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防災インタビューVol.164

「ペットのための防災対策」

放送月:2019年5月
公開月:2020年1月

田中 奈美 氏

武井動物病院
学術担当・獣医師

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

ペットの災害対策トレーニング

東京大学に「災害対策トレーニングセンター DMTC」というものがありまして、2018年度には、モニタートレーニングを行い、そのカリキュラムをより良いものにするための検討を行っていました。その中で私も「人とペットの災害対策」と題して、1コマを担当させていただきましたので、そのトレーニングの様子についてお話ししたいと思います。
今回のトレーニングには、防災に携わる自治体の職員の方や企業の防災担当者、地域の防災リーダーなどが参加してくださいました。初めに座学で災害時になぜペット対策が必要なのか、過去の事例や関連する法律ガイドラインなどを紹介しました。座学の途中には実際に見ていただくのが一番と思い、犬を使ったデモンストレーションを行いました。初めに迷子対策として使われているマイクロチップの読み取りを実演しました。続いてしつけの重要性を知っていただくために、「ハウス」の掛け声でケージ内に入り、おとなしくするというハウストレーニングを実際に見ていただきました。もしかすると単純なことに感じるかもしれないのですが、実は犬はケージを警戒して怖がるので、普通は訓練しないとできません。今回参加してくれたイタリアングレイハウンドのサスケも生後3カ月の子犬の頃から飼い主の獣医師が徐々に慣らして、ケージ内も怖がらないように訓練をしてきました。トレーニングは成犬にもできますが、犬にも性格や犬種ごとの特徴もあるので、1週間ぐらいで身に付く子もいれば半年でもなかなかできない子もいます。災害時にはケージ内で過ごすことも多くなりますので、このような訓練はとても大切です。受講者の方からは、「他の人がハウスと指示してもできますか」「大型犬でもケージに入れるのですか」などという質問が出ました、普段動物に触れ合わない方も多くいるので、実際に見てみると実感が湧いたようでした。
デモの後は3つのワークを行いました。初めは避難所スペースの檻振りについて考えるワークでした。屋外飼育で屋根がない場合、室内で被災者と動物が同居する場合などのメリット、デメリットをグループで話し合ってもらいました。ワークを通して「避難所で動物を受け入れる際にどのような問題が発生する可能性があるのか」というのを感じていただけたようでした。2つ目のワークでは避難所の屋外でペットの飼育場所を設置する場合、どのような場所が良いかを考えるものでした。例えば自転車置き場などの軒先を利用したり、なるべく人の動線と交わらない場所に設定するなどの工夫を考えました。過去の災害では具体的な敷地の利用計画が決まっていないことが多々ありましたが、これからは事前に計画を立てておき、どこで動物を飼育するのか考えておくことが災害に備えることにつながると思います。最後のワークは「ペットに関する災害対応プロセスを考えよう」というものでした。発災前は飼い主さんへの啓発や、避難所でのペット対応を決めておくこと、発災後には避難所でペットを連れた方の避難者の受付、飼育ルールの周知などたくさんのプロセスが出てきました。このように必要な対応を明らかにしておくということはとても大切だと思います。受講者の方からは、「正直ペットは飼っていないから関係ないと思っていたけれども、今回対策の必要性が分かった」「人と動物の共通感染症のことを考えると、災害時の獣医師の役割は大切ですね」「自分の住んでいるマンションにもペットがいるので、こういった対策は必要ですね」という声も頂きました。また、ペットを飼育している方は、「これからペットの健康情報をまとめます」とおっしゃっていました。
今後はこのモニタートレーニングの結果を振り返って、来年度以降の内容に生かしていきたいと思っています。DMTCの活動についてご興味のある方は、インターネットでDMTCと検索していただければホームページがありますので、ぜひご覧になってみてください。

ペットのための日頃からの備え

武井動物病院では、動物と飼い主さんにとって身近な存在である動物病院からペットの防災について働きかけることが重要だと考えており、さまざまな取り組みをしています。前述のように、災害時には動物の健康管理が大切ですし、ワクチン接種やノミダニ対策などの記録を残しておけば避難先で動物を預けることになってもスムーズに対応してもらえます。そこで当院ではオリジナルのペットの健康防災手帳を作成し、受付でお配りしています。このシートには飼い主さんとペットの写真を貼るスペースや飼い主さんの連絡先、ペットの情報が書き込めます。基本情報だけではなくて、その子の性格やフードの種類、ワクチンの接種状況や健康状態、そして使用中の薬なども記録することができます。飼い主さんの中には、「家には2匹いるので2つ頂いていくわね」と言って持って行ってくださった方もいました。このシートに必要事項を書き込むことで皆さんがペットの防災対策を考えるきっかけになってほしいと願っています。アプリなどでペットの健康管理をされている方もいらっしゃるかもしれませんが、基本情報は紙媒体でも保存しておいて、持ち出し袋と一緒に入れておくと安心だと思います。横浜市のホームページでは「災害時のペット対策」という資料をダウンロードできます。その中には安心手帳といって、同じような内容のものがあり、ご自分で印刷して作ることができます。飼い主の方はぜひご覧になってみてください。
また当院では、昨年2018年に、石巻市での支援にも参加されているドッグトレーナーの先生をお招きして、防災トレーニングセミナーを実施しました。セミナーでは災害時のペット対策について座学で学んだ後に、実際にワンちゃんたちと飼い主さんにハウストレーニングに挑戦してもらいました。災害時に避難する場合はキャリーケースに入れて運ぶ可能性がありますし、避難先ではケージ内で過ごすことが多くなります。そのために、普段からケージ内に入ることを慣らしておかないと、中にいること自体がストレスになって、口が傷つくまでケージをかんでしまったり、ほえたりする動物もいます。普段からこのようにハウストレーニングをして、動物にとってケージを安心できる場所にしておくことは、災害時のストレスを減らすことにつながります。ハウストレーニングだけではなくて、「待て」や、「こちらへ」と言った基本的な指示が分かったり、無駄ほえをしない、人をかんだりしないようにしておくことも、人の社会で一緒に暮らしていくためにはとても重要なことだと思います。どうしてもキャリーケースを怖がる場合は、家の中に普段から置いて慣らしてみて、その中でフードなどをあげるところから始めてみてはいかがでしょうか。また、犬だけではなく猫もキャリーケースに慣らしておく必要があります。というのもキャリー嫌いだと、避難時に逃げて捕まらないこともあるからです。
ハウストレーニングの当日は、初めはどのワンちゃんもキャリーケースを警戒して、フードをケージの中に入れても頭だけを入れて取ろうとしていました。トレーナーの先生がその子の性格を見て、「次はこんなふうにやってみてください」「このタイミングで褒めてください」といったアドバイスをしてくださるので、徐々に慣れていくことができました。しかしながら、1回ハウスに入れたからといって、ハウストレーニングが身に付くわけではなく、練習が必要になりますので、お家に帰ってからも継続してやっていただくことになりました。
以上当院での防災に関する活動をご紹介しましたが、他にも院内のポスター掲示やLINEを使って情報を発信しています。このような活動は継続して行うことが大切だと感じていますので、今後も最新の情報を取り入れながら、飼い主さんに分かりやすいよう興味を持っていただけるようにお伝えしていきたいと思っています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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