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防災インタビューVol.41

災害からいのちと暮らしを守るために~災害救援NPOの現場から

放送月:2009年5月
公開月:2009年11月

栗田 暢之 氏

レスキューストックヤード代表

レスキューストックヤードHP:http://rsy-nagoya.com/

地域の防災力

阪神大震災で、亡くなった方の8割以上の方が家屋の倒壊、あるいは家具の転倒によるものだったというのは、非常に深刻な数字です。しかし耐震補強はお金が掛かったり、専門の技術がいりますから、なかなか身近な存在になり得ません。かといって、最終的には達せられないといけないので、できるところから行うという意味で、地域全体で防災力を高めていくことが必要だと思っています。「耐震」しないからダメ、ではなく、いろいろと試してみたらいいと思います。

その一つに「家具の転倒防止」というのがあります。家具の転倒防止が終わった家から、また今度は耐震のことを話していくような、きっかけづくりをしたいと思い、私もNPOとして、これまで10カ所以上の地域で「皆で家具の転倒防止をしよう」という企画を打ち立てて、次のような活動をやってきました。これはどういう仕組みかと言いますと、公民館やコミュニティーセンターを使って、地域の役員の人、消防団、地域のボランティア、防災に対して興味のある方などに集まっていただいて、家具の転倒防止の講習会をやりました。講習会の先生は地域の大工さんや建築士さんです。家の構造が分からないと、留める位置によっては無意味な場合もありますので「ここを留めればいい」ということを教えてもらいながら、和気あいあいとした講習会をやって「まずは自分の家をやってみましょう」と声掛けしました。また民生委員さんは、自分の持ち回りのお年寄りのお宅を一軒一軒訪ねられて「お宅、転倒防止をやっていますか、やっていないならば地域の方がやってくれますよ」という声掛けをしまして、何人かが「やってください」と手を挙げました。そして家具転倒防止の講習会を受けた方が、その独居老人のお宅に行って、実際に転倒防止の作業をしてあげる、というようなことを何カ所かの地域でやっています。やってあげた家庭は喜ばれていますし、地域のきずながこうやって深まっていくのは大事だということで、非常に高い評価を頂いています。

しかし問題もありまして、民生委員さんがいくらお願いしても、やってほしいと言ってくる家が少ないのです。昔の方はもちろん遠慮深いということもありますが、他人が家に上がるということを非常に嫌ったり、ましてや寝室なんかに入られると嫌だと思われているようです。そういうときには私たちが呼ばれて、説得を続けるのですが、とにかく断り続けられます。揚げ句の果てには「地震がきたら寿命だと思いますから」と憎たらしいことばかり言うわけです。これ以上は入っていけないので、その場は引き下がりますが、地域の方に相談すると「あのおばあちゃんはあのヘルパーさんには頭が上がらないらしい」という情報が出てきます。その場合は、ヘルパーさんにお願いをして「もう留めてもらわないと駄目ですよ」と言ってもらうと、渋々受けていただいたりしています。私たちが目指しているのは、お一人お一人の命を守ることですから、お一人お一人に対応をしていく必要があります。

それからもう一方で、転倒防止をするということが最終的な作業目標ではありますが、転倒防止の作業をやった地域の方々が、もしものときに「あのおばあちゃん大丈夫かな」ということを思い起こしてくれることに意義があると思います。そういう方々が地域にたくさんいる地域が、やはり犠牲者の少ない地域になっていくと思っています。そう思って活動しています。一番簡単なのは、お金を掛けて、専門業者にやってもらうことです。それはそれでもいいのですが、やはり地域でそういう丁寧な活動をしていくことが、ものすごく大事なことだと思います。

「家具転倒防止作業風景」・名古屋市千種区東山学区

地域の防災力を高めるために

ぜひ皆さんに「防災運動会」というのを考えてもらいたいと思います。町内会、あるいは学校で、年に1回運動会がありますが、その時に1種目でも防災に関する種目を作って、それをメニューに加えていただければ、と思います。メニューも皆で考えてやるのがいいのですが、一つは竹筒と毛布で応急担架ができますので、地域の方々に実際に乗ってもらい、6人がかりで運んで競争するというものです。競争にしてしまうと早くやりすぎて落ちてしまう場合もありますので、安全に運んだチームが勝ち、というルールにします。また「大声競争」といって、警察から騒音測定器を借りてきて「火事だ」と叫んでもらって、何デシベルかと測って、やかましい人が勝ちというような競技もいいです。あるいは「バケツリレー」を町内対抗でやるのもいいです。消防署から大きな水槽を借りてきて、そこから放射線状にバケツ、やかん、ビニール袋やペットボトルを用意して、それをバケツリレーで運んでもらうという競技をします。これをやってみると本当に、いろいろ発見があります。地域で運動会をやると、もちろんお年寄りも参加されますし、車いすの方もいらっしゃいます。そこでバケツリレーで勝ちたいがために、みんなで作戦会議をやるのです。お年寄りや車いすの方々は真ん中に集まってもらって、なるべくバケツを渡すときのオーバーアクションをしなくてもいいような位置にいてもらおうとか、子供は足が速いから空になったバケツを前に持っていく係りとか、いろいろチームで工夫をしてやります。本当に本番に使えると思うぐらい真剣にやられていました。また私たちはその種目の中に、学校テントをチームごとに組んでもらうということもしています。テントを建てる作業はみんなで協力しないとできないですし、テントの組み立て方を多くの人が知っていると、地域にとっては「いざ」というときに非常に役立つと思います。

このような防災運動会を通して、本当にこれで知らない人同士が仲良くなれたという話もよくあります。また真剣に行ったバケツリレーの優勝商品は使ったバケツでしたが、皆さん喜んでいました。何でもない物でも、もらえるとか、食べられるとか、当たるとか、そういうことがあると皆さん来てくれます。いわゆる防災というのは非常に堅苦しかったり、非常にまじまさが求められたりするようなことですが、やはり地域でやる限り、ある種、楽しいということも要素として加えないと、なかなか人は集まってこないということを実感しています。防災訓練はもっと楽しく、地域の皆さんとコミュニケーションがとれる場にしていく必要があると思います。

防災訓練から芽生える交流

 

「避難はしごを使っての訓練」・愛知県安城市

今までの活断層のタイプの地震では、あまり指摘されてこなかったのですが、今度来る東海、東南海、南海地震では、長周期振動が高層マンションにどういう影響を与えるかを初めて目の当たりにする災害となります。一説には2.5メーターずつ横に揺れるといわれており、防災科学技術研究所 兵庫耐震工学研究センターの実大三次元震動破壊実験施設(E-ディフェンス)で実験が繰り返されていますが、かなり揺れるということも懸念されています。高層マンションに住んでいる方が、その揺れをしっかりと理解している方ばかりではないので、その辺の対策をどうしたらいいか、ということは大きな課題です。

一昨年、ある市から、『高層難民』という著作物を読んだ市長が「うちの市の中にあるマンション対策をしなければいけない」と思われて、私どもに委託事業として高層マンション対策の依頼がありました。しかし正直言って、途中であきらめようと思うぐらい出だしは悪かったのです。マンションに行ってもオートロックで人と会うことができないですし、誰が理事長かも分からず、非常に困りました。管理会社や昔から住んでいる住民の方のわずかな情報を頼りに、何とか管理組合の理事長さんを探し出して電話をしました。すると管理組合の方も「1年交代で嫌々やっているから、今年はやりたくない」というようなことを言われまして、本当に最初は困りました。しかし粘り強く話した結果、やはり東海・東南海地震の長周期振動が心配されている地域ですので「そういう対策を何もやっていなかった」ということをご理解いただくのと同時に、地震が起こった直後だけではなく、その後いろいろな問題があることも分かっていただきました。「もし、けが人が出て、エレベーターが止まってしまっていたら、どうやって下ろすんだろうか」「マンションの中でライフラインが止まってしまったらどうすればいいのか」などの問題を考えるための講演会なども開いて、集まりの場をつくっていくうちに、非常にやる気のある方々が出てきました。この方たちは主婦層でした。やはり女性の力は強いです。「子供の命を守る」ということに関しては絶対譲りませんので、「徹底的にやりましょう」ということになりまして、かなり本格的な訓練を行うことになりました。高層マンションですから、片方の出口が閉まってしまったときには、ベランダから避難はしごを使って下りてきます。そういう訓練も実際にやってみたら、幼児を抱えてお母さんが下りてきました。母は強いと思いました。その市から10階に届くはしご車も出してもらって訓練をしましたが、それに乗りたいと最初に言ったのも女性でした。

このように非常に充実した訓練になりましたが、はしごで下りてくるという訓練も、はしごを通る全部の階のマンションの住人に事前の了解をとらなければなりません。この過程をきちっと手続きを踏んで、皆さんに合意をしていただいたということが、とても大きな成果だと思っています。みんなのマンションの訓練なので、みんなでやろうという合意が少しずつ少しずつ生まれてきました。また女性の方々に炊き出し訓練をやってもらう際に、昔から周辺に住んでいる方たちが入っている婦人会と、マンションママの合同で炊き出しをやってもらいました。最初は何かぎこちない雰囲気でしたが、すぐに打ち解けて、自分の娘に教えるような感じで炊き出しが行われました。昔の人たちは、お葬式や集会などで100人・200人分のみそ汁を作った経験がありますし、野菜は自分のところで採れますから、そういうものを持ち寄って作ってくれました。これを見たマンションのママたちが非常に感動しまして「こんなに頼りになるお母ちゃんたちと出会えた。これは本当に訓練の成果だ」と言っていただきましたし、お母ちゃんたちのほうも「最近、休耕地といって、畑を作っていない土地があるので、そこをマンションママたちに貸してもいい」という話も出てきました。このような防災訓練を通して、地域との交流がどんどん深まっていくということが、非常に成果が大きかったと思います。

人と人が支え合うことの大切さ

私は30カ所ぐらい被災地に行って来ましたが、そこで思いますのは、一番大事なのは人と人とが支えあって、助け合うことだと思います。

自分の命を守るため、自分の家族を守るために、自分で耐震補強をしなければいけないというのは分かっているのですが、分かっていてもなかなかできないというのが防災の弱点であり、防災の問題だと思います。被災地の映像もよく知っていますし、結局いつかは耐震補強をしなければいけないということは十分知っているのですが、なかなか実際にはできません。なぜできないかというと、肩を押す人が少ないからではないかと思います。その肩を押す作業も、行政からの一方的な「何かしなきゃいけない」というメッセージであったり、心が十分に動かないような説明であったりするわけです。しかし私たちはもっと単純に「隣もやっているんだからうちもやろう」というそういうノリもあってもいいと思っています。我々はNPOとして、住人の肩を押してあげる作業をしています。それにはいろいろな方法がありますが、工夫次第だと思います。防災訓練がつまらなかったら面白いようにすればいいのです。

私たちは被災現場で大変悲惨な状況を見ていますから、そこの支援をしっかりすると同時に、そこからいろいろ学ばせてもらっているということを、あらためて感じています。被災地の方々が非常な思いをして復興を遂げていく、そういう作業を見ながら、そういう地域を一つの手本としながら、私たちがそうならないための減災の学習をさせていただいていると思っています。

こうやって、日本は狭いといえども広いし、広いといえども狭いですから、被災地が今どういうふうになっているのか、ということを知るためには、やはり現場に実際にもっと多くの方々が出掛けて行ってほしいと思います。そして、そこでいろいろな話を聴いていただいて、自分で「こういうことが必要だな」と感じたことを一つ一つ実践していくことが非常に大事ではないかと思います。災害救援や防災・減災は、自分で一歩踏み出さないと何も生まれないので、災害を他人ごとだと思うのではなく、どんな小さなことからでもいいので、実際に行動していただきたいと思います。

防災運動会「竹ざおと毛布の簡易担架でリレー」・愛知県大府市北山地区

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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