1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報
  4. 防災インタビュー
  5. 生活再建のために必要な自助力
  1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報

防災インタビューVol.211

生活再建のために必要な自助力

放送月:2023年3月
公開月:2023年5月

重川 希志依 氏

常葉大学 大学院
環境防災研究科 教授

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

地縁が消える

災害が起こった時、やはり元住んでいた地域のコミュニティなどの繋がりがなくなってしまうことが被災者にとっては大きくマイナスになります。そして、住宅再建など街の復興、それから仮設住宅に入るにしても地域コミュニティを壊さないで、なるべく同じ場所で仮の生活をすることが重要であると考えられていました。東日本大震災で被災された方のうち、借り上げ仮設住宅に居住されている方というのは、先ほど説明したとおり、元住んでいた地域コミュニティとは離れ、分散して住むことになります。そうすると、この方たちにとって、地域あるいは地域コミュニティの方たちとの繋がりが切れてしまいます。被災生活にはどのような課題があるのだろうと思い、様々な話を聞きました。

すると、その方たちとの会話の中で、元いた場所の話や地域コミュニティで繋がりのあった人たちの話というのが全く出てこないのです。敢えて理由などは聞いていませんが、お話を伺って見えてきたのは、元いた場所やコミュニティに戻りたいという気持ちもあるけれど、今はそれを捨てて新しい場所で暮らしを始め、こちらでもいろいろな人たちとの繋がりも出来ているので、元いた場所に戻るかどうか、今でも気持ちは揺れているということです。

しかし、「元いた場所から離れられてさっぱりしました」という人もいました。例えば、元いた場所ではとても濃密なコミュニティだった場合、顔見知りが多く、いろいろなことが安心ですが、一方でその繋がりを重たいと感じるところもあります。外から嫁いで来て、ようやく30年経ってコミュニティに馴染んだけれども、また元の場所に戻りたいかと聞かれたら、「そうは思わない」と話していました。今までは地域のコミュニティが、災害後の生活再建・復興のキーワードのひとつでしたが、一方で、それが「邪魔をしている」「足を引っ張っている」ということもあるということが見えてきました。

一例として、災害後に建設されるプレハブ仮設住宅に入居された方が、自分たちの住宅を再建して仮設住宅を出ていく時には夜逃げのように出ていくという話があります。家を探していることや、家を建てていることを、周りの人たちに知られないようにこっそり出ていくという話をたびたび耳にしました。集団の中から先に抜けて出ていくことへの申し訳ない気持ちがあるのだと思いますが、決して地域のコミュニティの中でお互いに励まし合って応援しながら、住宅再建や生活再建が進んでいくとは限らない ということがわかりました。地縁が邪魔をすることもあるということです。決して誤解の無いように申し上げますが、当然、地縁は非常に重要です。必要不可欠なものですが、そういう一面もあるということです。

支援が邪魔する

次にお話する「支援が邪魔をする」という言葉も一般的に考えられていることと全く逆のキーワードとなります。もちろん「支援」というのはものすごく大切なことです。地域コミュニティでの支援、多くのボランティアの支援、そういった様々な支援のおかげで被災した方は困難を乗り越えて前を向いて歩き始めます。「支援」というのは被災された方たちにとって不可欠なものですし、とりわけ「公的な行政の支援が無ければ、被災者の生活再建はあり得ない」とよく言われています。しかし実はそうではないということが、被災者へのインタビュー調査で見えてきました。

例えば、仮設住宅では何年にもわたって多くのボランティアの支援が受けられます。ボランティアをしたい人は、熱い心を持って少しでもお役に立ちたいという思いで全国から来てくださいます。それを受け入れる側の仮設住宅の方ももちろん「ありがたい」と思っています。これが大前提の話ですが、一方で、ボランティアの方が来てくださる度に、「せっかく来てくださるのに、誰もいないというわけにもいかない」ということから仮設住宅でも人集めをしなければなりません。ボランティアに来てくださるのは土曜日や日曜日に殺到します。そうすると人を集めるだけでもすごく大変になってしまいます。

贅沢な悩みと言われますが、それも良く分かります。災害直後ならともかく、例えば3年、5年と時間が経過して、いつまでも「あなたは被災者、私は助けるボランティア」「被災者だから、こういうこともしてもらっていい」という状況が続きます。実はこれは、被災者にとっては、元の生活に戻るための大きな障害となってしまいます。つまり、ずっと被災者としてボランティアの方に助けてもらえていればいいのですが、いつか必ず仮設住宅を出て、自分だけで暮らしていかなければなりません。その時に、助けていただいたり、何かをしてもらったりする時間が短ければ短いほど元の生活に戻りやすくなります。

私自身がよく使う言葉ですが、「被災者という名札を早く外して、何の名札もつけていないただの市民として生活すること」が、災害後の被災された方の最終ゴールだと思っています。そのゴールに早くたどり着くために行うのが、本当の支援だと思っています。ですから、不必要な支援、あるいはゴールにたどり着くのを逆に遅らせてしまう支援というのは、支援をされる方がしっかり考えなければならないと思っています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

会社概要 | 個人情報保護方針