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防災インタビューVol.15

地震で人が死なない構造を求めて

放送月:2006年4月
公開月:2007年10月

五十嵐 俊一 氏

構造品質保証研究所 代表取締役社長

アジアの西の端と東の端

私は、1997年から2年ほど、国際協力事業団(JICA)の専門家としてトルコに派遣され、地震防災研究センターを立ち上げるプロジェクトを担当していました。日本から、プロジエクトの全体指導と個別の案件指導に多数の先生方がお見えになりました。トルコはちょうどアジアの西のはずれ、ヨーロッパの東のはずれにあたり、文明の十字路といわれています。イスタンブールは、ちょうどアジアとヨーロッパにまたがっているところで、ここ数十年急速な近代化の波を受けて発展しています。そこで日本の有名な先生方にお会いし、文明・文化・歴史・伝統・自然・技術・地震などについて色々と考えることができたことが、現在の仕事につながっています。

振動台実験試験体

イスタンブールは、数千年の歴史の中でほぼ100年に一回大きな地震に襲われています。しかし、私が行ったころは、100年余り地震がほとんどありませんでした。その頃は、阪神大震災以前の日本と同じように、地震被害に対する危機感が全く無く、耐震強度偽装とか、材料のごまかしなどがいっぱいありました。私は2年間の任期を満了し、99年春日本に帰ってきて、会社をつくって半年経たないうちに、トルコで大震災が起きました。ご記憶かもしれませんが、99年8月のコジャエリ地震です。土木学会、建築学会、地盤工学会の3学会合同調査団が結成され、私はたまたま現地の事情を知っていたので、幹事役で行かせていただきました。

調査団帰国後もJICAの要請で、現地への援助に協力させていただきました。応急被災度判定といいまして、被災した建物を引き続き使用して大丈夫かどうか調べて標示する技術協力も行ないました。イスタンブール周辺の人々は、その当時は地震というのを100年くらい経験していなかったので、コジャエリ地震で大変怖い思いをしたので、野宿をするか、家で寝ても余震のたびに家から飛び出してしまいます。高層マンションの3階からも飛び出して道路に落ちてしまったり、車に乗っていて、慌てて交差点で衝突してしまうというようなこともたくさん起こりました。それほど地震が恐ろしくて、屋根の下で寝られなくなってしまっていたわけです。数十万人規模で野宿していた状態でした。それで応急被災度判定をして、「使える家には入ってください」「外に飛び出す必要はないですから、安心して寝ていてください」という判定をヨーロッパと日本の技術を総合して、現地で指導して行ないました。具体的に言うと、建物に入って被害状況を調査して、赤、緑、黄色というように紙を貼っていきますが、緑は入っていいということです。

振動台実験補強

ところが、11月にもう一回大地震があって、私たちが緑の紙を貼ったところもつぶれて、建物の下敷きになり、命を落とされた家族が多数いらっしゃいました。11月の地震というのは、8月の地震と震源は近いのですが、違う地震でした。通常の被災度判定というのは、本震の80%の地震荷重を受けて、大丈夫かどうかを見るわけです。つまり、余震というのは本震の80%を超えないだろうという専門家の思い込みを前提としてやっていますが、11月の地震は余震ではなく別の本震でした。トルコの人々は、政府の言うことはほとんど信じないのですが、我々のOKだから入ってくださいという言葉を信じてくださった方が、死んでしまったのです。これは大変ショックでした。専門家の理屈から言えば、それは想定の範囲外ですが、ただ、実際に私たちの言うことを信じて家に入られた方の生死には理屈などない訳です。理屈で家の重さは支えられません。

耐震診断と補強というのは、目の前の一般の人の命に係るものであり、大自然は自分たち専門家の想定を簡単に超えるものです。ですので、想定を超える事態があっても絶対大丈夫と信じられるような、フェイルセーフの装置を組み込まなければいけないと、思い知らされました。

アジアの西の端はイスタンブール、アジアの東の端は東京です。日本は欧亜地震帯、イスタンブールからシルクロードを通り、北京を通って日本に達する一つの地震帯と、ロサンゼルスから千島を回って東京を越えてまた台湾に行くという環太平洋地震帯、その二つの地震帯の十字路です。ですから、世界で一番地震のエネルギーが溜まっているのは日本です。逆に言うと、日本人は自然から地震に対する備えを学ぶ宿命を与えられているというか。日本できちっとした技術を作って、それを世界中に広げるという使命があると思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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