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防災インタビューVol.149

イメージして実践する 災害への備え

放送月:2018年2月
公開月:2018年8月

矢守 克也 氏

京都大学 教授
人と防災未来センター 上級研究員

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

幸運を引き寄せた「避難訓練」

私は主な活動の舞台が西日本なので、2011年3月11日に発生した東日本大震災の被災地はあまりなじみがないのですが、ご縁があっていくつかの被災地、あるいは被災者の方とお知り合いになりまして、いろいろな学びを得てきました。その中から、私が頻繁にお訪ねをしている、岩手県北部の野田村という所であった出来事についてお話ししようと思います。
岩手県野田村というのは、岩手県の北部にありまして、やはり大きな津波がやって来て、約50名の方がお亡くなりになりました。この村の海岸からわずか500メートルの低地にあった野田村保育所という所には、当時100名を超える0歳児を含む子どもさんと教職員の方がいたのですが、2階建ての建物が、私が行った時には跡形もなくなっていました。そのような大きな被害を受けたにもかかわらず、全員無事に助かっていました。
この保育所では、あの3月11日の午後3時から避難訓練をしようとしていたのです。東日本大震災の被災地は広いですが、このような偶然はほとんどないと思います。地震が起きたのは2時46分ですが、この日、3時からの避難訓練に備えて、2時半に保育所の職員の方たちが、子どもたちを昼寝から起こしていたそうです。寒い時期ですから、3時からの訓練に備えて、ちょっと厚めのコートを着せたり、まさに今から逃げようという訓練をする準備をしていたら、本当に地震が起こったという、そういう偶然があったということです。もちろんこれは、まさに今から逃げるための準備をしようと思っていたら逃げなければならない出来事があったわけですから、そういう意味では幸運な出来事だったというふうに思うのですが、私が大事だと思うのは、これはただの幸運ではないということです。これは、保育所の皆さんが、それまで積み重ねてきた避難訓練の努力がいわば幸運を招き寄せたわけで、努力を積み重ねていたからこそ、まさに避難をしなければいけない時にちょうど避難訓練をしていたという偶然の重なりがあったので、それがとても大事だと思います。
普通、避難訓練というと、年に1回だけみたいなイメージがありますが、この保育所では、月に1回、避難訓練をしていました。しかも、この保育所は海岸線から非常に近い所にあって、津波浸水エリアだということを職員の方たちが特に気にしていて、月に1回、避難訓練と銘打った訓練をやるだけではなく、ある意味で、毎日避難訓練をしていました。それはどういうことかというと、通常保育所や幼稚園では、体力作りや地域のことを勉強するため、花や虫を見に行くなどいろいろな目的でよく子どもたちをお散歩させていますが、この野田村保育所では、毎日のお散歩は「速足散歩」と名付けられていまして、これが実は隠れた防災訓練になっていました。
「速足散歩」というのは、行きは速足で、帰りはゆっくり歩いて帰って来るという意味なのですが、その行きの速足に秘密がありまして、この速足で幼稚園から出掛ける、それもいろいろな方向に出掛ける、いろいろな季節に出掛ける、いろいろな天候の日に出掛けるということを繰り返して、保育所の先生方は「津波が来たときに一体何分ぐらいで子どもたちはどこまで行けるものなんだろうか」「どの方向に歩くと一番早く安全な高台まで行けるのか」ということを、普段のお散歩を通して探っていました。実際にその「速足散歩」という名の隠れた毎日の避難訓練を通じて、高台に逃れるにはこの道を通ると一番いいという道を1つちゃんと見つけていました。それはあるお宅の畑を横切る道だったそうですが、その畑の持ち主の方にも事前に、「いざというときには通らせていただきたい」というお願いをしていました。そして、この野田村保育所は2011年3月11日、あの時もまさにその道を通って比較的スムーズに高台に逃れることができたそうです。0歳児は保母さんがおんぶか抱っこをして、1歳児、2歳児は3歳児が手を引いて、命からがら逃げた結果、全員の命を守れたということです。
ですから、たまたまあの日、避難訓練をする直前であったという偶然、幸運があったのは事実ですが、その幸運のベースには毎月の避難訓練、そして毎日毎日行う散歩の中でも、避難ということを意識していたという、ものすごく地道な積み重ねが当日の幸運を招いたということで、そこがポイントになるのではないかと思います。私たちも、日々の暮らしの中で、防災のことを考えていかなければならないということを学びたくなる事例です。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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