RAGとは?仕組みや導入メリット、活用例を分かりやすく解説
目次
RAGは、生成AIの回答精度を高める仕組みとして、企業を中心に導入が進んでいる技術です。従来のLLMでは、「情報が古い」「専門性の高い質問に答えられない」「根拠が曖昧」といった課題が指摘されています。
RAGはこうした課題を解決できるアプローチですが、具体的にどのような仕組みなのか、どういったメリットがあるのか、詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、RAGとは何か、従来のLLMとの違い、メリット、活用シーンを解説します。AIの導入を検討している、AI人材を採用したい、といった企業はぜひ参考にしてみてください。
RAGとは

RAGとは、Retrieval-Augmented Generationの略称で、「検索」と「生成」を組み合わせて回答するAIの仕組みを指します。通常の生成AIは事前に学習したデータのみを基に回答しますが、RAGでは必要に応じて外部データベースへアクセスし、関連する情報を取得してから文章を生成します。
つまり、最新情報や企業独自のデータを参照しながら回答できるのが特徴です。ここではRAGの特徴、従来のLLMやファインチューニングとの違いについて解説します。
従来のLLMとの違い
従来のLLM(大規模言語モデル)は、大量のテキストデータを学習することで高い言語能力を獲得しますが、その知識は学習時点で固定されており、新しい情報を自動で取り込むことはできません。また、専門性の高い質問に対しては、学習データに該当する情報が不足すると不正確な回答をしてしまうこともあります。
一方、RAGは回答生成のプロセスに「検索」を組み込み、外部データベースから必要な情報を取り出してから回答を作成します。ゆえに、モデルが知らない事実や最新情報でも対応でき、より根拠のある回答が可能です。従来LLMの弱点である情報の鮮度や専門性への対応力を強化できる点が、RAGとの大きな違いです。
ファインチューニングとの違い
ファインチューニングとは、すでに学習が完了したLLMに対して追加の学習(再トレーニング)を行い、特定の用途や業務に合わせて精度を高める手法です。企業独自のデータや専門領域の文書を学習させることで、より自社に最適化されたAIに仕上げられます。
ただし、この手法には高性能GPUが必要で、学習には時間とコストがかかる点が課題です。さらに、一度学習させても新しい情報が追加されるたびに再度ファインチューニングが必要になるため、運用負担も大きくなります。
一方、RAGはモデル自体の再学習が不要で、外部データベースを更新するだけで常に最新情報へ対応できます。導入ハードルが低く、柔軟な運用が可能です。
RAGならではのメリット

ここでは、RAGが企業やサービスで注目されている理由を具体的なメリットとともに解説します。RAGは単に回答精度を補強する仕組みではなく、情報管理のしやすさやコスト面、運用効率など、ビジネス観点で大きな価値をもたらす技術です。
従来のLLMやファインチューニングでは対応が難しかった課題をどのように解決するのか、その特徴を整理していきましょう。
最新の情報にアップデートできる
従来のLLMは学習済みの知識しか扱えないことから、法律や制度の変更、製品仕様の更新など、日々変化する情報に対応することが難しいという問題がありました。RAGを導入すると、外部データベースを更新するだけでAIの回答内容も常に最新の状態に保てます。
例えば、企業の規定、FAQ、社内マニュアルなど、日々更新される情報をAIが自動で参照できるため、業務効率や正確性が大幅に向上します。特に、情報鮮度が重要な業種や、製品アップデートが頻繁な企業にとって大きなメリットとなるでしょう。
正確な回答を得やすい
RAGは、外部の信頼できる情報源を基に回答を生成するため、LLMの課題とする「ハルシネーション(事実とは異なる出力)」を大きく抑制できます。モデルが検索結果を直接参照する仕組みであることから、回答の根拠がデータベース内に明確に存在し、誤情報を生成するリスクが低くなります。
特に、法律、医療、金融など、情報の正確性が求められる領域では大きなメリットです。また、社内データや専門資料のように一般公開されていない情報も参照でき、一般的なLLMでは回答できない内容にも対応可能です。
情報源が明確になる
従来のLLMでは、どのデータを基に回答したのかを明確にする仕組みがありませんでした。そのため、ユーザーの側で情報の信頼性を判断しづらく、特に業務用途では説明責任の観点から導入が難しいケースもありました。
RAGは検索プロセスで取得した文書やデータを基に回答を生成することから、「どの情報を参照したか」を明確に示すことが可能です。ゆえにユーザーは回答の根拠を確認でき、業務の透明性や信頼性が向上します。
コスト効率が高い
ファインチューニングはモデル全体を再学習させる必要があるため、膨大な計算リソースと時間がかかります。高性能GPUの確保や学習パイプラインの構築が必要となり、初期費用・運用費用の双方が高くつくのが一般的です。
一方、RAGは既存のLLMをそのまま活用し、外部データベースの整備と更新のみで運用できます。GPUリソースをほとんど必要とせず、導入までの期間も短縮できます。また、情報が変わるたびに再学習する必要もなく、長期的なコスト削減にもつながります。
RAGを活用する流れ

RAGを適切に活用するためには、単にAIを導入するだけでなく、データの整理から検索、回答生成までの一連のプロセスを理解することが重要です。RAGは「検索」と「生成」が連動することで精度の高い回答を実現するため、準備するデータの品質や構造、検索システムの設計が結果に大きく影響します。
ここでは、RAGシステムがどのように情報を扱い、ユーザーの質問に対してどのように回答を導き出すのかを、処理の流れに沿って解説します。
データの収集とドキュメントの準備
RAGの精度を高めるためには、まず利用するドキュメントの品質を整えることが不可欠です。企業であれば、社内Wiki、マニュアル、業務手順書、議事録、報告書、FAQなど、多岐にわたる情報が点在していることが多く、それらを収集し一元化するところから始めます。
収集した文書には、不要な記号やレイアウト、余分な改行、機械が読み取りにくい特殊文字が含まれている場合があるため、クリーニング作業が必要です。さらに、文書を「章ごと・項目ごと」など適切な単位に分割し、AIが扱いやすい形式に整えることも重要です。
ベクトルに変換してデータベースに登録する
準備したテキストは、そのままではAIが意味を理解できないため、文章の特徴を数値の並び(ベクトル)に変換する作業が必要です。この作業にはエンベディングモデルと呼ばれる技術が使われ、文章に含まれる概念や意図を数学的に表現でき、AIが効率的に検索できるようになります。
こうして生成されたベクトルは、ベクトルデータベースと呼ばれる専門のデータベースに保存されます。
ユーザーの質問を検索する
ユーザーが質問を入力すると、その質問もベクトルに変換され、ベクトルデータベースに保存された文書群の中から意味的に近いものを検索します。これは「ベクトル検索」と呼ばれ、質問の意図に合う文章を高速に特定するための重要なプロセスです。
従来のキーワード検索と異なり、RAGでは質問文の言い回しが多少違っていても、その意味を理解して適切な文書を拾い上げられます。例えば「有給の繰越ルールを知りたい」「休暇は何日まで残せるか」と質問の表現が異なっても、意図が一致していれば同じ文書を候補として取得できます。
プロンプトを基に回答を生成する
検索によって取得された文書は、そのままユーザーに渡されるわけではなく、生成AIモデルに入力され、文脈に沿った自然な文章として再構成されます。AIは文章をそのまま引用するのではなく、ユーザーの質問意図に合わせ、複数の文書をまとめたり、要点を整理したりしながら最終的な回答を生成します。
ユーザーが求める情報を分かりやすく提示できるだけでなく、根拠のある高品質な回答が得られる点がポイントです。
RAGを活用する上での注意点

RAGは多くのメリットを持つ一方で、運用する際に注意したいポイントもいくつか存在します。検索と生成を組み合わせる特性上、従来のAIとは異なる課題が発生することがあり、導入後の運用設計や人材育成が重要な要素となります。RAG導入を進める前に、以下で紹介する注意点を押さえておきましょう。
レスポンス速度が遅くなりやすい
RAGは「検索」と「生成」という2つのステップを踏むため、従来のLLMと比較してどうしても回答速度が遅くなる傾向があります。特に、大量のデータを格納したベクトルデータベースを検索する場合や、複数文書を統合して回答を生成する必要がある場合は処理が複雑になり、レスポンスが長くなることも少なくありません。
また、ネットワーク遅延やデータベース負荷によって応答時間がさらに伸びる可能性もあります。ユーザーが即時回答を求める用途では、検索対象を絞る、キャッシュを利用する、プロンプトを効率化するなどの工夫が必要です。
高度な知識を持つAI人材が必要
RAGを効果的に活用するには、AIモデル、エンベディング、ベクトル検索、プロンプト設計など複数の技術要素を理解した専門人材が必要です。単なるAI利用スキルだけではなく、「どのデータをどの形式で保存するべきか」「検索精度を高めるにはどのモデルを使うか」「プロンプトをどう設計するか」といった高度な判断が求められます。
また、継続的な運用ではデータ更新・評価、システム改善、ログ分析なども欠かせないため、社内にAIエンジニアやデータサイエンティストを配置するか、外部パートナーを活用する体制を整える必要があるでしょう。
AI人材の採用は難易度が高いため、育成を見据えた教育プランや外部企業との協業が導入を成功させるポイントとなります。
企業でのRAG活用事例

RAGは幅広い業務で活用できる柔軟性の高い技術であり、企業規模や業種を問わず導入が進んでいます。従来の「検索しづらい」「情報にたどり着くまでに時間がかかる」といった課題を解消し、社内業務の効率化から顧客対応の品質向上まで、多彩なシーンで役立ちます。
ここでは、実際に企業で活用が進んでいる具体的なユースケースを取り上げながら、RAGが業務にどのような価値をもたらすのかを見ていきましょう。
社内ルールの検索
企業では、就業規則、社内規程、ガイドライン、業務マニュアル、手続きフローなど、多くのドキュメントが存在します。しかし、これらの情報は部署ごとに散在し、必要な情報にすぐアクセスできないことが少なくありません。
RAGを使えば、これらの社内情報を統合し、チャット形式で「知りたい内容を尋ねるだけ」で回答を得られる仕組みを構築できます。例えば、「在宅勤務の申請ルールを教えて」「経費精算の上限を教えて」といった質問に対して、該当する規程の該当箇所を引用しつつ分かりやすく回答できます。
従業員は膨大なPDFや資料を検索する必要がなくなり、情報アクセスの手間を大幅に削減できるでしょう。
カスタマーサポート
自社製品のトラブルシューティング、よくある質問(FAQ)、サービス仕様、契約内容などをデータベース化し、RAGと組み合わせることで、問い合わせ内容に応じた適切な回答を自動生成できます。
従来のFAQシステムはキーワード一致が中心で、質問の言い回しが異なるだけで情報にたどり着けないケースもありました。しかしRAGであれば、ユーザーの意図を理解し、関連する資料を参照した上で自然な文章として返せます。
結果、サポート担当者の負担軽減や対応品質の均一化が実現します。人的コストを抑えつつ、顧客満足度向上を図ることが可能です。
ヘルプデスクサービス
社内のITヘルプデスクでは、パスワード再設定手順、ネットワーク接続、システム操作方法、エラー発生時の対処など、さまざまな質問が寄せられます。RAGを活用すれば、これらの質問に対して適切な回答を瞬時に生成するチャットボットを構築できます。
例えば、「VPNに接続できない時の対応方法を教えて」「新しいアカウントの権限設定はどうすればいいか」といった質問にも、関連マニュアルやナレッジ記事を参照し、具体的な解決策を提示可能です。ヘルプデスク担当者は複雑な案件の対応に集中でき、一次対応の自動化によって業務効率が飛躍的に向上します。
コンテンツ・資料作成
RAGは、社内資料・研修教材・提案書・業務マニュアルなどの作成業務にも大きな力を発揮します。企業内には過去の資料やレポートが大量に蓄積されているものの、それらを整理し、必要な情報を抽出しながら新しい資料を作成するには多くの時間が必要です。
RAGを導入すれば、「過去の営業資料からA社向けの提案書の骨子を作って」「昨年の研修内容をまとめて新入社員向けのマニュアルにして」などの依頼にも対応でき、関連情報を自動で検索・統合して下書きを生成します。医療分野では患者向け説明資料の作成、教育分野においては教材の構成案作成といった活用も可能です。
情報整理と分析
RAGは、膨大な情報を整理し、分析した上でレポート化する業務にも適しています。企業では、プロジェクト資料、議事録、数値データ、報告書などさまざまな情報が蓄積されていますが、これらを人手でまとめるには労力がかかります。
RAGを使えば、「25年度予算に関する資料をまとめて」「失敗事例の傾向を分析して」などの指示に基づき、関連文書を検索し、共通点や問題点、改善ポイントなどを整理したレポート案を生成可能です。特に、複数の文書を横断して関連性を導き出す作業はAIが得意としており、分析にかかる時間を大幅に短縮できます。
RAGを導入・運用する際のポイント

RAGは有用な技術ですが、導入・運用にあたっては注意したいポイントがあります。特に、データの扱い方やシステム設計、運用体制などはRAGの効果を最大限に発揮する上で重要です。
適切な準備や運用ルールがないまま導入すると、検索精度が上がらなかったり、情報流出リスクが生じたり、想定していた効果が得られないケースもあります。ここでは、RAG導入時に企業が押さえておきたいポイントについて解説します。
入念にセキュリティ対策をする
RAGでは、社内規程、顧客情報、開発ドキュメントなど高い機密性を持つデータを扱う場面が多くあります。そのため、情報流出を防ぐためのセキュリティ対策が必須です。まず、生成AIに読み込ませるデータが外部に送信されないよう、オンプレミス環境やセキュアなクラウド環境を利用することが重要です。
また、アクセス権限を細かく設定し、扱うデータごとに閲覧範囲を限定することで、内部不正や誤操作によるリスクも軽減できます。さらに、ログ管理や監査体制を整え、データ利用状況を常に把握することも欠かせません。
RAGを安全に運用するために、技術面だけでなく、社内の運用ルールやリスク管理を徹底しましょう。
定期的にデータを更新する
RAGは検索するデータベースの内容から回答を生成するため、データの質が回答精度を大きく左右します。もし古い情報や誤った記述が含まれていれば、AIがそれを引用してしまい、正確な回答が得られないリスクがあります。
そこで、データの定期的な更新が不可欠です。例えば、規程の改定、新サービスの開始、製品仕様変更などがあった際は、速やかにデータベースを更新する必要があります。また、文章の重複や記述のバラつき、曖昧な表現がある場合はクリーニングを行い、情報の正確性と一貫性を確保することも大切です。運用担当者が定期的にデータをチェックできる体制を整えましょう。
段階的に導入する
RAGを導入する際は、いきなり全社展開するのではなく、小規模な範囲から始めることが成功のポイントです。まずは、FAQの自動応答や社内マニュアル検索など、導入効果が分かりやすく、小さく試せる領域からスタートするとよいでしょう。小さく始めることで、検索精度や回答品質を検証しながら改善を重ね、運用ノウハウを蓄積できます。
また、従来の業務フローとRAGを併用し、問題があればすぐに切り替えられるようにしておくと安心です。段階的に適用範囲を広げていくことで、社内の理解や普及も進み、スムーズな全社導入につながります。
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医療機関や教育、ビジネス領域など、専門性の高い分野におけるAI活用を分かりやすく解説した記事も掲載しています。「AI導入の判断に迷っている」「現場の課題とAI活用をどう結びつければいいか分からない」という方は、以下の記事も参考にしてみてください。
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「多様なビジネス領域のAI活用事例21選!自社の成長につなげるヒント」という記事では、幅広い業界の企業がどのようにAIを活用しているのかを、21の事例を基に解説しています。
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まとめ

RAGは、企業が生成AIをより確実かつ安全に活用するための有効な手法です。社内に蓄積されたドキュメントを活用し、必要な情報を正確に検索・抽出した上で高品質な回答を生成できるため、業務効率化や品質向上に大きく貢献します。一方で、セキュリティ対策やデータ更新など、運用面で注意したいポイントも多く存在します。
RAGを導入する際は、小規模な範囲から段階的に進め、技術と運用の両面で無理のない体制を整えることが重要です。本記事を参考に、RAGの活用イメージをより明確にし、自社の業務改善やAI活用の検討にぜひ役立ててください。
