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防災インタビューVol.146

子どものための「防災キット」

放送月:2017年11月
公開月:2018年5月

野村 昌子 氏

株式会社 電通サイエンスジャム

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

身を守る知恵を身に付ける防災教育

前段で「防災教育には適切な情報を子どもたちの発達に合わせた適切な時期に、適切な方法でインプットすることが重要ではないか」というお話をさせていただきました。実際に公立小学校の校長先生にお話を伺うと、多くの学校で防災訓練の機会はあるが、防災教育に割ける時間は年間数時間、先生たちも防災にそれほど詳しいわけではなく、防災の教材に掛ける費用もないのが現状だということでした。もちろん防災に力を入れて、さまざまな機会を捉えて子どもたちの災害対応能力を伸ばしている学校もあります。ただ、多忙な学校教育の現場では、なかなか防災教育に手が回らないのも事実です。とはいえ、日本は世界有数の災害多発地帯であり、日本で暮らす以上、「地震に対する対応力」は基本的な力だと思いますし、それを身に付ける教育には、もっと知恵を絞っていく必要があるのではないかと思いました。
もう一つ、この防災キットを開発するきっかけとなったのは、「私の娘が塾の行き帰りに地震が起きたらどうしよう」という不安からです。子どもを持つ親にとって「子どもが1人でいる時に地震が起こったら」という想定は、とても大きな問題です。学校や家にいて大人の目があれば、子どもを守ることも可能かもしれません。さらに学校や家の状況は親自身も、ある程度把握しているし、地震が起きたときをイメージしやすいこともあります。しかし「家から離れた塾や習い事に1人で通っている時、地震が起きたら」という想定は、親にとって不安でありながらも、具体的に「どうしなさい」と子どもたちに伝えきれていませんし、親自身がどうしてよいのか分からず伝えられない、という家庭も多いのではないかと思いました。
特に塾の場合は帰りの時間帯が夜になります。停電して町全体が真っ暗になることも予想されます。実際に熊本地震の際は、市内の学習塾の建物が倒壊している様子がテレビの映像で映し出されていました。もう少し発生の時間が早ければ、生徒に被害が出ていたかもしれません。このようなきっかけで保護者としての視点、不安もあり、子どもたちの塾の通学中に地震が発生した場合をイメージさせ、行動を考えるツールや教材ができないかということから、この防災キットを考えてきました。そして、娘がお世話になっている学習塾、スクールFCの先生方にご相談したのが、この防災キットの開発のきっかけとなりました。
実はご相談をする際に「スクールFCなら、このような提案を理解してくれるのではないか」という思いもありました。というのも、スクールFCの教育理念が中学受験、高校受験をサポートする進学塾でありながら、単に合格率を上げるというものではなく、飯が食える大人への成長とか、幸福な受験など、「子どもたちが受験を通して生き抜く力を身に付ける」ということだったからです。これは私が防災に関わってきた時からずっと考えていた「防災をする意味って何だろう」という疑問に共通するものがあると思っています。もちろん防災をすすめる一番の意義は「自分や周りの人たちの命を守るため」です。しかし災害にいくら備えても、実際に災害が起きれば想定外のこともたくさん起きます。そのときに必要なのは状況を把握し、判断し、行動する力、自分で自分の命を守る生き抜く力です。それは防災に限らず、これから何が起こるか分からない社会の中で生きていく子どもたちにとっても、大切な力になるはずではないかと思いました。それは、生き抜く力を身に付けるスクールFCの教育理念にもかなうものであり、防災を通じて具現化できるのではないかと考えて、ご提案することになりました。

受験を通した防災

実は東日本大震災以降、中学入試で防災に関わる問題がかなり多く出題されています。このことは、スクールFCへのご提案に関しても意識しました。学校によっては社会や理科、算数など、科目を横断した問題で、地震のメカニズムから歴史、地理、さらに東日本大震災における政府の対応まで問う良問が出題されています。この入試問題の傾向は今も続いていて、防災を学ぶことは決して受験勉強の邪魔になるものではなく、学習塾であるスクールFCにとっても、むしろ役に立つものではないかと思い、私の意識を後押ししてくれました。
そういった中学入試の防災のことも踏まえ、「子どもたちの役に立つものは、どういうものなのか」を考えながら、今回の防災キットを作製しました。中身としては防災ポーチとホイッスル、防災メモを開発したのですが、一つ一つのグッズの開発にはスクールFCの先生方の「作るなら本当に良いものを」というお考えを受け、カラーやデザイン、機能性なども通常の倍以上の時間をかけて検証を重ねました。例えば防災ポーチは鮮やかなオレンジに、スクールFCのロゴを白で入れています。これは災害時に必要な最低限のグッズを入れるという機能もさることながら、子どもたちが塾に通学するリュックやバッグに着けてもらい、すぐにスクールFCの生徒だと分かることを狙っています。実際、学習塾というのは小学校や中学校と違って、地域の人たちとの関わりも少ないため、災害時に連携が難しいことが考えられます。そこで何かあったときに、すぐスクールFCの生徒だと判別できれば対応しやすくなると考え、視認性の高いカラー、デザインを選択しました。防災ホイッスルは実は100円均一のショップで、簡単に手に入るようなものを選んでいます。これはスクールFCの子どもたちの元気の良さを考えて、紛失したり壊れたりしてもすぐに代わりの物を各家庭で用意してもらえるという考え方からです。
本来、防災ホイッスル自体、家庭で簡単に用意できるものですが、必要だと分かっていても実際はなかなか準備しないのが大人、そのため一度キットに入れてしまうことで、次に用意する意識を持ってもらおうと思いました。防災メモは最後の最後にスクールFCの先生にお願いして、キットに加えてもらったものです。これはA3サイズの紙に災害時の行動の注意事項や、家族で決めた待ち合わせの場所、連絡方法を記入し、蛇腹折りで防災ポーチに入れてもらおうというものです。いざというときのお守り代わりとして開発するということになりました。さらに、この防災メモにはスクールFCの先生からのリクエストで、ミサイルからの避難についても入れました。その段階では、今年の3月だったのでミサイルからの避難は現実味を帯びたものでは全くなかったのですが、実際に防災メモを配布する直前にミサイルが発射され、地域によっては初めてJアラートが鳴るという事態になりました。そういった意味からも、これからの未来を生きていく子どもたちに、私たち大人が何を残せるのか、地震だけでなくさまざまな災害から紛争にまでも考え方を広げ、子どもを守るというより子ども自身が自分の命を守る力を身に付けさせたいということが、この防災キットで実現できればよいと考えています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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