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防災インタビューVol.19

人々の暮らしと命を守る「土木」

放送月:2007年5月
公開月:2008年1月

後藤 洋三 氏

元防災科学研究所川崎ラボラトリー所長、

3日目に被害の一番激しい現場へ

なかなか被害の大きかった中心街まで行けないので、地震から3日目に会社がチャーターしたヘリコプターに乗って、大阪から神戸の裏山まで飛びました。その時に六甲山がよく見えましたが、空から見るとそんなに被害を受けているようには見えませんでした。その前の年にロサンゼルスで大きな地震があり、その時に、あの辺りははげ山が多いので余震が起きると土砂崩れが起きて、土砂煙が舞い上がるビデオを見ていましたので、「これはたいしたことがない、何故大きな被害が?」と思いました。

三宮駅付近の建物被害の残骸

六甲山の裏山にヘリコプターで降りて、そこから自動車に乗り換えてトンネルを抜けて、新幹線の新神戸駅の辺りに出てきました。トンネルの中からカメラを構えていましたが、あの辺りは実はそんなに被害が無くて調子抜け。ところが、少し下っていって、三宮駅のガードの下をくぐろうとしてびっくりしました。目の前に枕木がついた線路が垂れ下がっていました。周りを見ると、その辺りから急に被害がひどくなってきて、線路のそばの家はみんな壊れています。大きなビルも途中の階がつぶれて傾いていました。これはすごいことが起こったと思いしらされました。

「みんな壊れてしまいましたわ」

神戸にある会社の支店まで行くと、支店の人たちは、地震が起きた日の朝からずっと働き詰めで3日目になっていますから、みんな疲労困ぱいしていましたが、体力の限りを尽くして頑張っていました。外から来た応援者の私は居場所がないような感じだったのですが、そのうちすぐに「あんた土木だろう。耐震のことやっていたんなら、ちょっと一緒に来てくれ。神戸の地下鉄がおかしくなっているから、見に行く」と言われました。案内してくれたのは、ずっと神戸で土木の施設を造ってきた人で、そろそろ定年だという方でしたが、歩きながらぽつりと「みんな壊れてしまいましたわ」とおっしゃいました。その言葉にこもった無念さをすぐに実感させられました。

三宮付近の鉄道被害(清水建設HPより、1995年兵庫県南部地震調査報告)

支店は元町にあり、三宮駅まで1キロぐらいありましたが、辺りの街並みはぐちゃぐちゃでした。三宮駅の北側まで何とかたどり着きましたが、それがまた悲惨な状況でした。三宮の北口は繁華街で、いろいろ装飾を施した雑居ビルがいっぱいあります。それがみんな壊れてしまっていました。装飾が落ちており、ひどいのは鉄骨だけになっているものもありました。阪急の三宮駅は洒落た駅でしたが、これも壊れていました。私は大阪で育ちましたので、よく神戸に遊びに行きました。阪急電車は山の手を走っているので、ハイソサエティーが乗る電車というイメージがありました。特に三宮駅というのは、駅の上に当時では珍しいドームがかかっていまして、そこから電車が出てくるのを見ると、とてもかっこよく見えたものです。その駅が壊れてしまいました。それを見て私は、神戸が壊れていると本当に実感しました。

地下鉄の駅も壊れた

地下鉄が壊れているということで三宮の地下駅に向かいましたが、駅に入ろうとしても普通の階段は壊れていて危険でした。それで、動いていないエスカレーターを逆に下りて中に入りました。既に地震から3日目ですので、仮設の電気は来ていて、中は明るくなっていました。改札口辺りを見ると、別に何も壊れていません。しかしそれから、普段は人が入らない機械室に案内してもらうと一変しました。コンクリートの壁や柱がむき出しになっていて、その柱に大きくクラックが入って所々でコンクリートがはげ落ち、鉄筋が見えているような状態だったのです。目が慣れてくると、幾つか並んでいる柱がありますが、その柱や壁や天井にもクラックが入っているのが見えました。これにはびっくりしました。

地下鉄駅の中柱の被害

私たち土木の常識では、地下の構造物というのは地震には安心だという観念がありました。案内してくれた人も、「安全なはずなのに、何でこんなことになったんだ」と言い、「この状態のままにしておいて大丈夫か。補強をしたらいいのか。補強するにしても、作業員を大々的に入れて大丈夫なのか」と聞いてきます。作業員を入れているときに余震が起きて、二次災害が起きたら大変なことです。そういうことを判断してほしいということでした。ところが、地下の構造物ですので、周りから見るわけにいきません。中からも、通常人が歩く所はほとんど装飾していますので、実際にどうなっているかよく見えないのです。それでも、何でこんなふうになったのかの判断をしなければいけないわけです。

ここで、それまでに地下の構造物の耐震性について計算したり実験してきた知識が生きました。三宮の地下駅のような構造では、周りの地盤が地震で変形すると駅全体の箱状の壁も変形します。そして、中柱という地下鉄のホームの中に立っている比較的細い柱に、周りの壁より大きな変形が生じてしまうのです。さらに、中柱は邪魔にならないようにできるだけ断面を小さくしていますから、天井からいつも大きな力がかかっています。そのため地震で大きく変形し余分の力がかかると、すぐにヒビが入ってしまうということです。それで中柱の所だけが被害が大きいと判断しました。周りの壁は直接見えないが、大きな被害は受けていないはずだから、中柱のところだけさらに折れて下がってこないように補強すれば、取りあえずは大丈夫だという判断をしまして、「急いで中柱の周りにサポートをかけてください。念のため周辺の壁の装飾してあるところを部分的に少しはいで、見て調べてみて下さい。大きなひび割れがなければ作業員を入れて、どんどん復旧工事をして大丈夫でしょう」ということを言いました。しかし、やはり人の命がかかっていますので、そういう判断が正しかったかどうか、研究所に帰ってから急いで計算してチェックしてみました。この判断は正しかったです。

それまで、実際に地下鉄が被害を受けたことはなく、想定していなかったので、中柱が変形するようなことを考える設計法になっていなかったのです。今はもちろん、そういうことを考慮して設計しますし、皆さんよく注意して見ていただけば分かりますが、地下鉄の中の柱は、ほとんど補強してあります。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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