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防災インタビューVol.19

人々の暮らしと命を守る「土木」

放送月:2007年5月
公開月:2008年1月

後藤 洋三 氏

元防災科学研究所川崎ラボラトリー所長、

耐震設計法の転換が必要

ちょうど地震発生から1週間ほどたった夜遅くに、国土交通省系の研究機関のよく知った研究者から電話がかかってきました。彼は国会の大臣の答弁のための資料作りをやっていました。「なぜ高架橋が壊れてしまったのか」というような被災原因を説明する解析や資料作りに追われて、かなり憔悴していました。それでも用件が終わってから、これからの橋の耐震設計をどのようにすべきか、彼は熱く話しました。今まで設計のために想定する地震力が明らかに小さかったので、「これはもう実態に合わせてありのままに大きくしないといけない、思い切って想定する地震力を上げよう」、ただし、それだけだと今までのやり方では設計が難しくなるので、実際に構造物がどういうふうに揺れるかということをきちんと解析して、それを反映して、「ある程度壊れるのは仕方がないけれども、倒れることがないような設計方法をとるようにしよう」という話になり、わたしは強く同意しました。

実は阪神淡路大震災の5、6年ぐらい前から、土木学会の10名くらいのグループで「これからの橋梁の耐震設計をどういうふうにしたらいいか」を勉強する委員会活動をやっていました。その委員会には彼も参加していまして、そういう活動がバックにありましたので、すぐ話ができたのだと思います。

その委員会で議論していたことは、設計に使う地震力をレベル1とレベル2の2段階にしようということでした。レベル1というのは、設計震度0.2という、それまで使われてきている一般的な耐震設計の地震力です。しかし、実際の地震の時に震源の近くでは、その4、5倍の大きさの地震力がかかることがあり得るらしいと、これは阪神淡路大震災で実証されたのだけど、当時は推察していました。それで、レベル2という地震力を想定して、その4、5倍大きなものを想定しました。ただし、それでと同じ方法では設計できませんので、実際の構造物がどういうふうに揺れるかということを計算して、その結果に基づいて、どこまでの被害なら許せるかをコントロールするような設計法をとることにしようと、話していました。

このような光景があちこちで見られた。

その委員会では、「京阪神のどこかでケーススタディーをしよう」ということになり、レベル2の地震力を起こす断層を想定しました。どこで起きるかということで、実は六甲断層と生駒断層、この2カ所でマグニチュード7.5の地震が起きると想定することにしました。阪神淡路大震災はその後に起きましたが、淡路島を含む六甲の断層でマグニチュードが7.3の地震でした。

そういうことを想定できるくらい、実は地震学の先生方の意見を聞くと可能性のある場所を予測できたのです。しかし、その委員会でやってきた成果は、阪神淡路大震災の起きたころにやっとまとまって、印刷物にして発表できたのは阪神淡路大震災の6カ月後でした。残念ながら間に合わなかったのです。ただ、そこまでいろいろ勉強していましたので、その考え方を使えるんじゃないか、使うべきじゃないかということで、地震が起きてから1週間後にすぐに、こういう話ができました。

地震観測の成果

K-Net観測網

いろいろ耐震設計の勉強をしていても、間に合わなかったというお話をしましたが、実は間に合ったものもありました。それは関西地震動観測協議会が、阪神淡路大震災の発生する2年ほど前から活動を始めていまして、地震を測る装置をたくさん関西に付けなければいけないということで、ちょうど地震計の設置が10カ所ほど終わったときに地震が起きたのです。それで、かなりいい記録が取れました。この協議会は民間会社や大学の先生方だけの集まりで、それが地震の観測を始めていたのです。この実績を背景に、代表をしていた土岐先生が、国がお金を出してもっと本格的な地震観測をやらなければいけないと訴えて政府を動かしました。阪神淡路大震災の当時は数百点しかなかった震度計が、今は2600点になっています。それから、防災科学技術研究所が担当して1000カ所にKネットという、もっと精密な地震の揺れを実際に測る地震計も付けました。それからさらに高感度の地震計もたくさん付けまして、非常に密な地震観測網が今の日本にはできています。

今年の中ごろから、気象庁が本格的に情報サービスをすることになっています緊急地震速報というのがありますが、それも実は、こういう地震観測網が整備されてきたから、できるようになったものなのです。要するに、震源の近くの地震計で揺れを即座に観測し、どこでどのくらい大きいのが起きたか分析して、地震の揺れが伝わってくるまでに「大きな地震が来ます」と警報を出すということも、こういうネットが整備されてきたから初めてできるようになったのです。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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