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防災インタビューVol.2

地震から命を守るために~21世紀の大地震に備えて~

放送月:2004年3月
公開月:2006年10月

鍵屋 一 氏

板橋区役所福祉事務所長(元防災課長)

防災教育は、まず子どもから

パソコンを使った防災教育・日本ミクニヤ(株)提供

小学校や中学校の防災教育で今、何が行われているかということで、全国的な調査をしたことがあるのですが、まず避難訓練、ほとんどこれに尽きるということです。ところが、避難訓練で実際にやっているのは、「これから地震ですよ、机の下にもぐって下さい」、「地震が収まりました、校庭に逃げてください」と言われてやっているだけです。これでは子供たちは地震をばかにしてしまいます。もう少しきちんとした、リアリティのある教育をすることが大事だと思っています。

次の世代を担う子どもたちが、しっかりした防災教育を受けて、自分の身は自分で守る、自分たちの家は自分たちで守るという意識を身につけることが重要であると思います。そこで板橋区では、小学生と中学生それぞれ別の、もう少しリアリティのある訓練をしています。小学生用の訓練では、タンスを実際に布団の上に倒してみせます。もし、この布団の下にいたらどうなっていたかを想像させます。小学生の子どもたちにそれを見せますと、うちに帰って、「おとうさん、おかあさん、タンスが倒れると危ないよ」という話をします。そうすると、大人はちょっとびっくりして、すぐに直していく。こういう教育をすることが子どもたちから親に伝わるいちばん効果的な方法だと思っています。

また、中学3年生には、普通救命講習というのを受けてもらっています。板橋区には、毎年3000人の中学3年生がいて、全員が普通救命講習を受けます。普通救命講習では、心肺蘇生法とマウス ツー マウスを人形相手にやりますが、ちゃんと息が吹き込まれたか、きちんと心臓が動いたかということが、機械で計測されます。中学3年生の女子などは、最初はマウス ツー マウスというと恥ずかしがるのですが、実際に息が吹き込まれて、人形の身体が波打つのを見ると、だんだん真剣になってきます。最後にきちんとできたかどうか効果測定をやりますが、その頃になると、本当に真剣に取り組んでいます。終わった後に感想文を書いてもらいますが、「本当によかった、勉強になった」、「やり方を父親、母親に教えたい」、「何かあったときに自分でも少し役に立つような気がする」というように変わってきます。この普通救命講習は毎年行っており、今年で3年目です。合計9,000人くらいの方がこの講習を受けていますが、例えばこれを5年続けると15,000人、10年続けると30,000人です。15歳から25歳までの若者が、すべて普通救命講習を受けたということになりますので、非常に効果的な授業です。まさに教育の効果を実感させられる授業です。日本全国でも、中学生への普通救命講習を広げていきたいと、現在、声をかけさせていただいております。

自分の身は自分で守る=コミュニティーの力

日本では豊かなコミュニティーライフというのを、あまり楽しめません。町内会も、おじいちゃん、おばあちゃんばかりで、若い人がなかなか入っていけない雰囲気があります。これは、いろいろな原因がありますが、コミュニティーと自治体の仕事を切り離した結果だろうと私は考えています。例えば地域の中で、学校で40人学級では子どもたちが勉強しにくいから20人学級にしよう、先生1人雇おうということを考えたとしても、それは役所にお願いするだけで、自分たちではできません。そういうふうに、自分たちで物を決められない、公共的な物事を決められないというのが日本の仕組みになっています。それがコミュニティーを弱くしている原因だと思います。

地域のみんなで防災マップづくり・日本ミクニヤ(株)提供

現在、小学校はだいたい住民1万人に1校くらいの割合であります。そのくらいのコミュニティーで、例えば板橋区の場合、30億円くらいのお金が使われています。30億円のうち、絶対削れないお金というのがあり、そういうお金がだいたい20億円とします。10億円は、例えば来年に延ばすこともできるかもしれない、あるいは誰かがボランティアでやってくれれば削れるかもしれない、そういうお金です。そこで提案したいのが、この10億円をどう使うか、PTAみたいなところで決められるようにしていきたいということです。そうすると改革も進めやすいと思います。例えば神奈川県というのは非常に地震の危険性がある所ですので、もう少し防災教育をきちんとやるために教材を買ってあげよう、副読本も作ろう、実際に津波の体験ができるようなものをみんなで作ろう、そういう教育を提案しようとしたら、今までだったらお金がかかるので、できなかったと思います。ところが、1万人くらいのコミュニティーの中ならば、予算の内でどこか削れるものはないかと考えた時に、大工さんが手を挙げて、補修はボランティアで直してあげるよとか、実費でやってあげるよとか、あるいは送り迎えをするのも、ヘルパーさんを頼まないで私たちが代わりにやるから、その分のお金をこれに使ったら?という、地域の中で物事を決めようという動きが必ず出てきます。困難な仕事、お金がない中ででもやらなければいけない仕事を、地域の人の中で考えて自主的に決定するというのは、ヨーロッパでは1980年代に実際にやられていました。10億円のお金の使い道をPTAのようなところで決めるので、責任があります。どうやって決めたら一番いいかということで、いろいろな人が議論していきます。これが民主主義になるのですが、その中で優れたリーダーが育ってきます。そういうリーダーがもう少し大きな自治体なり、国に行ったりして自治を進めることで、北欧の国々ではコミュニティーの自治というものを強くしてきました。

例えばデンマークでは教育の内容を決めるのに、地域の教育委員会と学校の先生、それから、なんと子どもたちも入って、自分たちで教育内容を決める。もちろん標準的な教育内容は示されますが、地域にとって重要な教育内容を、自分たちで考えて自分たちで決める、そういうようなことができる仕組みになっています。日本の場合、教育内容は学習指導要領を文部科学省で作り、それに基づいて行われます。先生の給料も国と都道府県で半分ずつ出していますから、それ以上増やそうということが、なかなかできません。いろいろなことが自由にできない固い仕組みになっています。防災についてもそうだったのですが、以前は、防災対策は行政に任せるべきだという考えもありましたし、行政もまたそれでよしとしてきたところがあります。

本当に自分の身は自分で守る、自分たちの町を自分たちで守るためには教育から変えていかなければいけないし、コミュニティーがしっかりしていなければできないことです。そして、そのコミュニティーは、自分で自分のことを決定できる柔軟なコミュニティーでなければならないと思います。そういうふうにこれからのコミュニティーが変わっていくように、よく考えていく必要があります。災害に強いまちをつくり、地震から命を守るために、それはとても重要です。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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