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防災インタビューVol.142

地に足着けて地球を考える

放送月:2017年7月
公開月:2018年2月

桜井 愛子 氏

東洋英和女学院大学
国際社会学部 准教授

進化する「復興防災マップ作り」

震災1年後に石巻市の一つの小学校で始まった「復興マップ作り」ですが、その後、この復興マップ作りに取り組む学校が増えてきて、今年2017年度で、石巻市内の13の小中学校で「復興防災マップ作り」という学習プログラムとして広がりを見せています。
1年目、2年目までは鹿妻小学校で行われていたプログラムが、3年目から近隣の小学校でも始まりました。同じ津波で被災した地域ですが、近隣でも学校によって状況が全然違いました。最初の学校、鹿妻小学校のエリアは、割と自立再建が進んで、家が新しくどんどん建っていましたが、両隣の湊小学校と渡波小学校は、津波で学校の建物も被害を受けて、ちょうど震災から3年たって、元あった場所に戻ってきた学校でした。それだけ海に近い学校で、津波の被害が大きく、家の再建も進んでいない状況で、鹿妻小学校で行ったように復興を実感することがなかなか難しいという先生からのご相談を受けて、少し違った形でやることにしました。渡波小学校は、もともと海に近いエリアで、塩造りや漁業が盛んでしたので「どんなふうに町が栄えていたのかを学んでみよう」ということで町歩きをして、昔からそこに住んでいる人たちに話を聞いて、今どうなっているかを確認するという、より歴史に近い学習をすることになりました。もう一つの学校、湊小学校は、実は震災で二つの学校が統合して一つの学校になったエリアで、近くに防潮堤などが建設される予定がありましたが、まだできていない中だったので「今津波が来たら、どこに逃げたらいいかを確認する」という、より避難に重点を置いた防災マップ作りを始めることになりました。
このように本当に両隣の学校でも、津波の被害はその地形や学校がある場所によって全然違うことを学び、より復興と防災、両方を合わせた形で学習していくことが大事だということが分かり、名前も「復興防災マップ作り」に変えました。その後、4年目からはより石巻駅に近い市街の中心部の学校で、この復興防災マップ作りに取り組みました。石巻市は市町村合併で大きくなった市だったので、5年目は元の河南町というエリアの学校でやりました。6年目の今年は桃生エリアという所でやっているのですが、5年目、6年目は津波被害を受けていない所でも学習活動をしています。こうして活動する中で、その地域で昔どのような災害被害があったのか、この地域で逃げる場所はどこなのかということを町歩きを通じて地域の学習をするという要素が、どんどん強くなってきました。この復興防災マップ作りの活動を通して、近隣ではあっても地域によって全然状況が違っているので、防災活動というのは地域に根差してやっていかなければならないということを確認することができました。

「宝探しゲーム」で防災を学ぶ

地域に根差した防災学習のもう一つの形として、昨年、仙台市の片平地区という所で、町おこしのための宝探しゲームに防災の要素を加えて「地域の歴史や魅力を学びながら、宝探しをしながら、防災について学んじゃおう」というプログラムの開発を行いました。この片平地区というのは青葉城址と広瀬川を抱える商店街と、緑豊かな自然の両方がある仙台市の中心部にあります。ここには東北大学の片平キャンパスもあり、昔からとても歴史がある古い町です。地域の防災活動も非常に積極的なエリアです。通常、地域の防災活動を進めようとしたときに、今いろいろな地域で問題になっているのは、自主防災組織に参加している人はお年寄りが多くて、若い人がなかなか参加していないことがありますが、この片平地区でも同じような問題を抱えていました。しかしながら連合町内会長が非常に先見性のある方で、地域の防災活動に皆に参加してもらうには、まず子どもたちに町づくりに参加してもらうのが重要だということで、若い世代の方や子どもたちに参加してもらうために燕踊りの子どもたち版の練習を進めたり、町中に農園を造ったり、あるいは地域の郷土史を自分たちで書いてみようという企画をしたり、いろいろな活動に取り組んできました。このような活動をまとめて、防災と町づくりを一緒にしたような活動をやっていこうということで「宝探しゲーム」を用いたのが、この取り組みになります。タイトルは「政宗公の秘宝を探せ」で、仙台と言えば伊達政宗、町を守護する伊達政宗にちなんだ歴史的な場所がたくさんあるエリアですので、政宗公ゆかりの場所を訪ねながら「なぜここにこれがあるのだろうか」ということで、防災の観点から学んでいくということをしました。防災だけだと楽しめないので、どうやって楽しんで防災を学んでもらおうかということで考え出したのが、このプログラムです。宝探しをする、そして謎解きをする、そして地域の歴史を知る、この三つを組み合わせた上に防災をちょこんと乗っけることで、知らないうちに防災を学べるようになっているというのが目的でした。
実際に宝探しを専門にやっているグループの方にもご協力を頂いて、宝箱を持ってきてもらったり、謎解きを作りました。例えば「昔、動物園があった所はどこだろう?」「なぜここに動物園があったのだろう?」とか、あるいは「伊達政宗の愛馬にちなんだ神社がある場所は一体何だろう?」というようなことを、いろいろ学んでいきました。このように子どもたちが謎を解きながら宝箱を探して、地域の魅力や歴史を学び、そしてちょこっと防災を学ぶという視点で防災宝探しゲームを開発し、半日間のプログラムで三つの宝箱を探すという設定にしました。三つの宝箱に隠されている謎を解くと最終ゴールにたどり着けるという仕組みだったのですが、最終的にゴールに到着したら、そのご褒美は何だろう、ということも考えました。伊達政宗公にちなんだエリアだったので、子どもたちが全ての謎を解いた後、伊達政宗のかぶとの三日月マークにちなんで、町を守る「三日月団」の団員になれるということで、会員証を配ることにしました。そこに町内会長と町内会の皆さんが相談して「五つの心得」を書いて会員証を作りました。
三日月団心得、第一条、自分の身は自分で守るべし。第二条、皆が安心して暮らせるよう備えるべし。第三条、仲間との協力を惜しまぬ心を育むべし。第四条、地域の自然・文化・歴史を尊ぶべし。第五条、後世に誇れる町づくりを心掛けるべし。
これが実は防災のためにも使える五か条ではないかと思います。これをきれいにまとめた町内会の方々は素晴らしいと思います。この宝探しでは、歴史にまつわる場所を回り、謎を解きながら、避難所を巡るルートを組みました。高低差もある町だったので、歴史を学びながら高い所から低い所に下りていったり、また上ったりしながら、低い所では昔から水との闘いで水がよくあふれたということを学んだり、高い所に行くと、ここに避難所があるというのを学んだりしました。仙台市には「がんばる避難施設」といって、市が指定する以外に地域の人が相談して決める避難所があります。実際に「こんな所に避難所がある」「普通の民家なのに避難所だ」という発見をしたりする要素を入れました。この宝探しゲームに参加して、三つの宝箱の謎を解いて、避難場所を知って、そして地域の地形を自分たちの足で歩いて確認した子どもたちに、先ほどの五か条をお渡しして三日月団員になってもらうという企画をしましたところ、非常に楽しんで学んでもらうことができました。このことを通して、防災を楽しく学ぶことの大切さ、防災だけでは楽しくなれないので、いろいろな要素を組み合わせることの大事さを確認できました。この試みは子どもたちだけでなく、保護者の方にも参加していただきましたが、割と市内の中心部なので新しく転入して来られる方も多かったので、「ああ、こんな歴史がある場所だったんだ」という形で、保護者の皆さんもあらためて町を知るという、非常に良い機会になりました。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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