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防災インタビューVol.190

台風19号による千曲川氾濫 ~福祉施設の避難と復興への道筋~

放送月:2021年7月
公開月:2021年11月

松村 隆 氏

社会福祉法人賛育会豊野事業所 元事務長

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

海抜0メートル地帯での水害

長野市での千曲川の水害体験のお話をしましたが、都内に2020年4月に賛育会が立ち上げた墨田区の特別養護老人ホーム「たちばなホーム」でのお話をさせていただきます。

東京都の0メートル地帯と呼ばれる所のハザードマップを眺めていて、「これは大変だな」と感じるところがありました。0メートル地帯と長野市の千曲川の水害被害が出た所との一番大きな違いは、長野市は標高300メートル以上ありますので24時間で水が引いたのですが、海抜マイナス1メートル、2メートルという所では、ハザードマップを見ていると最大2週間水が引かない、ということになっています。

水というと川の水のイメージがあるかもしれませんが、この水は下水が逆流してきた水で、アンモニア臭があり、汚物も混ざっているような水で、マンホールの蓋が開いて、道路も水につかり、その水が軒下までや2階まで来る想定になっています。避難できなかった高層マンションの方もトイレを使うのをやめることもできませんし、非常用のトイレも間に合わないと思うので、そのような水につかった状態が2週間続くことを考えると、避難せざるを得ない状況になると思いますが、墨田区では、避難所も全て水の中につかってしまいます。最短で3日くらいで水が引くところもありますが、いったん水につかった所を避難所として使うのはかなり大変だろうと思います。

今は「広域避難」という案も出ていて、江戸川区では、1泊3000円の補助金を出すので事前に避難してくださいという提案が区民に出されています。私も入居者が約60名いる特別養護老人ホームの施設長を1年間やっていましたが、そこの50数名の職員のうち、浸水地域に住んでいないのは5、6名しかいませんでした。その職員たちには、とにかく「避難準備3」(現在は「高齢者等避難」)の段階で、車がある人は車に家族と大事な貴重品を乗せて、とにかくこの江東5区から出なさいと言いました。自分の家が被災しているときに仕事に来ることはできませんので、そういうときにはとにかくその地域から出て、水が引くのを待って、水が引いたら泥かきに来なさいと伝えていました。被災してない職員には、リュックサックに1週間分の食料と荷物を持って来て、手伝ってくださいという話をしていますが、そのようなことを考えなければいけない地域だということです。

行政の枠組みを超えた避難体制を

水害というのは地震災害とは違う準備をしておかなければならないのですが、特に海抜0メートル以下の所での被災を考えた場合、行政の各区の中には避難する場所がない地域もあります。水害被害は、この数年間全国あちこちで起こっていますが、行政も経験値がない中で、法律の枠組みの中で決まっている対応、避難所の運営の準備を一生懸命やっています。しかしながら実際には、避難所が使えないときに、どこをベースにして何をするかが見えてきていないのではないかと感じています。

江東5区と呼ばれている所では、病院の患者さんだけで約7千人、高齢者施設で約1万4千人の入所者がいます。一般の避難所に行くことが難しい方たちなのですが、病院は他の病院と事前に連携が取れると思いますし、DMATも訓練されていますので、比較的連携が取りやすいと思いますが、高齢者施設や在宅の方で体育館などの一般の避難所では生活が出来ない方の避難所はどうなるのかというのが非常に問題だと思います。東京都の社会福祉協議会では、このようなケアの必要な方に向けた福祉避難所を行政できちんと準備しなければならないことになっていますが、2021年4月に準備状況の調査をした結果、各行政において、福祉施設にほとんど丸投げ状態でした。

しかしながら、特別養護老人ホームなどでは、実際は自分のところの入所者のことだけで精一杯の状況ですので、もし広域避難を考えるのであれば、東京都を越えて避難を考えることが必要だと思います。特に、区東部というか、江東5区であれば千葉の方が近いので、千葉県と連携が作れるかどうかという話になるわけですが、行政でそれを行うと法律的な枠組みがないので、難しくなってきます。それより緩い連携を事前に社協同士で作っておくようなことが必要ではないかと思っています。

私も社協の方々にも常々お話をしていますが、そのような近隣の地域との連携が少しでも進んでくれることを願っています。実際に自衛隊によるヘリコプターでの移動となると、あっという間に避難が進められますので、事前にきちんと計画を立てておかないと、その場の状況で、ケアが必要な方が生活していくには非常に厳しい場所への移動を余儀なくされることも考えられます。行政の越境はなかなか難しいものがありますし、災害救助法も災害が起きないと発令されないので難しいのですが、国や行政には、災害が起こる前になんとか連携を進められるように、人命最優先で検討を進めていただきたいと思っています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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