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防災インタビューVol.164

「ペットのための防災対策」

放送月:2019年5月
公開月:2020年1月

田中 奈美 氏

武井動物病院
学術担当・獣医師

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

プロフィール

私は武井動物病院で飼い主さま向けのセミナーを企画したり、獣医師向けに治療に関しての学術情報を提供する仕事をしています。当院では動物の治療に真摯に取り組むことを最も大切にしていますが、それに加えて動物と飼い主さんの快適な暮らしをお手伝いするためにさまざまな情報をお届けしています。私が、防災について取り組むことになったきっかけは、被災地でのペット対応に当たった行政職員、獣医師や民間団体の方のお話を聞く機会があり、「これは動物の問題だけではなく、飼い主さん、そして動物を飼っていない人の健康や、場合によっては命に関わる問題だ」ということを強く感じたためです。災害時の対策の必要性を動物の飼い主さんにお伝えすると同時に、動物のことだからといって切り離してしまうのではなく、広い意味で災害対策の一環として考えていくことが大切だと思うようになりました。
このような考えの下、現在は動物病院での活動の他、東京大学の災害対策トレーニングセンター、DMTCの活動に参加しています。DMTCでは災害時に必要となる対応業務をプロセスとして明らかにして、その研究結果をトレーニングという形で提供することを目指しています。広く災害対策を扱う全体のトレーニングの中で、動物に関連することも学んでいただけるように活動していきたいと思っています。

ペットにも必要な災害対策

まず「なぜ動物の災害対策が必要なのか」を過去の災害の事例から考えてみたいと思います。実際にはペットだけではなく、牛や豚など産業動物と言われる動物の問題もありますが、今回はペットに限ってお話をしたいと思います。
大きな災害が発生するとその混乱の中、正確な情報が得られないことも多く、的確な判断をするのが難しい状況になると思います。動物を飼育している場合は、なおさら難しくなります。東日本大震災ではいったん避難した飼い主がペットを避難させるために自宅に戻り津波に巻き込まれたケースもありました。これは日本だけのことではなく、アメリカでも火災や洪水に遭った家などから自分のペットを助けようとしたり、危険な地域からの避難を拒否したりしたためにけがをしたり、命を落としてしまうということが実際に起こっています。「災害時なのだからペットどころではない」と批判する方もいるかもしれません。しかし動物自体は何か悪いことをしたわけではなく、世話をしなければ死んでしまいますので、飼い主さんにとっては放ってはおけないというのが現実だと思います。
なんとか避難所に一緒に逃げることができたとしても、さまざまな問題が起こってきます。避難所には動物が苦手な人やアレルギーのある人をはじめ、さまざまな方が集まります。そのような中で動物の臭いがきつい、鳴き声がうるさい、毛が舞うなど動物に関連するトラブルは身も心も疲れた被災者にとって大きなストレスになるとともに、衛生上の問題も発生します。熊本地震ではペットの受け入れのルールが決まっていないまま受け入れたことで、後にトラブルとなった事例が多く見られました。このようなトラブルはペットと人との住み分けがされていない場合に多く起こります。迷惑を掛けてはいけないという思いから、自ら避難所を離れたケースもありましたし、飼っている人が怒鳴られて出て行くということもあったそうです。避難所で生活できなかった人は被害のあった家に動物を置いて、世話をしに行ったり、車の中で一緒に寝泊まりした人が多くいましたが、正確な数は把握できていません。このように、普段はペットは飼い主さんにとって心を癒やしてくれる存在ですが、災害時の対策が十分でないと動物自身はもちろんのこと、飼い主さん、そして飼っていない人にまで大きな影響を与えることが分かっています。
また、災害時には放浪動物による問題も発生します。東日本大震災では地震などで壊れた建物から逃げ出した動物も多くいました。福島県では原子力発電所の事故により、警戒区域が設定されて、飼い主さんはペットを自宅に置いたり、つないだまま、また外に離して避難せざるを得ない状況になりました。このような中で実際に水も食べ物も得られずに亡くなった動物もいます。また、放浪した動物が家の中に住み着いたり、住民を威嚇するということも起こりました。アメリカでは放浪動物が救助隊にかみついたという事例もあるそうです。飼い主も不明で健康状態も悪い動物が被災地で放浪するということは動物愛護の視点からだけではなく、公衆衛生上の問題が発生し、人と動物の共通の感染症などの問題を引き起こす可能性もあります。
ペットの災害対策を考えていくということは、動物を守るというのはもちろんのこと、被災した飼い主さんの安全を守り、生活を支援するため、そして主に避難所でのペット飼育を適正に行うことで飼い主さん以外の被災者、つまり全ての方の健康と安全を守ることにつながります。そして放浪動物による公衆衛生の悪化を抑制することにもつながります。このような対策の必要性から、中央防災会議や環境省からも災害時の動物に関しての対応が示されています。
防災基本計画には、防災知識の普及として、飼い主さんによる動物との同行避難や、避難所での飼育についての準備が記載されています。また「市町村は必要に応じ、避難所における動物のためのスペース確保に努めるもの」としています。同様に「応急仮設住宅においても、受け入れに配慮するもの」としています。さらに「市町村や都道府県は被災した動物を保護し、伝染病予防などの衛生管理について必要な措置を行う」としています。これらの防災基本計画を基に都道府県や市などの地域防災計画が作られています。環境省からは「人とペットの災害対策ガイドライン」が2018年3月に発行されました。この中では「災害時の対応は飼い主による自助が基本」としていますが、個人による対応にはやはり限界があります。そこで行政は被災者を救護する観点から、「災害時にも被災者がペットを適切に飼育できるようにし、飼い主の早期自立の支援をし、全ての被災者の生活環境の保全を図る」としています。詳しくは環境省のホームページからダウンロードできますので、ご興味のある方はぜひご覧になってください。
ここ横浜市の青葉区ではいったい何頭の犬が飼育されているでしょうか。犬の飼育頭数で見てみると、青葉区は横浜市の中でナンバーワンとなっていて、2018年のデータでは、飼育頭数は16,145頭、世帯数が128,098世帯ということですので、飼育率で言うと約12.6%ということになります。犬は狂犬病予防法という法律で、飼育した際にはその居住している市町村への届け出が義務付けられていますので頭数が分かりますが、猫については届け出の制度がないため、正確な数が分かりません。全国調査の推計値では、犬の頭数よりも猫が多いと言われています。ですので、飼育率で考えると約2割のお家で犬猫が飼育されていて、さらにウサギやハムスター、鳥など、他の動物も合わせるとさらに多くなると考えられます。このように実際の数から考えてみても、対策の重要性が感じられるのではないかと思っています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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