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防災インタビューVol.164

「ペットのための防災対策」

放送月:2019年5月
公開月:2020年1月

田中 奈美 氏

武井動物病院
学術担当・獣医師

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

マイクロチップによる迷子対策

災害対策のひとつとして、飼い主さんが普段からできることに、迷子対策としてのマイクロチップがあると思います。人と同じように災害が起これば動物も驚いておびえますし、場合によってはパニック状態になります。過去の災害では地震の揺れや音などで驚いてドアや窓、網戸の隙間から逃げてしまうなど、行方が分からなくなってしまった事例が多々ありました。特に猫は素早い動きができますから、逃げるとなかなか捕まらないと思います。実際に東日本大震災の仙台市では、発災当初保護しているペットの情報を紙に手書きにして、避難所に掲示して飼い主探しの対応をしたという事例もありました。災害をきっかけに放浪をした動物もいれば、地域によってはもともと飼い主のいない動物もたくさん住んでいますので、身元が分かるものがないと探すのは本当に大変なことだと思います。飼い主が分からない動物が放浪するということは、人にとっても場合によってはかまれる可能性などもありますし、感染症など公衆衛生の面からも良くないことですので人の健康を守るためにも対策をしなくてはいけません。また動物からすれば、飼い主の元に帰りたくても話すこともできませんし、水も食糧ももらえず命に関わる状態です。動物を守るためには飼い主さんが普段から迷子対策をしておくことが重要です。
対策としては首輪と迷子札を付ける、犬では狂犬病予防法で義務付けられていますが鑑札や狂犬病注射済み票を付ける、またマイクロチップを入れるなどがあると思います。このうち首に付けるものについては、さまよっているうちに痩せてきてしまって、首輪が外れてしまうということもあります。顔で覚えているから大丈夫というふうに思っていても、放浪中に顔にけがをしたり、体重が減ってきたりして顔つき自体が変わってしまうこともあります。そこで有効とされているのがマイクロチップの装着です。マイクロチップというのは簡単に言うと体に埋め込むタイプの身分証明書のようなもので、専用のリーダーで読み取れば飼い主さんが分かる仕組みになっています。マイクロチップは世界中で使用されていて、世界で唯一の番号である15桁のID番号が記録された小さなチップを、動物病院で専用の注射器を使って首の後ろに埋め込みます。麻酔は必要なくて、「痛くないの?」と心配される方もいるのですが、痛みは普通の注射程度であっという間に終わると思います。装着後には登録用紙を日本獣医師会に送って情報を登録してもらいます。登録できる情報としては、飼い主さんの名前、住所、電話番号、メールアドレスなどの連絡先と、動物の名前、生年月日、性別、動物種、毛色も登録できます。実は東日本大震災では、マイクロチップを付けていたものの、情報を登録しておらずに飼い主が分からなかった事例というのもありますので、確実に情報を登録することも大切です。また、登録したから大丈夫という方でも最近引っ越しをしたという方は変更手続きを行う必要があります。迷子になってしまった場合は全国の自治体や動物病院による専用のリーダー、読み取り機を使って番号を読み取り、事前に登録した獣医師や行政職員が専用のサイトで検索するか、または獣医師会に問い合わせることで飼い主さんの連絡先が分かるという仕組みです。
マイクロチップや迷子札の装着以外に事前にできる対策としては、ペットの写真入りの迷子ポスターを作成しておくことや、ペットの写真だけではなく、飼い主さんが一緒に写った写真を撮っておくことも有効です。これは確実にこの動物の飼い主が私ですということを証明するものになります。携帯電話に写真を保存しておくだけではなくて、印刷しておけばすぐにポスターなどにも利用することができると思います。このような対策をしておくことは、普段万が一逃げてしまったときにも有効ですし、災害時には動物を守ることにつながると思います。

健康管理と人と動物の共通感染症

災害時には人と人との間で、例えばヒトノロウイルスやインフルエンザなどが流行するように、避難所では過密状態でストレス下にある動物でも消化器や呼吸器系の病気が増えます。中には動物同士で感染する病気もあり、ワクチン接種が有効な病気もあります。例えば犬では狂犬病ワクチンが義務付けられていますし、他にも犬用猫用の感染症のワクチンがあります。このように動物だけで広まる病気もあれば、人と動物の共通の感染症というものもあります。
特に、SFTS、重症熱性血小板減少症候群と呼ばれる病気は、SFTSウイルスを持つマダニにかまれることで感染します。現在西日本を中心に患者さんの届け出がありますが、この病気にかかると発熱や嘔吐、下痢の他、神経症状などが起こることがあり、実は人での致死率は約16%という病気です。現在は、治療は対処療法しかないと言われていて、流行地では、犬や猫の感染例も実は報告されています。今のところ、東京や神奈川では患者発生の届け出はないのですが、森林だけではなく草むらなど、東京の市街地にもマダニというのは生息しています。人がマダニに直接かまれないように気を付けるだけではなく、動物を飼っている人はペットがマダニにかまれて感染しないように動物病院で薬を処方してもらうとよいと思います。
もう1つ重要な病気として、狂犬病を紹介したいと思います。狂犬病は犬だけではなく、人を含む全ての哺乳類がかかる病気で発症すると致死率はほぼ100%といわれています。実はいまだに世界では年間約5万人が死亡していて、日本などごく一部の国を除き全世界に分布している病気です。日本では輸出入検疫などで狂犬病の動物の侵入を防いでいますが、近年海外との行き来は盛んになっていて、今後感染した動物が持ち込まれる可能性はゼロではないというふうに言われています。実は日本でも1920年代には犬で約3500件発生していましたが、1950年に狂犬病予防法が制定されて対策が取られたことで、7年で撲滅することができました。人への感染は主に犬による咬傷のため、犬への予防接種が効果的と言われており、犬の飼い主さんには狂犬病予防法により犬の登録と年1回の狂犬病予防注射、そして鑑札と注射済票の装着が義務付けられています。
ここまでのお話で、「動物は、危ないのではないか?」と不安に思ってしまう方もおられるかもしれませんが、単に動物が同じ避難所にいるからと言って危険だということはないと思います。何事も過度に反応するのは好ましくないことだと思いますが、正しい知識を持った上で対応するということはとても大切なことです。動物の飼い主さんはワクチン接種やダニノミ対策などを行うことは、災害に備える事でもあるということを意識していただければと思います。また、災害時には動物救護対策本部というものが立ち上がり、行政職員や獣医師会、民間団体などの方が協力して活動します。このような活動は被災動物の健康を守り、飼い主さんを支援するだけではなく、同時に感染症の広まりなどを抑制するなど公衆衛生の悪化を防ぐためにも活動しているということを知っていただけたら嬉しいです。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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