1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報
  4. 防災インタビュー
  5. 子どものための「防災キット」
  1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報

防災インタビューVol.146

子どものための「防災キット」

放送月:2017年11月
公開月:2018年5月

野村 昌子 氏

株式会社 電通サイエンスジャム

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

「防災メモ」の準備を通して

防災グッズの一つとして「防災メモ」を作製しましたが、この「防災メモ」はA3サイズの紙に、いざというときの行動の注意事項や家族で決めた待ち合わせの場所、連絡方法を記入し、蛇腹に折って防災ポーチに入れてもらおうというものです。表面には通学時に地震が起きた場合、4都県9市区にわたるスクールFCの校舎の立地や、地域の自治体の対策、生徒の通学状況から共通して子どもたちが直面する可能性が高い場面、事柄に対して注意事項を示しました。裏面は生徒や家族の覚書や待ち合わせの場所、連絡方法などもメモできるようにしたものです。監修は東大の目黒公郎先生と沼田宗純先生にお願いしました。イラストはスクールFCの先生の奥さまにお願いし、一緒に開発していただくというスタンスで臨みました。
開発の考え方としては、いざというときに役立ててもらうため、スクールFCの生徒である小学3年生から中学3年生にとって理解しやすいもの、地震が起きたときに開いて落ち着いて読めるもの、そして生徒全員がストレスなく読めるものということを意識して製作しました。具体的にはまず災害発生からの時系列でイメージを広げ、行動を考えてもらうために子どもの感覚や行動を検証し、地震の発生から10秒、10分、30分という時間で区切って注意事項を入れ込んでいます。大人と子どもでは行動にかかる時間も違うため、少し大人にとっては違和感があるかもしれませんが、パニックを起こさせず、最善の判断を引き出すためには、いつどのようなことに注意を払えばよいのか、子どもの時間感覚から考える必要がありました。さらに災害時の場面ごとに、その時の行動と事前に考えておくこと、普段から気を付けておくことをセットにして記載し、例えば電車やバスに乗っている時に地震が起こった場合の対応や、発生した時点の行動に対する注意事項、その他、普段から気を付けておくこととして、立っているときには手すりやつり革につかまる、などということも入れています。一見、本当にごく当たり前のことのようにも思えますが、災害時の行動とセットでイメージすると、その行動の意味が変わってきます。さらに、これまでの防災マニュアルなどでは、シーンごとの対応はあっても事前の対応とセットになっているものは、あまり見掛けたことがなく、今回の防災メモの特色にもなっています。
もう一つ、防災のメモの文章は小学5年生が理解できる文脈、語彙、概念で作ることにしました。実際には小学3年生からが対象ですが、学習塾ということもあって先生と相談して、3年生でも頑張って読んでもらおうということになりました。ただ漢字のルビだけは小学3年生に分かるように振っています。そのため地震や防災に関する単語なども小学校5年生で理解できるのか、一つ一つ検証してきました。例えば「岩盤」という言葉ですが、大人はあっさり使いがちですが、子どもにとっては地中深くにある岩盤は実際に見たことも触れたこともないため、具体的にイメージできません。そこで岩盤という単語を使わずに文章を組み立てることにしました。しかし今度は余震について、岩盤という言葉を使わず、どのように表現すれば子どもたちに理解してもらえるのか、子どもたちの経験や知識を探りながら、学問上問題のない表現で文章を作っていくという作業を繰り返しました。
この作業は一般的な防災の啓発という点からも、大きなヒントを与えてくれる作業でした。例えば被災者と避難者、これはどのように違い、どのように定義されているのか考えてみたことがあるでしょうか。大人は突き詰めずに使って、自分なりの理解で終わらせているように思います。しかし防災を理解する上では重要な言葉です。情報を発信する側が、一つ一つの言葉を丁寧に見直し、多くの人に分かる文脈や言葉として発信していくことには、防災への理解を深める大きな意味があるのではないかと思います。
防災メモはデザインについてもこだわりました。大人には格好よくて読みやすいデザインでも、子どもにとっては文章を追い掛けにくいデザインや、いざというときに落ち着いて読めないデザインもあります。そのような子どもたちの発達も意識してデザインされています。カラーリングは色覚障害を持った子どもたちにも、ストレスなく文章を読める色の組み合わせにしました。日本人の男性の約5%が、先天的な色覚障害を持っているといわれています。この計算だと、男子と女子が半々の40人のクラスに1人の色覚障害の子どもがいるということになります。防災のように大切なことは、なるべく多くの人がストレスなく読めるべきです。そのような考え方からカラーリングにも配慮しています。裏面は子どもたちや家族の連絡先、よく行く場所などをメモする欄を入れました。こちらは個人情報も含まれるため、保護者の任意での記入欄としています。保護者の中には、うちの子はすぐ落とす、すぐなくすから心配で、個人情報を書いた紙など持たせられないという方もいるかと思います。しかし携帯電話の番号は全て携帯に登録していて、携帯が使えなければ番号が分からないという人も多い時代ですので、防災メモに記入しなくても保護者の番号だけは覚えさせる、あるいは親子で考えた秘密の場所に記入しておくなどの工夫は最低限必要かと思います。裏面には家族で相談して具体的な待ち合わせの場所を記入いただく欄や、家族で連絡を取り合う方法なども入れています。これは家族のコミュニケーションツールとして使うことを想定しています。そのために防災キットの他に、保護者に向けた簡単なマニュアルも作成しました。「保護者の方々には子どもと一緒に災害をイメージして行動を考えていただきたい」と考えたからです。そしてもう一つ、このマニュアルの特色として、お問い合わせ先に子どもたちが通う校舎が立地する自治体の防災担当をご案内しました。当たり前ですが、自治体は塾に通う子どもたちの災害対応までは考えていません。でも、こんな場合はどうすればいいのか問い合わせると、多くの自治体の担当者が親身になって相談に乗ってくれます。そして、その相談が自治体の防災対策につながることもあります。小さな問い合わせでも、自治体にとっては気付きにつながることもあると考えて、保護者の方々には、ぜひ自治体の担当窓口に問い合わせていただきたいと考えました。
最後に全体を通じた製作の方針をご紹介します。それは「便利なものを作らない」ということです。防災メモは蛇腹折りにしてポーチの中に入れるようにしていますが、これは子どもたちや保護者が自分で折って入れてもらうことにしています。しかも保存版ということで紙を少し厚めにして、折るのも時間をかけていただくようにしました。防災ホイッスルも自分でポーチにセットするなど、防災キットを自分のものにするためには、自分で何かをしなくてはいけないという不便な仕組みです。もちろん全てをセットして配布することも可能だったのですが、便利なセットはそのまま持つだけで安心してしまい、中身まで見てくれないかもしれません。でも少しだけ不便だと、不便を乗り越えるために自分なりの工夫をしたり、中身に目を通したり、それを使うイメージを膨らませる時間を持てることになります。そう考えると「不便な面倒くさいセット」というのも、このオリジナル防災キットの一つの特色かもしれません。もちろん、それに対する懸念はありましたが、配布後の子どもたちの反応やスクールFCで実施してくださった保護者向けのアンケートの結果から、それは払拭されました。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

会社概要 | 個人情報保護方針