地域を守る「ボトムアップ」のアプローチ
学生の頃から地域での入浴介護のボランティアをし、大学で看護教育に携わったり、研究をしてきましたが、過去を振り返ってみると、私は災害に関連して今までいろいろな役割を経験させていただいたと思います。WHOの神戸の研究センターで勤務していた2015年に仙台で世界最大級の世界防災国際会議が開かれました。この国際会議では、世界各国から政府の方やボランティア、NPOの方たちが集まり、それぞれの国の方がいろいろな意見を交換しながら、「仙台防災枠組」を作り上げていく過程を目の前で見させていただきました。その際に感じたのは、災害のときに弱い立場に立つ人というのは、普段の生活においても弱い立場にあるということです。やはりそのような人たちが弱い立場に追い込まれないような仕組みづくりを普段の社会の中で作り上げておく必要があります。災害が起きたときに、弱い立場の人たちをさらに困難な立場に追い込んでしまわないよう、非災害時の日常生活の中でのアプローチをどのようにしたらよいかを事前にしっかりと考えておくことが大切だと思います。通常、このアプローチは、行政から住民へという形でトップダウンの形で決められることも多く、特にコロナ禍においては、「このような形で行動しましょう」というような形で指針がトップダウンで示されることが多くなっています。海外では一方的に政府がロックダウンという形を取って抑えてしまう国もありましたが、日本の場合は法的規制があまりなく、お互い様子を見ながら緩和的なやりとりもありますので、その点では、海外と日本の場合はアプローチが全然違うものになっています。
このように、コロナ禍でしたら、感染者がどのように増えるのか、経済の状態がどういうふうに移り変わるのかということを指標で見たりすることができますが、災害の場合は、指標で判断するというよりは、自主性が一番問われるところですので、やはり災害の際にはトップダウンのアプローチではなく、地域に住む方たちが事前から課題をみつけ、自分の地域は自分で守るというオーナーシップというか、自分の地域だという意識が高まれば、自助効果も上がるのではないかと思っています。
何かに対処する際に、「トップダウン」「ボトムアップ」というように、いろいろな方策がありますが、トップダウンという形では、「何々をしなさい」という形で言われることで、やはりどうしても圧力的なイメージがあります。ボトムアップという形でしたら自分がやろうとしている行為に関してコントロールが持てるので、このことがとても大切だと思います。現在、私が研究を進める中で、ボトムアップという形でのアプローチについて、実際にはどのような形がいいのかを模索しています。「このようなエビデンスがあるので、このようなアプローチがいい」というように、効果的なボトムアップの方法のエビデンスを探すのが私の課題ともなっています。
地域からのエンパワメントの必要性
地域防災についての研修を考えた場合、事前に自分が関わることに問題意識を持って準備をしてから研修を受けた場合と、受動的に誰かに言われたから研修を受ける場合とでは、研修を終えた後のアウトカムは違ってきます。それぞれ参加者が各自の課題を持ちながら「こうやってみたい」とか「この課題はどうやったら解決できるか」ということを考えながら研修やワークショップに参加することが大切です。
そういう中で、2019年に女性のエンパワメントを進めるためのプログラムとして、広島でワークショップを開催させていただきました。地域でいろいろな活動をされている方たちに、それぞれがなさっていることの情報交換をし合い、可視化することを目指しました。実際にそれぞれの活動を可視化して、認識し合うと、そこからまた一緒に活動をしてみようという広がりもできますし、自分の活動が当たり前のことではなく、大切なことであるという認識をすることで、さらに違った活動も見えてきたり、固定観念にとらわれない活動が広がってくることになります。それが一番大切なことだと思います。
地域防災に関しては、日本はとても進んでいます。さまざまな力強いプラットホームがあり、それを後押ししてくれる団体があるのも、日本ならではのことです。私としては「日本の防災はこうですよ」ということをどんどん海外に発信していくことが必要だと思っています。
私が広島でのワークショップをさせていただいたのは、この地に赴任して間もない時でしたが、ワークショップを通して、いろいろな方と知り合う機会になりました。このように、いろいろな方と知り合いながらネットワークを築いていくことも、防災を進める一つの大切な要因になるのではないかと思います。ワークショップに参加してくださった方が、今度は自分の地域に帰って、「地域のためにこうしよう」というアクションプランを考えて、継続的にやってみた結果をまた次に会ったときに聞けるのも、楽しみの一つとなっています。