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防災インタビューVol.45

考える防災

放送月:2009年9月
公開月:2010年3月

吉川 肇子 氏

慶応大学商学部准教授

ゲームで学ぶ防災

将棋やチェス、人生ゲームやモノポリーなどのボードゲーム、カードゲームなどのアナログなゲームがありますが、そういうものも実は昔から教育に生かされています。例えば、チェスや将棋は昔、軍人の教育訓練に使っていたことは明らかです。時々歴史物のテレビを見ますと、軍をどう動かすかを地図上で「我が軍がこう行けば、あっちの軍はこう行って」というように、駒を動かしていることがありますが、これがチェスや将棋の原型と言ってもいいと思います。1つのシミュレーションです。

ゲームを使うことによっていろいろなことを考えることができますので、そういういいツールを使って防災教育も組み立てていこうというのが、私たちの考え方です。ゲームというのは、自分が何かをしなければ事態が進行していきません。講義ももちろん大事ですが、講義では聴いているだけで、自分が何かしなくても耳から、次から次に情報が入ってきます。そうではなく、「自分がこうしたら状況はどうなるだろうか」「自分がこう動いたら相手がこう出てきたから、それに対してどう対応しようか」などと主体的に考える道具としては、ゲームは優れていると思います。よく、「ゲーム感覚で楽しく学ぶ」と言いますが、それは実はちょっと違うかと思っていますが、楽しいのは確かで、楽しいときこそ学んでいるというふうに思っていただくといいかもしれません。ゲームはある意味でシミュレーションや模擬体験ですので、それは現実にすごく近くするかどうかはいろいろですが、学ぶことはかなりできます。

災害そのものを実地に体験することは、ひょっとすると一生に一度あるかないか、かも知れません。その中で、どういう状況になるかということについては、なかなか人々の想像力は働きません。映像で見ることはできますが、それも限界がありますので「実際にそういう場面に遭遇したら」ということを考えていただくのに、ゲームはいい道具だと思います。例えば、カード型の教材、防災すごろく、防災かるたなどもあります。かるたをやるためには言葉を覚えなければいけませんので、知らず知らずのうちに防災で大事なことを学ぶことができます。

防災ゲーム「クロスロード」

防災を学ぶために作ったゲーム「クロスロード」は、1995年の阪神淡路大震災の際に、災害対応で苦労した神戸市職員へのインタビューを基に問題を作って、カードゲーム化しているものです。「クロスロード」というのは、もともとは交差点、右か左かの分かれ道という意味があります。なぜこういう名前を付けたかというと「クロスロード」の問題がそういうふうになっているからです。カード形式なので、ちょっとそのカードを読み上げますので、体験してください。

「あなたは共働きの30代夫婦です。防災には近所付き合いが大事だと言われますが、地域自治会に入ると集会や一斉清掃などで、月に2回は出なければなりません。仕事を持っていて、とてもそんな暇はないと思います。それでも自治会に入りますか?」これについて、イエスかノーかで答えてください。入るならイエス、入らないならノーです。入ったほうが良いのは分かるのですが、率直に言ってしまうとノーと言う人は結構います。親の世代ですと結構、自治会に入って活動しているのですが、私の世代はちょっと厳しいです。

次の問題です。避難所に避難していると想像してみてください。3千人がいます。そこに食料が届いたのですが、2千食分です。この2千食を今、配りますか、配りませんか。配るはイエス、配らないはノーです。配るとしたらどのように配りますか? これは難しいです。先着順では、災害時はいろいろトラブルもありますので。

最初の30代の夫婦の問題は非常に気軽な問題でしたが、3千人に2千食の問題は神戸の実話ですが、神戸市の職員も苦労したそうです。このような実際の体験を、震災から約10年たってインタビューをして、イエスかノーか、決断に迷われたジレンマをカード化してゲームにしています。実際にゲームとしては5人1組になって、皆でイエスかノーか、どちらかのカードを一斉に出します。イエスカードとノーカードの多数派が、ポイントとして青い座布団をもらえることになっています。正解が明快なものもあると思いますが、困るようなものもかなり選ばれています。

例えば、自治会の例のように正解があるのではないかと思いますが、現実に「本音を言うとちょっとね」と言う人が結構います。本音の人が「ちょっとね」と言っている限りは「これが正解だ」と皆が言っても、実際は動かないわけです。そこを考えることが多分、重要なのだと思います。

このゲームでは、それぞれが決断して、イエスかノーかのカードを出します。「どうしてそういうふうに思ったのか」「私は絶対にイエスだと思ったのに、ノーだと言っている人のほうが多い」ということがあるわけです。そういう意外な発見をして「どうして自分はノーだと思ったのか」「どうして私はイエスだと思ったのか」ということで議論が弾みます。1問やるごとに5分~10分話をして、自分たちの考え方や日頃思っていることをディスカッションしていただく教材です。

「人に意見あり」と私たちは言いますが、どんな人も考え方や意見を持っているものなので、そういう一人一人の意見をちょっとずつ引き出して行こう、というのがこのゲームの狙いです。これは、もともとは防災編で始まりましたが、地震以外にもいろいろな災害があります。津波もありますし、水害もありますし、それから最近で言いますと新型インフルエンザ、食品安全の問題など、決断に迷うような危機的な状況はたくさんありますので、今はいろいろなバージョンが作られています。

このゲームは地域の自主防災で使われたり、学校でロングホームルームのテーマとして議論されたり、いろいろです。もちろん消防職員、看護師などの専門職の方々も使っています。実は発売を始めてから4年目です。販売総数だけで言うと、恐らく3万人分出ていると思います。ゲームは知的権利の確保が難しいので、一般の書店などでは販売できませんが、京都大学生協では入手可能です。

3千人に2千食という問題についても、そのときにどうするかということを、災害が起こる前に、例えばお子さんに優先して配ろうとか、分けられるものならちぎって分けようとか、あらかじめ議論しておくことによって、その地域なり学校なりのルール作りをしておくことができます

ただ、ここで注意していただきたいのは、神戸の実話を基にしていますが、イエスが正解なのか、ノーが正解なのかということではありません。イエスを選らんだ方もいるし、ノーを選んだ方もいますが、それはそれなりにいい点もあれば悪い点もあります。実際に神戸ではどうだったのかというと、イエスを選ばれた方もいるし、ノーを選ばれた方もいます。それぞれの方はそのときに誠実に対応されて、考え抜いた揚げ句に答えを選ばれたわけですが、今となってみると逆の答えもあったかなと、いろいろ思い返されることがあるわけです。それらを私たちは勉強することは、とても意義があることだと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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