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防災インタビューVol.149

イメージして実践する 災害への備え

放送月:2018年2月
公開月:2018年8月

矢守 克也 氏

京都大学 教授
人と防災未来センター 上級研究員

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

南海トラフ巨大地震で津波34m

南海トラフ巨大地震についてお話ししたいと思います。関東方面の方にはあまりなじみがないかもしれませんが、東日本大震災と同じようなサイズの大きな地震と津波が、西日本でも起こるかもしれないという危険性が指摘されています。その地震、津波のことを南海トラフ巨大地震津波と言います。この南海トラフ巨大地震に関して、非常に大きな想定が出ているということが話の基礎になります。想定というのは、ちょっと堅い言葉ですが、どのぐらいの地震や津波が起こると予想されるのか、それによってどんな被害が出ると予想されるのか、その予想のことを想定と言っています。
南海トラフ巨大地震に関して言いますと、地震の規模としては東日本大震災を引き起こした地震とほぼ同じ規模のマグニチュード9を記録するような地震が起こることが、最悪の場合予想されるという想定が出ています。そうなると、ちょっと信じられない数字なのですが、四国とか紀伊半島の太平洋岸、あるいは東海地方を中心に非常に大きな津波がやって来て、高知県の黒潮町という所では34メートルもの高さの津波が来るかもしれないという想定が出ています。34メートルというと、10階建てのビルの高さです。私はその想定が発表されて以降、この高知県黒潮町に、仕事の一環で何度も行き、土地の方ともたくさん知り合いになりました。そんな中で、1人の80代のおばあちゃんと知り合いになりました。その方が、2つの短歌を詠まれているのを聞いて、これは防災にとってとても大事な意味を持っていると思いました。
その短歌をまずご紹介しようと思います。まず1つ目の短歌がこれです。「大津波、来たらば共に死んでやる、今日も子が言う足なえ我に」。「子が言う」の子というのは息子さんのことだそうです。「足なえ」というのは、要するにこのおばあちゃんは足がだいぶ弱っておられて、杖をついて何とか歩けるという感じで、これは一言でいうと、絶望とかあきらめの気持ちをうたった短歌です。「そんな大きな津波が来るのかと、そんなことになったら足の弱った私なんかは逃げきれないな、一緒に死んでやるよと息子が言っている」という意味です。大きな災害が起きるかもしれないという予想や想定を出すのは大事だけれど、それが出たことでこんな感じに諦めてしまう人、絶望の気持ちに陥ってしまう人をたくさん生むのでは、何のために予想しているのだろう、何のための想定だろうというふうに思いました。
本来は、「防災に対する活動に取り組むぞ」という気持ちになってもらうために出しているはずの想定や予想が、逆に、この短歌のような諦めを生んでしまっている状況を何とかするためにどうすればいいのかということを考えながら、私たちは活動しているのですが、その約2年後に、このおばあちゃんが、全然違う短歌をお詠みになっています。それは、「この命、落としはせぬと足なえの、我は行きたり避難訓練」という歌でした。同じおばあちゃんの短歌とは思えません。2年たったらこのように前向きの歌をうたってくださいまして、単に短歌をうたっているだけではなくて、実際このおばあちゃんは避難訓練に何度も来てくださるようになりましたし、実際に小さな地震で少し揺れたことがあるのですが、その時には高台まで避難されていました。
問題は2年前には絶望の気持ちをうたっていたおばあちゃんが、どうしてこのような前向きな気持ちになってくださったかということなのですが、秘訣、特効薬があるわけではなく、私たちなりに少しお手伝いをしていることが役に立っているのではないかと思っています。

「逃げトレ」で「あきらめ」から「助かろう」へ

このおばあちゃんが住んでいる黒潮町には確かに大きな津波がやって来ることが予想されているのですが、ただ「大きい津波が来るぞ」というだけでは、実際にどう逃げればいいのか、いつぐらいに逃げ出せばいいのかが分かりません。地震が起こってから津波がやって来るまでに少し時間がありますが、早く逃げた方がいいのは分かっています。しかしいろいろ準備もありますから、どうしても時間がかかってしまいます。どのぐらいのタイミングで逃げ出せば、どの方向へ、どこまで逃げれば大丈夫なのかということが具体的な情報となって伝わってこないで、ただ34メートルの大きい津波が私たちの町にやって来るかもしれないという情報だけが伝わったために、このおばあちゃんのように諦めてしまう人や、逆に「34メートルの津波と言っているけれど、多分大げさに言っているだけじゃないの」と油断してしまう人を生んでいました。
そこで私たちは、「逃げトレ」というスマートフォンのアプリを作って、逃げるトレーニングをしてもらおうと考えました。このアプリを立ち上げていただくと、実際に自分がどこにいるかが地図上に表示されて、「スタート」ボタンを押して避難所に向かって移動していくと、自分が地図上を移動していく様子を見ることができます。しかもその後ろから、実際にその地域で想定されている津波が画面上で追いかけてくるというものです。これを使うと、今の自分の逃げ方で間に合ったのか、間に合っていないのか、間に合っていないとしたら、どっち向きに逃げれば、あるいは、あと何分早く出れば津波から逃れることができるのかということが分かります。このようなアプリだけが大事だという訳ではありませんが、このようなアプリを作って、地域の方と一緒に具体的に個別に避難訓練をすることで、単に諦めるわけでもないし、案ずるわけでもなく、自分がどう振る舞えば、どのように逃げれば具体的に津波から逃れることができるのか、という自分と津波の関係がよく分かる訓練を心掛けました。これによって、具体的に結果が分かるので、実際に避難訓練にも出ようという気持ちになってくださった方が多くなりました。その結果、今回ご紹介をした、最初は諦めてしまって、大津波が来たら共に死んでやると短歌にうたっていたおばあちゃんも、「我は行きたり避難訓練」という短歌をうたうようになってくださったということです。
このように、大きな災害に対して、ただ諦めてしまうのではなく、やはり「助かろう」という気持ちになっていただけるように、これからも私たちはお手伝いをしていかないといけないと思っています。

※今回のインタビュー記事は、東急電鉄の協力のもと、「FM salus」が過去に放送した『東急建設 presents 「サロン・ド・防災」』の内容を、一部改定して掲載しています。