プロフィール
私は、辰美産業株式会社東京営業所で所長をしています。本業は建設業で、発電所などのプラント設備や橋梁、船が離着岸する港の岸壁など、私たちの生活基盤を支えるインフラ設備のメンテナンス、保守をする仕事をしています。
私は、これまでにこのラジオに出演された方々のように防災を専門にしている人間ではありませんが、今日はこのラジオをお聴きになっている皆さんと同じ市民として、どのように防災に関わってきたかをお話ししたいと思っています。
建設業と防災
私が従事している建設業というのは、防災、減災に深く関わることができる仕事と言えると思います。例えば1995年に発生した阪神淡路大震災では、その死者の約8割が、建物の倒壊による圧迫死や窒息死によるものでした。亡くなった方は学生が多く、特に賃料の安い古い木造アパートの1階に住んでいて下敷きになって亡くなってしまった方が非常に多かったそうです。そうした災害の教訓から、建築基準法がこれまで何度も改正され、建設物の耐震化、インフラの耐震化が進められてきました。また、2011年の東日本大震災を受けて「国土強靭化基本法」が施行され、「国土強靭化基本計画」と呼ばれる国の計画指針が施行されました。この計画は、30年以内に70%程度の確率で発生すると言われている南海トラフ地震や首都直下地震など、今後起こり得る災害に対して、被害を最小化するように、そして迅速な復興につなげられるように重点施策を盛り込んだ計画になっています。この計画によって今後5年間、政府は約15兆円の予算を対策のために確保しています。このように私たちの土木、建設業界というのは災害に対して備えるために進化してきた業界と言えると思います。
私が携わっている建設業はもちろん防災に接点がありますが、その他、医療や放送なども含めて、どんな業界にいる方も、必ず防災との接点は持っていると思います。
災害に備える建築物の健全化
1993年に釧路沖を震源とするマグニチュード7.8の地震が起こった際には、北海道東部の各港で甚大な被害が発生し、その被害額は100億円以上に上ったそうです。調査の結果、これらの岸壁は、すでに老朽化して強度が低下しており、それが地震によって水中で折れてしまい、岸壁が全壊したことが分かりました。船が離発着するための岸壁が壊れてしまうと、貿易や漁業といった日本の港湾における経済活動に甚大な影響を及ぼすことになってしまいます。それを防ぐために、私たちの会社でも、過去の震災を教訓に新しい技術を開発してきました。岸壁が鉄の板でできている場合、この鉄の板の岸壁をサビから守る工事をして、健全な状態を維持しておくことで、もしものときには、建造物が全壊することを防いで、経済的な損失と人命被害を最小限に抑えることができます。この工事を私たちは従来の方法よりも3倍早く完了できる技術を開発しました。
日本の建築物の多くは、高度経済成長期に建設されているので、それらは建設からほぼ50年が経過した現在、一遍に寿命が来てしまうことになります。例えば港湾を例に挙げますと、5年後の2026年には何と約40%以上、ほぼ半数の岸壁が建設後50年を迎えると言われています。この状況で、もしまた釧路沖地震のような大地震が発生したら大変です。財源の確保も容易ではないでしょうし、これから日本の人口は減少していきますから、人材を確保することも困難です。私たちの建設業でも、その例に漏れず、若者離れが進んできています。災害に強い国を目指し、それを維持していくためには、人材不足に対しても向き合い、今ある技術をより早く、そして誰でも簡単にできるように進化させることで、必要になる人手と時間を抑えて、トータルコストを抑えて構造物を健全に保ち、災害が起きても被害を最小限に食い止めることが求められています。
また、全国的に見ると、老朽化が進んでいる建造物を健全に保つための予算が自治体によっては確保できず、なかなか補修ができないようなところもあり、格差が広がってきているのが現状です。その解決策の一つとして、私たちのような民間企業が努力して、より安く、早く、人材と時間をなるべくかけずにできる工法をさらに開発していくことが必要だと思っています。これらのことが、私が本業を通して、防災、減災に関わるようになった理由の一つであり、この仕事への使命、やりがいを感じているところです。