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防災インタビューVol.190

台風19号による千曲川氾濫 ~福祉施設の避難と復興への道筋~

放送月:2021年7月
公開月:2021年11月

松村 隆 氏

社会福祉法人賛育会豊野事業所 元事務長

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

一般の避難所と福祉施設の避難所の違い

今回の被災と避難の体験の中で分かったことがありました。それは、行政が考えている避難所や水害の際の支援は一般の方向けのものが中心で、私たち福祉施設が考えているものとは、開きがあるということです。

1日目の避難で120名ほどの入所者をDMATが避難させてくれたのですが、その後、NGOの団体の方が来て、行き先の決まっていない残りの居者の方をどこに移動するかを一緒に考えてくださいました。それで、市から提案された近くの福祉施設の体育館へ、NGOのチームの方々と一緒に見に行きました。チームの中にはドクターもナースも入っており、多角的にチェックをして、体育館は、マットを敷けば120枚ぐらい敷ける広さですが、実際に車椅子やサポートの必要な方が入ることを考えると、トイレは体育館の外にあるので不便だし、マットだけで寝るわけにはいかないのでダンボールベッドが必要になり、寝る所と食事する所は別にしないといけないので、実際に入れるのは30数名だということ分かりました。

福祉利用者の避難の際には、マットで寝てしまうと寝たきりになってしまい、その後、動けなくなってしまいますので、自立度を下げないことが非常に需要です。そのためには、福祉利用者の避難は一般の避難とは発想を完全に変えないといけないのですが、行政にはそのような体験がなく、発想もありませんでした。そのことを考え合わせると、最適な避難先が決まるまで、今の特別養護老人ホームや介護医療院の建物の中にいた方が、電気もガスも水道もないし、非常食しかないけれども、個室で職員のサポートがあるので、まだこちらの方が良いだろうとも思われました。

もうひとつ、実際に水害に遭って分かったことは、行政は想定したことに基づいての支援はできるものの、想定していないことに関しては融通が利かないということです。この時、水に阻まれて孤立してしまった施設に職員が応援に駆け付けたいけれど、水があって応援に駆け付けることが出来ないため、市の防災課の職員に移動のためのボートを出してくれるように頼んだのですが、「それは、救助ではないのでできない」ということでした。救助であれば、消防などに応援を頼むことができるけれど、救助でなければできないという法律の決まりがあるそうです。前の晩から24時間働いている職員は寝ていないですし、体力的にも限界な状態なので、交代させてほしいと頼んでも、「それはできない」と言うわけです。その当時は、近隣が浸水して避難を求めている一般の住民がたくさんいたので、警察と消防がボートで救助するために出動していました。すぐそこまでボートが来ているので、そのボートで500メートルの距離を往復してもらえれば、職員を交代させることができるのですが、そういうことは想定していないために対応していただくことができませんでした。

私たちも実際に水害を体験してみて、想定していることには対応できますが、想定していないことには全然対応ができないので、まず事前にいろいろなことを想定して、準備しておくことが、非常に大切だということが改めて分かりました。

水害特有の被害 ~廃棄物のがれきの山~

利用者、入所者の避難が一段落してから、建物の被害状況を確認してがくぜんとなりました。地震と水害は、大規模災害という意味では、同じようなイメージがあるのですが、水害の場合は、機材や備品、木製品も全て水に濡れて使えなくなってしまいますし、壁紙も全て剥がすしかなくなります。ここは高齢者施設ですので、食器類もすべて廃棄処分にしました。地震だったら、すべて廃棄ということにはならず、耐震的に大丈夫であれば壊れたものだけ処分すればあとは使えるのですが、水害の場合は、電気製品から家財、何から何まで全部が廃棄物になってしまいます。そうなると、復旧に非常にお金が掛かりますし、地震ではあまりないような状況で、道路いっぱいに廃棄物のがれきの山が積み上がることになってしまいます。普通のお家が並んでいる道路の前の歩道も、全部がれきの山、家財の山になっていて、道路が狭いともう片付けることもできなくて、そのままになっている状況が長く続きます。このがれきの量は、地震の時の比ではないと思います。水害に遭って濡れてしまった家財は全て捨てなければいけないという意味では、被害の大きさは地震とはかなり違うということを実感しました。

NGOの支援の方々がおっしゃるには、単立の法人や社団法人の高齢者施設や病院がこういう水害に遭うと、電気製品や設備、備品など全てが廃棄処分になってしまって、業務の継続ができなくなり、利用者を別の所に避難させなくてはいけなくなります。そうなると、職員も解雇することになり、そこから再開しようとすると、その再開の費用だけではなく、半年後、何カ月後とかに施設が再建できても職員を確保することができず、何割かの施設はつぶれたり、再開不能になってしまうそうです。

NGOの方がおっしゃるには、「川のそばの土地に建てられた高齢者施設というのはたくさんありますが、そういう施設が一度水害に遭うと、単独の施設で再開するということは、非常に難しい。そういう例はたくさん見てきていますが、賛育会は、ぜひ頑張って再開してほしい」ということでした。

この2019年の台風19号による千曲川の氾濫では本当に被害が大きく、河川の流域において、長野県内だけでも何カ所も決壊して、別所線という鉄道の線路も落ちてしまうほどの被害が出ました。賛育会豊野事業所でも、10億円以上の被害が出ました。それまでにも5億円の借り入れがありましたので、非常に大きな負担となりました。それでも、私たち賛育会は、「職員の雇用を継続したままで再開するための計画を作ろう」ということでかじを切りました。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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