際に大災害を経験した子どもたちというのは、心にいろいろな思いを抱え持っています。「海を見るのが怖い」と言って水を見られない、水に入れないという子どもたちもいるような時期でした。その当時、先生方は「津波」と「災害」という言葉は使わないようにしていたのですが、「震災から1年たったのだから子どもたちには何とかして、この大災害の経験を乗り越えて強くなってほしい」「大災害を受けたけれど、これから復興に向けて地域が頑張って取り組んでいくのだから、この復興という言葉を前向きに捉えるような学習活動ができないか」ということで先生からご相談があり、マップ作りを通してそれを実現できないかということで始まりました。
通常、「防災マップ作り」というのは町歩きをしながら、危険な場所や震災時に役に立つものを探していくのが日本でもポピュラーなやり方ですが、町歩きのときに探すものを設定する際に非常に気を配りました。その当時、この地域には津波で流されたものしかない、何もない状態でしたし、危ない場所を見つけようとすると、危ない場所しかない状態でした。その時、先生から非常に重要なポイントについて提案がありました。ちょうど震災から1年たったころというのは、がれきが少しずつ片付いて、更地になっている場所が増えているころでした。そこで「更地は家がなくなった所」と捉えるのではなくて「次に新しいおうちを建てる準備が整った所」、つまり「復興のスタートが更地だよ」というふうに位置付けようということで、更地をたくさん探して「復興マップ作り」を始めました。
このように「更地を復興の準備が整った所」と位置付け、津波で流出したエリアを町歩きして、子どもたちが未来に向けて希望が持てるようにしたいということで開発をした学習プログラムでした。しかい最初の年は、やはり津波の経験を受けてまだ子どもたちも非常に不安定な状況だったので、町歩きをする際も注意をして「海の方に行きたくない」という子どもたちは津波の被害が少なかった山側のエリアに行ってみるなど、心のケアに配慮をしたプログラムを行いました。
最後に町歩きをして、それぞれの地区で発見したことを色分けして表した後に、子どもたち一人一人に今の気持ちを書いてもらう個人カードを作ったのですが、そのカードもふたをして、開けてのぞくと見えるという形にして、子どもたちの心の中がのぞけるようなものにしてみました。そうすると、やはり何人かの子どもたちは津波で流された人を描いたり、津波の経験を表現する子どもたちもいました。今まで学校では、津波のことにはなかなか触れていなかったのですが、ちょうど震災から1年たった時の子どもたちにとって、自分の気持ちを表すことによって次のステージに進んでいく機会になったのではないかというふうに思いました。

2年目、3年目 ~時を重ねて~

1年目はこのようにプログラムを進めましたが、2年目になると状況が変わってきます。このプログラムをやった4年生は、2年生の時に津波を経験した子どもたちだったのですが、より前向きに捉えられるようになりました。なぜかというと、最初の年に「更地は復興のスタート」ということで記録をした場所に、どんどん新しい家が建ち始めてきたからです。鹿妻小学校のエリアは、自分たちで自主再建をする方々が多かったので、震災から2年目になると家を建て直す方が増えて、前の年の4年生がやって更地だった所に本当に家が建ったということを確認することで、子どもたちがより前向きに復興が進んでいることを実感できるようになりました。やはり続けて前の年の4年生がやったマップ作りを受け継ぐことの大切さを感じたのが2年目でした。
ただ今度は3年目に入ると、またさらに違ってきました。マップ作りの中で、危険な場所をチェックしていて、それを赤色で表し、復興のスタートである更地はオレンジ色、新しくできたものを青で表し、そして地域の魅力的な場所を金色で表しており、1年目から2年目は赤がどんどん減っていって、青が増えていくことが確認できました。つまり復興が進んでいることが色でも分かりました。ところが2年目から3年目に移ると、また赤が増えてしまったのです。本当は復興が進んでいて、新しい家も建っていくのですが、結果を見て「何でだろう」と考えて、いろいろ聞いてみたところ、震災から2年がたった後、子どもたちは何もないことが当たり前の日常になっていたのですが、それに対して実は何もないというこの場所は、津波で家があった場所が流されてしまった場所なのだということを学んだのです。そうすることによって「ああ、危ない場所が増えたんだ」と思うようになったということです。実際にそこが震災前にどうだったかが分からなくなってしまっているということで、震災から2年がたった時点で、もう一度そこがどういう所だったのかを、子どもたちがあらためて学ぶことの大切さが確認できたのが3年目の学習でした。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

会社概要 | 個人情報保護方針