1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報
  4. 防災インタビュー
  5. 子ども達への防災教育と実践
  1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報

防災インタビューVol.21

子ども達への防災教育と実践

放送月:2007年7月
公開月:2008年3月

諏訪 清二 氏

兵庫県立舞子高校教諭

震災を語り継ぐ

豊岡水害ボランティア

神戸にはたくさんの語り部さんがいて、彼ら、彼女らが震災について体験した話をしてくださっていますが、その話というのは、本当にハンカチなしでは聞けません。でも、ふと気が付いたのは、ほとんどの語り部さんは大人の方です。当然ながら大人の視点で震災を語ってくださいます。これはとても大事なことですが、「当時、子供は震災の中でどう生きていたのかな」ということが、ぽっかりと抜け落ちているような気がしています。

これを強く感じたのは、舞子高校の3年生の授業で「震災体験を文章に残そう」ということで、『語り継ぐ』という冊子を作った時です。この内容はみんなに読んでいただけるように舞子高校のホームページに全部挙げています。本当に、お母ちゃんの死にざまとか、そんな話がいっぱい出てきます。しかし、楽しい話もいっぱいあるのです。遠くに疎開していて、新聞記者に取材してもらって新聞に載って、次の日におもちゃ屋さんに行ったら、「君、かわいそうやね、頑張れよ」とおもちゃをくれたとか、生活のにおいがする話がいっぱいその冊子に残っているのですが、僕はそういう話を若者語り部として、どんどん伝えていきたいと思っています。今の大学生が当時、震災を小学校の低学年で体験しました。いわば震災を覚えている最後の世代なのです。最後の世代の体験を、彼らが子供たちの目で見た震災を今、大学生ぐらいになった言葉でどんどん広げていきたいと考えています。具体的な取り組みとしては、静岡の森中学の子供たちが修学旅行で来た時に、舞子高校の卒業生が語り部をしましたが、そういったことをこれからどんどん広げて、「若者語り部活動」というのを一つの被災地の大きな活動にしたいと思っています。

「サバイバー(Survivor)になるための防災教育」
「サポーター(Supporter)になるための防災教育」

防災教育というと、まず誰もが思い浮かぶのが、自分の命を守るということです。例えば、避難訓練も命を守るための訓練ですし、耐震補強した家に住むことも地震に対する備えであり、これも自分の命を守ることだと思います。それはとても大事なのですが、ただその中でも誰もが「自分だけは災害に遭わない」と思っているのです。あるいは遭っても自分は助かると思っているのです。地震は百年に1回とか千年に1回ですから、自分が生きている間は大丈夫だろうと思っているのです。ですから、どうしても非現実的な話になっています。しかし災害時に生き残るということはとても大事ですから、僕はそういう意味での防災教育をしていきたいと考えています。災害の中で主体的にいかに生き残るか、そういったことを教える教育という意味で、「Survivorとなる防災教育」と名付けました。Survivorというのは「被災者」の英語訳です。ニュアンス的には「生き残る人」という意味です。実は、一昔前までは防災教育というと、これしかありませんでした。しかし、その中でも「自分は被害に遭わないんだから、そんな教育を受ける必要はないじゃないか」と思われる方も多いと思います。

僕は今、被災地・神戸にいて、いろいろな防災教育、あるいは現場を見てきた立場でふと気が付いたのは、「たくさんの人は、支援する側に回ったじゃないか」ということです。神戸では、震災の年が「ボランティア元年」と言われましたが、1年間で137万人が神戸に来たそうです。1カ月で100万人というお話も聞いたこともありますが、それだけの人が来てくれたわけです。来てくれたからといって、みんなが素晴らしかったわけではなく、手ぶらで来て「どこに泊まったらいいの? 何食べたらいいの? 何したらいいの?」そういう人もいました。あるいは遠くから家の古着を全部詰めて送ったものの、被災者は「こんなもの着れるか」と怒ったという話もありますし、「いや、ええねん、それでも助かってんねん、家も服も皆燃えてもたから」と言った人もいたそうです。いろんな話がありますが、そういった話を勉強することは大切です。過去の災害のそういう教訓を勉強したボランティアは、ものすごく役に立ちます。だからといって、勉強せずに行った人間が役に立たないかというと、阪神・淡路大震災の時は3日いたらベテランになるくらい、現場で鍛えられたのです。けれど、3日間無駄に過ごすよりは、やはりそういった教訓を学んで、いかに人を支えるかということを勉強していく。そういうことも大事だと思います。例えば避難所で、子供がいきなり先生を蹴飛ばすとか、ボランティアを蹴飛ばすとか、花を植えていたら全部引っこ抜いていくとか、あるいは段ボールできれいな家を作って遊んでいるなと思っていたら、ぶっ壊して地震ごっこをしたりするような光景が見られます。普通に見ると、おかしな行動だと思われますが、心のケアという勉強をしていたら、それが異常な状況の中での普通の反応なのだということが分かります。ボランティアに行く人がそんな勉強をするだけで、人を支援する仕方が変わってくるわけです。そういうふうに、人を支援するにもやはり知識や技術が必要です。支援するという意味で、僕はこれを「Supporterとなる防災教育」と名付けました。兵庫県では震災の後、新たな防災教育といって、命の大切さとか助け合いの素晴らしさを学ぼうという話をしてきましたが、実はSupporterとなる視点というのは非常に大事だと考えています。例えば先ほど、百年に1回の地震、千年に1回の地震と言いましたけれど、日本中で毎年地震が起きていますよね。あるいは世界に目を向けても、何万人も亡くなる地震が年に何回も起きている。それでも自分は助かっています。今、自分は被災地の外にいるけれども、その人たちを遠くから支援することだってできるわけです。物を送るだけでもいいけれど、それを送るときに現地の人が喜ぶような送り方ができるといいと思います。また、現地に駆け付けられるなら駆け付けたらいいでしょう。しかし自己完結をして、人に迷惑を掛けずにしっかり支援できる支援のしかたが大切です。そういうことを勉強するのが、「Supporterとなる防災教育」だと思っています。

災害時に役立つ防災教育

先ほど、「Survivorになるための防災教育」と「Supporterになる防災教育」の両方が大事だという話をしましたが、実はもう1つあります。よく災害の時は「訓練したこと以外はできない」と言われます。例えば、消火器を使ったことがない人が火事の現場に行って、消火器を使うことはまずできないと思います。実際にこれは神戸の消防士さんから聞いた話ですが、民家の火災を消し止めますと未使用の消火器がいっぱい出てきたということです。これは市民が火災を何とかしようと思って駆け付けたのですが、結局は消火器の使い方が分からず、火災の中に入れれば爆発して火災が消えるだろうと、みんな放り込んでしまったということです。しかし、これでは消えるわけはありません。だからやはり、日ごろの訓練が大事だというのは分かっています。しかし、ここで1つ疑問があるのですが、阪神・淡路大震災の時には、私たちは訓練していないことをたくさんやり遂げました。例えば、僕なんかは学校のトイレに汚物が5、60センチ山積みになっていて、それを手で除去しましたが、こんな訓練は誰もしないし、したくもないです。そのほかにも、例えば避難所でもめ事がいっぱいありました。そのもめ事の調停をしていったのは学校の先生であったり、ボランティアのリーダーなのです。また被災者のニーズと、遠くの人たちの支援をどうつなぐかという、いわゆるコーディネートの仕事がありますが、それも実は被災地の中で手探りでやっていきました。現場、現場でいろいろな困難に出合いながら、でもみんなで解決していきました。

最近のゲームでクロスロードという防災のゲームがあります。クロスロードというのは、人生の分かれ道みたいな意味ですが、あのクロスロードを作られた京大の矢守先生が、「問題には正解がある場合とない場合がある」とおっしゃっています。「正解」がない場合でも、みんなで話し合って「合意」をしてきた、それが阪神・淡路大震災ではなかったかということを書かれていました。人の話を聞いて、なだめて整理して、また人の話を聞いて、最終的に皆で合意をしていく、そういった力を私たちは被災地で発揮しました。実はこれは全部訓練なしでやり遂げたのです。では、なぜ訓練なしでやり遂げられたのかといいますと、これは日常に持っている力、臨機応変の判断力であるとか、そういったものを転用したのです。ですから簡単に言ってしまえば、日常を、一生懸命、ゆたかな力を付けて生きていけば、災害時にもそれは役に立つじゃないかということです。これは人を支援するときにも役に立つのではないかと思っています。そういう発想です。それを僕は「市民力をはぐくむ防災教育」と名付けています。ですから、「Survivorとなる防災教育」「Supporterとなる防災教育」、それから「市民力をはぐくむ防災教育」、この3つがとても大切です。

生徒たちにはよく言うのですが、例えば、部活動のキャプテンというのは初めからしっかりしていたわけではないということです。何か頼りない部活のキャプテンが、先生とぶつかったり、怒られたり、部員とぶつかったり、試合に負けたり勝ったりしながら、1年たったらとても頼りになるようになります。あの子らを集めてボランティアをつくったら、ものすごいなと思います。そういうふうに日常、例えば部活動を一生懸命やるとか、どこかのボランティアに行くとか、これは防災じゃなくていいのですが、それが大切です。例えば障害者のボランティアをやっていることで、コーディネートの力も付くし、ネットワーク力も付くのです。こういうふうに日常ゆたかに生きていくということが、実はきちんと視点を持てば防災教育につながると、そういうふうに考えているのです。ですから、防災教育というのは狭くなる必要はありません。どんどん、どんどん広がって、若者たちの夢と防災をつないでいくような広がりを、これから持たせていきたいと考えています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

会社概要 | 個人情報保護方針