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防災インタビューVol.143

経験を生かした防災 ~避難所生活からの学び~

放送月:2017年8月
公開月:2018年3月

柄谷 友香 氏

名城大学 教授

プロフィール

私は現在、名古屋の名城大学の教授をしています。1995年に阪神淡路大震災が発生した時には、兵庫県尼崎市に住んでおり、病院に入院している時に被災しました。病院の水道も全て止まってしまって、外を見ると大変な状況で、そんな中でも退院できずに何もできない自分がいました。そういったことがきっかけなのか、防災に関心を持って研究を始めました。当時は工学部の土木工学に所属する学生で、橋や空港など大きなものを造ることに憧れて土木に入ったのですが、まさか地震であれだけ壊滅的に高速道路などが壊れるとは、学生ながら全く分かっていませんでした。あの地震を経験して、ハード整備だけで災害を乗り切ろうというのはなかなか難しいということを学生ながら教えられたような気がしています。そういったやりきれない被災経験というのが、防災研究を志すきっかけとなりました。本来、物を造ったり設計したりすることに憧れてはいたのですが、それを使う市民の方々がけがをされたり、あるいはそれが壊れることによって生活に支障を来すというようなことまで考えたことがなかったので、ハード整備と使って下さる市民の方をつなぐような「リスクコミュニケーション」という仕事をしたいと考え、今もそれが私の専門分野になっています。
私は今、研究所を経て大学に勤めており、若い学生たちに教える立場でもありますし、また被災地で暮らしながら、そこで被災された方々と行政の皆さん、民間企業の方々など、いろいろな方をつなぐという役割をさせていただいています。

「リスクコミュニケーション」を通した防災

私自身、東日本大震災のような大きな災害が起こった際には、いち早く現場に行き、避難所や仮設住宅など、被災者の方に一番近い所で暮らしながら、「いつ、どんなものを召し上がっているのか」「どんな気持ちで、いつ泣いて、いつ笑っているのか」というのを一緒に経験をさせてもらっています。それをきちんと記録しまとめることで、そこから得たことをヒントにテキストを作り、次に災害が起こるかもしれない地域に対して伝えていくという仕事、研究を続けています。
現在は、東日本大震災の大変大きな被害を受けた9つの地域、市町で被災された方の住まいの再建について調査をしたり、お手伝いをさせていただいています。東日本大震災後に、東北で3年ほど暮らしながら研究を続けているのですが、そのきっかけは、2006年に起きた鹿児島県北部での豪雨被害でした。「ゲリラ豪雨」という言葉が言われて久しいのですが、2006年に鹿児島県の北部、さつま町の辺りで大変な豪雨があり、一級河川の川内川が溢れて、市民は大変大きな被害を受けました。その直後から6年ぐらい、鹿児島県さつま町でお世話になったのですが、そこに行って住民の代表の方から最初に言われた「今回の水害は、ダムによる人災である」という言葉が非常に印象的でした。住民の皆さんからすると、「ダムが悪さをして自分たちの住宅が浸水したんだ」というような論理で物事を考えられるのですが、行政の立場で考えますと、「きちんと河川整備をして、ダムの操作もしていて、何も瑕疵があったわけじゃない」ということでした。このように、全く両者のコミュニケーションができない状況にある現場に長らくいまして、私自身、この現場を通して、多くのことを学ばせていただきました。河川管理者の方と現場の方との間に立って、両方の話をずっと聞いてきたのですが、結果的には住民が裁判を起こすという話が出てきました。これから河川整備とか、みんなで手を取り合って川について考えたり、まちづくりをしていった方が、防災、減災としてはいいことだと思っていたのですが、このような状況を何とかできないかと思って間に入らせていただきました。河川整備者の方は何回も何回も市民に怒られて罵倒されながらも、顔を見せて膝を突き合わせて、「今回は一体どういう災害だったのか」「どんなダムの知識が必要なのか」という話を何十回となく繰り返し、そのうちに住民の方々も、ダムに関する知識、ダムに関する操作、あるいは河川整備など、一般の方ではあまり知らないことを現場で学びました。このようなことを通して、結果としては裁判を起こすと言って手を挙げていた住民の方から手を下げてくれたのです。これは、実は訴訟事例でも大変珍しい事例で、お互いに手を取り合って、今でもこの川内川で行政の方と住民の方とで河川の整備とか維持管理、清掃を積極的にやっている、全国でも非常に良い関係が築けている地域になっています。
このように、災害をきっかけとして行政と住民が敵対してもめるということがよくあるのですが、正しい知識を得て、お互いのことを顔を見せてコミュニケーションを継続することによって、災害以前よりもっと手を取り合って防災を進めていくことができるのだということを、この現場から学びました。また、今回の現場は、私の研究分野であり、土木工学や河川工学について専門知識を持っていますので、中立の立場でものを言える研究者という立場は大変ありがたかったです。両方がどうやったらうまく手をつなげるかということを考えていく過程で、専門的な知識を持ってその両者をつなぐことの面白さや、私自身の研究のやりがいを教えてもらった気がしています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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