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防災インタビューVol.149

イメージして実践する 災害への備え

放送月:2018年2月
公開月:2018年8月

矢守 克也 氏

京都大学 教授
人と防災未来センター 上級研究員

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

防災ゲーム「クロスロード(分かれ道)」

私は関西出身ですので、関西で「大震災」といえば、今から約23年前の1995年に起きた「阪神淡路大震災」です。阪神淡路大震災が起こった時に、自分の実家も多少被災をし、自分自身も被災地にボランティアに出掛けたりしました。その時の経験なども踏まえて、その後仲間と一緒に、阪神淡路大震災の学びを被災していない方に伝えるための一つの教材として、「クロスロード」という名前のゲーム型の防災教育教材を作成しました。
「クロスロード」というのは、「分かれ道」という意味です。人生にもいろいろな分かれ道があると言われますが、阪神淡路大震災の当時も、被災者や地元自治体の職員の方、あるいは救援に駆け付けたボランティアの方が、「これは一体、左に行く方が正解なのか、右の道をとる方が正解なのか、どうしようか」と、心から迷うようなたくさんの難問、「分かれ道」に被災直後から出会っていました。
この阪神淡路大震災の被災地での学びを伝えるためには、簡単なノウハウを覚えることよりも、「被災地ではこんな難問に出会うんだ」「左が正解なのか、右が正解なのか」「イエスが正解なのかノーが正解なのか」なかなか決められないような難問がたくさんあるんだということを学ぶことが大事だと思って、この「分かれ道」という名前の「クロスロード」という教材を作りました。
例えば、今皆さんが避難所のお世話をしている人になったと思ってください。その避難所には3千人の方が避難して来ていますが、到着した食糧は2千食分しかありません。その後いつ来るかも見通しが全く立っていません。こんな状況で「皆さんが避難所のお世話をしている人なら、この2千食を今すぐ配りますか? それとももうちょっと待ちますか?」という問題です。これは一長一短あります。配らないということで混乱を招いたり、あるいはせっかくの食糧を腐らせたりという可能性もありますし、一方で、人数分行き渡らないものを配ることで起こる混乱もありますし、次の見通しも立っていない中で全部配ってしまっていいのかという恐れもあります。つまりこういう問題は、なかなか防災マニュアルの形で、事前に正解はこうですという形では学べないものです。むしろ被災地で実際に起こった難問はどんなものがあるかを知って、自分たちがそういう難問に出会ったらどうしようかということを考えていくことが大切です。この「クロスロード」というゲームは「イエス」「ノー」のカードを持ってやりますが、「私なら2千食全部配っちゃうな」「いや、私はもうちょっと待っておくよ。ノーだよ」というようなことを皆さんで話し合いながら、「ああそうか、被災地ではそんな難しい問題が起こるんだ」「自分たちが出会ったらどんなことを大事にしながらどんな判断をするんだろうか」と、そんなことを主体的に考えながら事前に防災、災害のことを学んでいくことができます。
この「クロスロード」というゲームのポイントは、必ずしも正解が1つには決まらないということです。もともと難問なので、正解は決まらないけれども、実際にはこういう難問が起こるということを事前に知っておくこと自体が勉強になります。また、このゲームは1人でやるのではなく、5、6人のグループで話し合いながらやります。それを通して、「自分ならこうする」と絶対思っていたのに、そうじゃない意見の人がいるんだという気付きも得られることをポイントにしています。
具体的なお話をすると、先ほど「避難所に3千人いるのに2千食しかご飯が届いていないけれど、これは全部配ってしまいますか、イエス、ノー」という問題を紹介しましたが、この問題を子どもたちに考えてもらったことがあります。その時にとてもユニークなことを言ってくれた子どもがいまして、非常に印象的でした。それはどういうことかと言うと、この問題で、「2千食まず配る」という場合に、「では、どういう基準で配りますか?」というと、たいてい、お年寄りや赤ちゃんのいる方、お母さんから先にと答えますが、私がある小学校でプレイしたところ、ちょっとやんちゃそうな男の子たちが「配る」、しかも「自分たちから食べる」と言いました。ちょっとやんちゃそうな子でしたので、ただ食べちゃうだけなのかなと思っていたら、そうではなくて「自分たちは食べて元気になるので、その後、不足している足りない食糧を調達に行きます」と言うので、見直しました。単純に「偉いな」とも思いましたが、このことは、もう一つ、大事なことを示していました。例えば近年の被災地、特に熊本地震の被災地などを考えても、個々の末端の避難所まではなかなか物資が行き渡らないけれども、1キロか2キロ手前の集積場までは来ているということがよくあるのです。ちょっと手前まで来ているのに、最後の末端の所までが行かない、なかなか最後の1キロ、2キロの距離が遠くて救援物資が届かないということを、「ラストワンマイル問題」とよく言います。そういうことを考えると、子どもたちが提案してくれたように、避難所にいる元気のいい人が集積場までご飯を取りに行くという姿勢を持っているというのは、実際の避難所でもとても大事なことです。
そういう非常に大事なことを先ほどの「クロスロード」の問題を通じて小学生の男の子たちが提示をしてくれたことは、私自身もとても勉強になりましたし、その時一緒に参加していた大人たちも、「それもそうだね」というふうに言っていました。もちろんこの子どもたちのように振る舞うことだけが常に正解かどうか、それは分かりません。そういう意味でも「クロスロード」は、正解を教えるゲームではなく、「こんな考えもあるよ」「こんなやり方もあるんじゃないか」ということを皆で考えるということを狙いにしているゲームなのです。「自分たちから先に食べて」と、一見身勝手なようですが、「食べ物を調達に行くよ」と言っている男の子たちもなかなかいい「クロスロード」のプレイをしてくれたと思いました。

※今回のインタビュー記事は、東急電鉄の協力のもと、「FM salus」が過去に放送した『東急建設 presents 「サロン・ド・防災」』の内容を、一部改定して掲載しています。