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防災インタビューVol.17

工務店が守るお客さまの命

放送月:2007年4月
公開月:2007年12月

松崎 孝平 氏

松崎建設代表取締役

リフォームと耐震補強

中越地震以降は、少しずつ耐震補強も進んできたように思いますが、まだ私たちが望んでいるほどの進み具合ではないというのが現実です。地震に対して不安を持っている一部の方は行動を起こすようになりましたが、行動を起こさない方は徹底して起こさないのです。耐震補強はしなければいけないということは、少しずつは認識されてきているのですが、なかなか進みません。その大きな原因は、地震が起きて自分が被害を受けるということに対して、リアリティーを持っていないからだと思います。分かりやすく言うと、人ごとなんです。その方には、どんな老朽化していて危ないと思われる建物で、こちらが何度も何度も口を酸っぱくして言っても、分かっていただけないというのが現状です。

いつかは必ず関東地方にも大きい地震が来るのではないかということを頭では分かっているけれど、ストンと腹に落ちていないのです。そういう方に「耐震補強をやって今のうち手を打っておけば地震が起きたときに安心です」と説明するのですが、「うちは太い柱を使ったから大丈夫」「大工さんがしっかりやってくれたから」と言うばかりで、何もやらないのです。でも、「うちのお風呂をそろそろ古いから直したい」というようなリフォームにはお金を掛けるのです。

皆さん、自分の住んでいる家をきれいにリフォームすることと、地震に対する備えを分けて考えているところがあるので、ここはぜひ、普通のリフォームのときに耐震性をアップするようなことを、工務店がすすめていかなくてはいけないと思っています。これからはリフォームと耐震補強をセットで行うというのが良いのではないかと思っていますが、耐震補強が進まないのは、地震に対してリアリティーを持っていないということだけではなく、お客さんの側からしても、耐震補強はとても分かりにくいということに原因があると思います。

私が一軒一軒、現場でお客さんにお話を伺っている中で感じるのは、今は二世帯住宅というのが意外と少ないということです。息子さん、娘さんの世帯はマンションを買ったり、あるいは地方へ嫁がれたりして一緒に住んでおらず、昔の古い木造の家にお父さん、お母さん、お年寄りご夫婦が住んでいるというケースが多いです。このようなケースで「皆さんは家の中にいる時間が長いですから、家の補強をしないと地震が来たとき、とても危ないです」と申し上げても、「この古い建物に、いくらまで掛けていいのか。今更この建物にお金を掛けるのももったいない」という気持ちが起きて、なかなか踏み切れないようです。

耐震補強についての課題

耐震補強をやるにしても、いろいろなハードルがありますが、中でも問題なのが、いくら掛かるのか分からないという心配です。いくらぐらい掛かるか分からないという原因は、診断の時点では既に建っている建物の強さを、後から見て判定するわけで、一概には言えず、すべてを見て回ることはできないから誤差が出てしまうことにあります。誤差が出ることを前提に話をするべきだという専門家の方もいらっしゃいます。私もそうだと思います。

足立区と一緒に活動している耐震相談会の模様

もう1つの問題としては、診断の内容が本当に信頼していいものなのかという点があると思います。診断内容を基に今度は補強の計画を立てますが、補強の計画を立てたときに、果たしてそのやり方で、どの程度強くなったのかというのが分かりにくいというのも問題です。今、建築防災協会で出している計算の方法ですと、耐震補強を幾つにすると震度幾つまで大丈夫です、とは書いてありません。お客さんとしては、「これで震度幾つまで大丈夫なの」と聞きたくなるわけです。「この程度であれば、水平加速で言えば震度6強ですね」とお話しさせていただくのですが、「では震度6強では壊れないのか」、要するに「保証してくれるのか」というところまでいきますと、実際のところスタートの診断が完全なものではないですから、余裕を見た形でやっているので誤差があります。では、それに対してお客さまがお金を掛けようと思うでしょうか。実際やらないよりは、掛けたほうがいいのですが、そのような問題点もあると思います。

もう1つ大きな問題は、誰に頼んでいいのか分からないということです。耐震リフォームだけではなくて、悪徳リフォーム業者というのもありました。一般のお客さんが分からないのをいいことに、ああいう事件を起こしましたので、まじめにやっている工務店がとばっちりを食いました。「私は一生懸命やります」という話をしても、お客さんはどこを信用していいか分からない。これを解決するには、私は役所が「ここの工務店ならば大丈夫」という保証をしてくれるのが一番いいと思っています。市民、区民が安心して問い合わせをして、役所のほうでお墨付きをした診断士なり施工者なりを紹介するという、一貫した流れがないと駄目だと思います。その点では、足立区はしっかり体制を整えているほうです。登録の診断士・施工者の制度もあり、助成制度が非常に使いやすい形になっています。

耐震補強の費用

耐震補強をするには、いくらお金を用意したらよいのかということがはっきりしないと、なかなか一歩が踏み出せないと思います。私が実際に現場でやっているケースを考えてみますと、家の古さと大きさによって変わってきますが、現在残っている古い建物は築40年ぐらい、木造家屋ですので25坪ぐらいから、大きくても40坪ぐらい、それ以上大きな建物というのはあまりないのです。そうすると、建物の築年数と大きさから言うと、大体150万から200万円ぐらいが多いかなという気がします。

もちろんそれぞれのお住まいによって金額には違いが出てきますが、大きく変わってくるのが、どのくらい強くするのかという点にかかわってきます。大きな地震がきてもガラス1枚割れないくらい強化するのか、家族と自分の命だけ守ればいいという程度に強くするのか。この点がまず1つです。

それから掛けられる費用によっても変わってきます。いくら地震が心配だといっても、湯水のようにお金を掛けて補強するわけにはいかないですし、この家にいくらまでお金を掛けていいのかというところに大きくかかわってきます。

それからもう1つ、施工できる条件というのがあります。これが何かといいますと、例えば、この壁を強化すると非常に補強の程度が上がる場所があったとしても「そこの部屋にはおばあちゃんが寝ているから、その場所では仕事をしないでほしい」「じゃあ代わりにこっちにしましょう」と言うと、工事費が同じでも強度は思ったほど上がりません。

それですので、強度と費用と施工条件、この3つのバランスを取って、わが家にはどの方法がいいのかということを考えることが、やはり一番重要だと思います。

耐震補強の工法

耐震補強については、使いやすい金物や、やりやすい工法などがたくさん出てきて、とてもいいことだと思います。ただそれだけに依存してしまうのは、私はどうかなと思っています。一般の方が誤解をしてしまうかもしれないと私が危ぐしているのは、それさえ使っていればいいのだというふうに思われることです。本来、現在新築の建物を建てているときは、あまり特殊な工法を使ったりしてはいないのです。

今建っている建物をあまり壊さないで強化するために必要な金物とか工法ということで開発されているものの中には、実は一般の大工さんで十分できる補強のしかたがあります。それは皆さんもよくご存じだと思いますが「筋交い」です。これには、柱の間の壁の中に斜めに入れるものであったり、あるいは一面にベニヤの耐震合板を貼ってしまうやり方があります。それから、柱が引き抜けないようにするように金物で固定する。こういったものを組み合わせてやっていく方法です。

その家を建ててくれた大工さんにお願いして、補強工事をやっていただくのが一番良いのですが、これはその大工さんが耐震補強工事に関して知識なり意欲なりを持っていないと、なかなか難しくなってしまいます。それはお客さまの視点からではなくて、われわれ同業者から、あるいは役所のほうから大工さんに働き掛けていく必要性があるのではないかと思っています。

大工さんがお年を召して、家一軒丸ごと建てるにはちょっと年を取ってしまったという方も結構いますが、リフォームや耐震補強は、そういう方でも十分可能です。ただし、そういう方にしても、お客さまがどこにいらっしゃるのかが分からないのが現状です。そういう意味で、役所のほうで受け皿をつくってほしいと私は思っています。

例えば、私は社団法人建築士事務所協会に所属していますが、これは全国組織の設計事務所の団体です。ここでは耐震診断を受け付けておりますが、一般のお客さんは、建築士事務所協会というメジャーな名前さえご存じありません。例えばNPOや何かの団体で紛らわしい名前をつけると、お客さんはその団体が正しい、安心できる団体だったとしても敬遠してしまいます。その点、行政が受け皿になって紹介してくれれば安心して、お客さまは迷わずそこにたどり着けると思います。このような形で、行政が全国に耐震補強を広げてくれるといいと思っています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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