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防災インタビューVol.210

津波裁判から考える災害の法社会学 ~亡き命をせめて教訓に~

放送月:2023年2月
公開月:2023年5月

飯 考行 氏

専修大学法学部 教授

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

女川でのご遺族との出会い

東日本大震災後、ゼミナールの合宿で女川に赴き、その際に語り部をしているご夫婦に出会いました。それは偶然の出会いでしたが、当時、地元の銀行の支店が津波で被災し、支店に勤めていた当時25歳の息子さんを亡くされたご夫婦が、語り部活動をしていたのです。当時は裁判の最中だったこともあり、大変悲痛な語りで、銀行を責めるような部分もありました。その後、ご夫妻と交流が広がっていくことになります。

亡くなったご子息が私の勤務する専修大学法学部の卒業生であることを偶然知り、何かのご縁だろうということで、私の勤める東京の専修大学の授業へ講話に来てもらえないかとご夫妻にお声がけしたところ、ご快諾いただいたことがきっかけです。

女川の事案では、銀行支店の10メートルほどの屋上に13名の行員が避難し、1名は奇跡的に助かりましたが、12名が犠牲になりました。支店の建物は10メートルほどの高さで、おそらく支店長としては大丈夫という判断で屋上へ避難指示を出したのですが、女川ではご承知の通り津波による浸水が遡上を含めて海抜20メートルほどに達したため、避難した屋上以上の高い波が来ました。12名のうち、未だに8名は行方不明です。テレビ番組等で紹介されることがありますが、娘様と奥様を亡くされた父親2人が、その後潜水士の資格を取得し、未だに海を潜って行方不明になったご家族の痕跡を探している、非常に痛ましい事案です。

語り部をされている田村ご夫妻に専修大学で講演いただいたところ、息子さんがもしかすると授業を受けた教室で自分たちが語ることができるということで、非常に喜ばれました。その後もほぼ毎年、専修大学の後輩にあたる法学部生に講話いただいています。講話を継続しているうちに、ご自身の体験と思いを含めて、企業防災や命の大切さを伝えていただいています。田村ご夫妻は、その後、亡くなったご子息の名前を付した「健太いのちの教室」という法人を立ちあげました。現在は、小学校・中学校・高校・大学、企業などの様々な場で講話されたり、また命の大切さについて無農薬の作物づくりを通じて伝えるために農園を運営されたりと、様々な活動をされています。田村ご夫妻から、私も非常に多くのことを学ばせていただいています。

ご遺族による防災・事故再発防止活動

東日本大震災でご子息を亡くされた田村ご夫妻を通じて、他の震災のご遺族、事故のご遺族とも交流を持たせていただくようになりました。田村ご夫妻は、様々な場所で講演活動等をされる中で、他の津波事故ご遺族と知り合う機会が生まれ、その他の事故のご遺族ともつながっていきました。ご遺族の想いとしては、「事故の原因究明」「再発防止」は共通しており、田村ご夫妻が交流を広げる中に、私も若干関わらせていただいています。そうしたご遺族の中には、1985年の日航機墜落事故や、シンドラー社エレベーター事故のご遺族、また竹ノ塚踏切事故のご遺族などがおられます。大学の授業にも講話でお越しいただき、またシンポジウム開催の際にパネリストとしてご登壇やご講話いただき、私も学ばせていただいているところです。

8月12日の日航機墜落事故の日になりますと、様々な災害や事故のご遺族が、毎年のように飛行機が墜落した御巣鷹山に登ります。私もかつて1度、田村ご夫妻に同行して、登頂させていただきました。墜落した現場に行きますと、未だに事故の痕跡が残っていて、自然の中で木が倒れて何もない一角があり、慰霊碑もたくさんあり、特別な場所であることを強く感じます。

御巣鷹山には、先ほど言及しました様々なご遺族の方が登り、合流し、安全な社会づくりを誓い、お互いに1年間どんな活動をしたのかを思い返して、交流と意見交換を行っています。来年何をするのか、さらに安全な社会を目指しての工夫など、御巣鷹山を通じてご遺族の方が誓いあう姿を目の当たりにしました。また、ノンフィクション作家の柳田邦男さんも毎年のように登頂されています。ご遺族の方にとって、柳田さんは精神的な支柱、要にあたる方です。何度かお話をうかがったことがありますが、ご遺族とともに歩まれ、言論活動を行うとともに一緒に安全な社会づくりを目指しておられます。

田村さんご夫妻は毎年のようにフォーラムを開催されており、2023年3月21日には 専州大学神田キャンパスを会場に、フォーラム「遺族による水難事故の予防啓発活動」を開催します。津波や河川の水難事故で大切なご家族を亡くされたご遺族などに登壇いただき、その心情のはかり知れなさを私たちも受けとめて、水難事故の再発防止に向けた思いを行動にいかに移していくのかを議論します。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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