地震に対する備え
先月、石川県で震度6強の大きな地震がありましたが、恐らく石川県・能登の方は、自分たちの所がこんなに大きな地震で被害を受けるとは思っていなかったのではないかと思います。阪神淡路でも中越でも同じようなことが言えると思います。このような地震は日本全国どこで起きても不思議はない地震であり、中でも宮城県や首都圏直下型というのは、発生の確率がうたわれている状況ですので、早めに起こるということはあり得ると思います。ですので、起きた後ではなくて、起きる前からどのように対処しておくかということが必要になってくるのではないでしょうか。ただ、能登の場合は発生した時間が日曜日の朝9時すぎでしたから、皆さん起きて活動されていました。不幸にして一人の方がお亡くなりになりましたが、これがもし夜だったら、就寝中だったらと考えると、非常に怖い地震だったと思います。
いつ起こるか分からないのが地震ですので、皆さんも十分に心の準備と耐震補強をしていただきたいと思いますが、いつ起こるか分からない地震をずっと待っているのが、これが非常に簡単なようで難しいです。
それぞれが持てる力を発揮して
いつ起こるか分からない地震に備えることは難しいことですが、これをどうしたらいいのかというと、1つは啓もう活動です。行政をはじめ、われわれ建築に携わる者から、常にお客さんに啓もうしていくことが大切です。私たちが事あるたびに「補強していきましょうよ」と申し上げればいいのですが、ただ行政が話をする、あるいはわれわれ一般の建築業者が話をするだけでは駄目だと思います。
例えば、足立区は耐震に対する助成制度はとても使いやすい地域だと思っていますが、実際にはこの助成金について知らない方もおられます。「助成金が最大で50万円、高齢者だけの世帯は70万円出ますし、所得制限もありません」というお話をしても、なかなか信用していただけないことがあります。これもＰＲ不足が原因です。役所のほうも広報に載せるだけではＰＲにはなりません。役所は金看板というものがあるので、それを発揮してもらい、活動し、われわれは街場の中でしっかり動くということをやっていけばいいのだと思います。それぞれが得意な分野でしっかり働いていくと、良い効果が出ていくのではないかと思います。
コーディネートの重要性
どちらの都道府県でも、耐震補強が進まないということで非常に悩まれていると思うのですが、これに特効薬はないと思っています。ではどうすればいいのかと言えば、やはりわれわれ建築の技術者や大工が、お客さまと顔を合わすたびに耐震補強を勧めていけばいいと思います。あとは役所の存在も非常に大きいと思っています。役所にはわれわれ民間がどう逆立ちしてもできないことがたくさんありますので、その役所の力を借りるということが必要になってきます。現在はどの市区町村でもいろいろな既存の組織があると思いますが、その既存の組織をそれぞれつないでいくのも役所の仕事だと思います。
その中で、例えばPTAを見てみると、PTAが耐震のことに関して心を砕くのは、学校の耐震化についてですが、住まいの耐震化のことについては考えてはいません。地域防災組織も地震が起こった後の炊き出しや、避難所の運営については訓練をされていますが、起きる前のことについては訓練されてはいません。こういったように、既存の組織がたくさんある中で、それぞれの持っている得意な部分を役所がつないで、その中で耐震化をトータルで進めていくというコーディネートの役割を、ぜひ役所にしていただきたいと思っております。
建築技術者としての誇り
一番お客さまに近い位置で活動している街の工務店や建築技術者の皆さまが、自分たちの造った建物で人の命を奪ってはならないという、そういう強い思いを持っていただきたいと思っています。これは、家を造る側の責務というふうに言えると思います。天職という言葉がありますが、自分の一生を懸けてやる仕事がこの仕事だとするならば、形として残した建物で人の命を奪うようなことがあってはならない。多くの人たちが安心して暮らせる住まいを求めている以上、それを提供していくのは、われわれの責務だと思っています。あまり大きなことを言ってはいけないのですが、やはり一人ひとりがそんなことを考えて、耐震に取り組んでいただきたいと思います。
