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防災インタビューVol.15

地震で人が死なない構造を求めて

放送月:2006年4月
公開月:2007年10月

五十嵐 俊一 氏

構造品質保証研究所 代表取締役社長

新しい補強法 ~SRF~

例えばコンクリートを鉄で補強したものを、RCといいますが、英語のレインフォスト・コンクリート(補強コンクリート)の頭文字です。これは、鉄筋コンクリートのことを言うのです。それほど鉄は補強の代名詞みたいになっています。でも私たちが開発したのは鉄を使わない補強で、ポリエステル繊維を使います。従来も炭素繊維とかガラス繊維とか、鉄のように固い繊維を使った補強はありました。炭素繊維というのは、ゴルフのシャフトとか、テニスのラケット、航空機、スーパーカーに使われている繊維です。これらの高強度繊維というものを使う補強も開発されつつあったのですが、私たちは高強度ではなくて、ポリエステルみたいな一般的な、やわらかいが、切れない繊維を使った補強を開発しています。

木造基礎補強

実際に構造物を支える材料の強度は、どれだけ厚く、あるいはどれだけきちっと役立つように使うかということで決まります。ですから、ポリエステルのような一般的なやわらかい材料を使っても、しっかり管理をして計算をしてつくると、大きな建物の壁や、柱や新幹線の柱なんかも、補強するのに十分な強度が出るということです。しかもポリエステルは、相当伸ばしても切れないです。また、鉄というのは大体0.2%で降伏します。つまり、1メートルのものが、2ミリくらい伸びると、もう力はそれ以上増えなくなります。炭素繊維の破断伸びは1%といいますから、例えば1メートルのものが、1センチくらい伸びると切れてしまいます。ところがポリエステルというのは、10%、20%伸ばしても切れない。つまり1メートルのものが1.2メートルになっても切れません。また、力は伸びに比例して増える、そういう材料です。なんでこのような材料を使っているかというと、実際の地震というのは、私たちの想定を超えた大きさでくるわけです。例えば1%しか来ないと思っても、ひょっとしたら10%来る場合もありますので、そこで切れたらおしまいなのでポリエステルを使ってみようと思いついたわけです。

SRFは東海道新幹線の正式な補強法として採用されて、新大阪、静岡、名古屋などで使われています。今まで新幹線の補強というのは鉄板を巻いていました。駅と駅の間は補強できるのですが、実際の駅の周辺というのはコンコース、つまり通路になっていたり、改札機があったり、いろいろな施設になっていますので補強はなかなかできませんでした。ポリエステル繊維織物を使ったSRFなら補強できるという場所が多数出てきました。もう一つ良いことは、繊維織物ですから柔軟性があってバラけないので、工事がしやすいです。ベルト状にしたものを持っていって、ぐるぐるターバンみたいに巻くだけです。鉄板だと重機で運び込んでクレーンで入れて、溶接しないといけないのですが、それがないのは楽です。これがSRFです。通常は、スーパー・レインフォースメント・ウィズ・フレキシビリティという英語の頭文字です、柔軟性がある優れた補強ということですと説明していますが、実は、S・R・Fは決まった言葉の頭文字ではなく、それぞれの文字に色々な意味が込めてあります。例えばSはシンプル、ソフト、サーフェイス、スパイラルなどの意味があり、Rはリライアブル、リカバー、レメディなどです。

SRFというのは、今は柱の補強がメインで、日本橋の大きな事務所ビルとか、全国の学校でもだんだん使われ始めています。というのは、従来は柱を補強するというのはなかなか大変でした。鉄板を巻くとか、コンクリートで周りを固めるとか、大工事になっていたのですが、SRFの場合は簡単に、しかもしっかりした補強ができますので、例えば学校とか事務所とか、そういう柱が中心の建物にはもってこいということで、だんだん普及が始まっています。 2007年の8月には、累計3000本目の柱を銀座みゆき通りで施工しました。

幼稚園補強

通りに面したほうには窓、裏とか隣のビル境は壁になっているという建物は、偏心していると言われます。また、上のほうは窓があってしっかり壁があるけど、下は柱だけでショーウィンドウになっていたり、駐車場になっているという建物はピロティという建築様式ですが、構造的には弱点があると言われており、新耐震基準で作ってあっても大きな被害率を記録しています。そのような建物に対する補強としても、SRFがぴったりです。実際にSRFをして実験をしました。大型振動台の上に偏心しており、ピロティである、揺れが複雑で設計が難しい2つの模型を作って、一つはSRFをして、一つはしないで揺らしてみました。その結果、SRFをすると、過去の地震を7回連続でかけてもつぶれないということが実証されました。ですから学校とか、昇降口とか、あるいはマンションの一階とか、あるいは事務所ビルのピロティになっているオフィスビルの柱ばかりのところについて補強すると、かなり強くなります。

2007年7月には、柱だけでなくSRFの壁補強も建築防災協会に認められました。ブレースを入れたり、コンクリートの壁を新たに作るのでなく、既存の壁にSRFベルトやシートを貼って、強度も粘り強さも向上させることができます。壁のブレースを入れるということで補強計画が止まっていた案件に、現実的で耐震基準を満足する補強を行なうブレークスルーになると思います。

不燃材充填

あともう一つの利便性は、居ながらできるということです。最近は、どの耐震補強法も大抵、低臭・低騒音でその場に居ながらできますとパンフレットには書いてあるのですが、実際にやってみると、粉塵、騒音、臭気がひどく、工期が延びたり、中止になることが多く、もう懲り懲りだという話をよく聞きます。もう一つ、SRFは鉄板と違って、剛性といって硬さを変えないので、部分的に補強を行なってもマイナス面は出ずに、プラスアルファになります。通常の補強の場合、一部分だけやるとかえってそこが硬くなり、他が弱くなります。上の2フロアを残して、下の方だけブレースを入れたところ、このあいだの震度5強の地震で上のフロアが激しく揺れて、エレベータや什器が破損し、オーナーさんが結局ブレースを取り外すようにゼネコンに申し入れたと聞いています。SRFの場合は部分的でも、他に影響無く補強が出来るので、テナントの入れ替え時や自宅のリフォームのついでに行なうこともできます。あるいは計画段階から、段階的な補強計画にできるというメリットがあります。このようにSRFは、全ての面で従来法とは違う、新世代の補強技術であると言えます。

本来は、新築工事の段階でも使っていただきたいのですが、現在は建築基準法で構造材料が特定されています。例えば木、石、コンクリート、鉄などがそうですが、ポリエステルというのは書かれていないので使うことができません。従って鉄などで法規を満たす補強をした上でのプラスアルファの用心になります。ただし、機能的には十分代替として使えます。大地震にはSRFで、中小地震と普段は鉄筋コンクリートなどで耐えるという構造は、遙かに軽く、安く、信頼性と機能性がある構造です。

これからの耐震補強

日本の建物は、柱とか壁が目立って多いと思いませんか。例えばヨーロッパを旅行されてホテルに泊まられて、柱の形が部屋に出ていたり、梁が出ているということはないでしょう。日本のマンションなんて梁がドンと出ています。それがなぜかといいますと、日本の建物では耐震基準が厳しいので、地震に備えて大きな梁や柱を使っています。普段は役に立っていないのですが、500年に一回のものすごい地震が来たときには役立つ備えになっています。もし、大地震に対する備えを考えないと、柱の太さも梁の幅も今の半分以下になります。例えば地震のないヨーロッパでは30センチの柱で10階建ての建物を平気でつくっています。ニューヨークなどもそうです。日本でも、SRFと今までの技術を組み合わせると、それが必ず可能になります。つまり500年に一回の大地震にはSRFで耐えて、中小地震とか、普段の力は鉄筋コンクリートなどで支えるということにすれば、合理的な建物ができるということです。

裏方に徹する耐震構造

構造技術者が何かということでもお話しましたが、やはり黒子です。ですから今は、逆に言えば構造が表に出すぎている面もあります。つまり、実際には梁がないほうが使いやすいし、ピロティのほうが使いやすいけれども、構造を考えると太い梁がでたり、ピロティを避けるようになったりしています。それを逆に構造技術者として新しい技術で支えて、もう一回裏方に徹することは、SRFを使えばできると思います。そうすると一見、途上国のようなスレンダーな建物でも、実は安全な建物ができます。

もう一つは、建設業界は一番CO2を出しています。つまり環境に対する負荷が一番多いということです。コンクリートを作るとき、鉄筋を作るとき、運搬するとき、建設するとき、トータルのCO2の排出量がかなり多くなっています。それは材料の重さに比例していますので、仮に柱の寸法を半分にできれば、重さが減ります。それと、地震で起こる揺れの力は構造物の重さに比例しますので、重さを軽くするとそれだけ地震の力も減るのです。相乗効果で材料の倹約ができる。そうするとCO2の発生も減らし、環境にやさしい建物ができるということです。

このような技術開発、研究、実験を行なって、皆さんに安心して使っていただけるようにすることが、私たちの会社の次の目標です。

木造建築にもSRF

木造補強

SRFについては、鉄筋コンクリートのビルとか、新幹線のことばかりをお話しましたが、実はむしろ木造にぴったりなのです。というのは、ポリエステル繊維というのは、やわらかくてしなやかなので木材になじみます。日本では、木材同士を綱や滑車を使い手作業で組み合わせて丈夫な建物を作るという伝統的な木造技術が発展し、巨大な木造建築を多数生み出し、今でも維持しています。最近の木造はそうではなく、木をカットして接ぎ合わせをして、金物で留めるという形式になっています。それはそれなりに強いですが、木材に穴を開けたり、鉄と木という硬さの違うものをつけると問題も出てきます。木材は経年的に縮むし、乾燥すると性質が変わってきますが、鉄はそのようなことがないので、年が経つとだんだんそりが合わなくなってくるということも起こります。SRFのポリエステルで、その辺の問題を解決することができます。木造にも、ちょうどバンソコウみたいに貼っていったり、あるいは縛るような形で使ったりするとかなり頑丈になります。木造が壊れるのは、梁と柱の継ぎ目、接合部が外れてしまうことが原因になりますが、その外れを抑えるためのSRFのベルトを貼り付けたり巻きつけたりすると、外れなくすることが出来ます。日本の木造は、老朽化、地震、火災などを乗り越えて、補修、補強をして永遠に使うことを念頭においた技術です。SRFは、これからの木造技術に加えていただけると思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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