災害を自分事として
ここの所、台風が巨大化しており、2019年の台風19号では、足立区でも避難勧告、避難指示を出して、全小中学校に3万3千人の人が避難しました。これは荒川区で史上初の出来事です。台風の巨大化は足立区だけではなく、日本各地で起こっている現象ですが、その中でもこれだけ多くの人が避難したというのは、ある意味良いことだと思います。実は、ある市で避難勧告、避難指示を出したけれど、ほとんど避難する人がいなかったという有名な話があります。それを「安全バイアス」「正常化バイアス」と呼んでいるのですが、「避難勧告は出ているけれど、うちは大丈夫だよね」とみんな避難しないわけです。それにもかかわらず、足立区のケースで「そうじゃないな、もしかしたらやばい」というふうに思って避難する人が実際にそれだけあったということは、私は非常に良いことだと思います。
何度かこの放送でも繰り返していますが、災害を他人事ではなく、自分事にして、自分に起きたらどうしようと考えることができるようになったのは、これはすごく大きな進歩だと思います。行政が何とかしてくれるだろうと思って待っているのではなく、自分がどうするべきか、どうやって行動しなければいけないかということを判断できるようになったということは非常に良いことだと思います。最近、台風も大きくなってきていて、50年ぶりとか100年に1度というような大雨になっているわけで、そういったところをわれわれも注意しなければいけないと思っています。
同じ年のことですが、足立区が災害時の協定を結んでいる千葉県のある町に支援に行きました。台風による暴風で半分近い家の屋根が飛ばされていて、足立区からありったけのブルーシートを持って行って、多分あの町の半分の屋根は足立区のブルーシートで囲まれたんじゃないかというぐらいの量を提供しました。通信網も遮断されてしまって、大きな停電が起きて連絡が取れなかったために、現地に行くしかない状況でしたので、直接現地にいろいろな物資を持って行って支援をしてきました。
熊本地震の後ぐらいから、「対口支援」と言って、ある町がある町を支援するというルールが確立してきていて、その町でもある県が支援をしていましたが、その県も被災してしまうと、支援に来た人たちが引き上げなければならないという状況が発生します。対口支援というのは、一対一で支援できる良いシステムなのですが、あまり近い所が支援していると自分が被害を受けたときに引き上げなければならないという事情があります。せっかく支援したくて来たのに、悔しい思いをしながら帰っているわけです。そのため、この支援と受援をどうするのかというのは、事前に自治体間で、よほどきちんと綿密にやっておかないといけない仕事だと思います。
幸いなことに、現在のコロナ禍で、それほど大きな災害が起こっていないのは、本当にありがたいことだと思っています。でも、これがそのままずっと続くかというとそれはあり得ないと思うので、コロナは生物ではないからどんなことになるかは、誰も分かりません。ですからコロナ禍においても、密集しないように、3密にならないようにどうやって避難するのかということはあらかじめ考えておかないといけないことだと思います。
情けは人のためならず
千葉県に暴風雨で支援に行った対口支援のお話をしましたが、災害が起こった際には、職員は自分の仕事があるのにそれをやりくりして支援に行くわけです。その時によく言われていたのは、「情けは人のためならず」という言葉です。これは、「人に何かすると頼られてしまうからやらない方がいいよ」ということだと勘違いしている方も多いのですが、「情けは人のためじゃなくて、自分たちのためなんだ。こういう思いで支援して来てね」と職員を送り出していました。まさに自治体間の協力支援というのはそうあるべきだと思います。実際に私たちが逆に被害に遭ったときにも支援してもらえるのではないかということを考えると、平時の交流も非常に大切になってきます。
「遠くの親戚と近くの他人」という言葉がありますが、これは、地震の時などには、「遠くの親戚を頼るよりも近くの他人」「例えば家が倒れてしまったとしたら、助けてくれるのは近くの他人だよ」という話をしていますが、こと地震ではなく、台風の被害とか水害、河川の氾濫の場合は、近くの他人も大切ですけれど、実は遠くの親戚も大切で、要するにあらかじめ、少し離れた所に避難しないと駄目な場合もあるということです。だとすると、遠くの親戚も近くの他人も両方とも私は必要だと思いますので、大切にしてほしいな、人付き合いをしてほしいなと思います。
特に、コミュニティが希薄化している今、これは近所のコミュニティもそうですけれど、実は親戚関係も希薄になっているのではないかと思っています。例えば自治体の責任で避難する所を作るとしたら、これは莫大な費用と時間がかかってしまって間に合わないこともあるかもしれませんが、そういったところを自分事として考えていただくのが防災の初手だし、これが全てだと思います。災害時に自分に何が降りかかるのかということを事前にシミュレーションしておくことが非常に重要なことだと思っています。
私は、コミュニティFMを立ち上げようと思っていたことが、阪神淡路大震災の時を含めて3度あります。災害時に役に立つ放送局を立ち上げたいと思っており、このコミュニティFMは、地震の起こる前には地域の情報を住民に伝えるための非常に有効なツールであると思っていましたが、なかなか事情があって3度チャレンジしましたが、できませんでした。今日こうやってサルースを通じて皆さんとお話しできるのは、私としては非常に楽しい思い出になると思うし、また違うテーマでもいいので呼んでいただいたら、面白い話ができるんじゃないかと思っています。
これからは一区民として、また、防災に関して、そういった経験をしてきた者としていろいろなところで活動していきたいと思っています。未来協創研究所の話もそうですけれど、残りの人生は少ないので、大砲は打てないですが、ショットガンを撃って、小さい成果を積み上げて、成果がでたらどんどん使って、世の中や地域を少しでも明るく良くしていきたいと思っています。
大学でも、これからを担う学生の皆さんといろいろな話をしていきたいと思いますし、彼らには大志を持ってほしいと思っているので、「大砲を持て」「月に向かって大砲で打て」と言っています。