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防災インタビューVol.48

阪神大震災から学ぶ耐震対策の重要性

放送月:2009年3月
公開月:2010年6月

隈本 邦彦 氏

江戸川大学教授

家が倒壊したからこそ起こった火事

阪神大震災の直後には報道できなかったことで、メディアも知らなかったし、気が付かなかったし、なかなか言いにくかったことは、建物の耐震性が弱いために多くの人が亡くなっていたということです。死者のうちの全体の8割がその建物が倒壊したことによって、それで亡くなっているという非常に重要な事実が、たくさんの人間ドラマや、大災害特有の珍しい現象、大火災のことや自衛隊が出動できなかったということなどにかき消されてしまいまいました。特に火災は、関東大震災のイメージがあるのか、「地震だ、火を消せ」というふうに皆さんおっしゃるし、あのすごく燃え盛る炎を見ていると、たくさんの人が阪神大震災の火事で亡くなったというふうに思われていますが、実際に火事で亡くなったのは、死者の全体のうちの12%です。しかも多くの人が本来なら逃げられたはずなのに、建物の下敷きになっていたために逃げられなかった、という人もいたはずです。そういう意味では火災が悪いのではなく、地震で建物が倒れたことが悪かったということです。
このデータもだいぶたってから明らかになりましたが、消防庁のデータで、その地域の建物の倒壊率と地震発生直後の出火率というものを、それぞれ縦軸、横軸にしたグラフがあります。例えば、神戸市の長田区とか灘区などは、火災がすごくひどかった所です。その辺りは、建物の全壊率が25%を超えています。つまり建物がたくさん倒れている所に、ものすごく火災が起こっています。ところが神戸市の北区、お屋敷町では、耐震性の高い建物が多く、倒壊率が3%以下だったので、地震発生直後に1軒も出火していません。これは何だろうというふうに考えていただきたいのですが、例えばコンロをいくら揺らしても火事は起きません。ところが揺れて建物が倒れて柱がコンロの上に乗っかってきたら、初めて火災になります。だから地震の火災というのは、実は建物が壊れることによって起きているのです。とすると、災害時の自治体消防力を高めていくことが大事だと、地震直後に報道されましたけれど、それも大事ですが、そのようなことをしていたら日本中、消防車だらけになってしまいます。実際には人口の比率に対して何台というような消防車しか配置できないわけですから、何が必要かと言えば、たくさん家が倒れた後に火を消す能力を高めるよりも、倒れないようにするほうが大事です。ですので、阪神大震災の本当の教訓というのは「建物が倒れないようにする」ということです。
私も阪神大震災が起こった時は14年前ですので、そのころまだ若かったので、浅はかだったなと思うことが1つあります。地震直後ずっと取材班に入って取材をしていまして、新聞を見たら、ガタガタになった線路を歩いて出勤する人たちの写真がありました。その時、あのような災害があったのに翌日、大阪の会社に歩いて出勤していく人たちを見て、「日本人はエコノミックアニマルだな」と思いました。でもそれは間違いでした。要するに、もし神戸にある自分の家が大丈夫で、ご家族も元気、誰も怪我をしていない。親せき一同誰も亡くなったりしていなくて、大阪にある会社が大丈夫だとしたら、翌日仕事に行くのが当たり前です。むしろそういうことができた人のほうが幸せだったのです。震災の翌日、子どもが死んだとか親が死んだというふうに泣いている社会よりも、地震が発生した翌日に、交通機関も駄目になったし、ガスも電気も駄目になったけれど、まあ取りあえず出勤して会社に行って仕事をするというほうが、よほど文化的な社会だったわけです。それに気が付かなかった自分は、やはり浅はかだったと思っています。翌日、会社に行って、お茶でも飲みながら「昨日の揺れはすごかったよね」と話せる社会のほうが、よっぽど文化的な社会で、そういう社会をつくらなければいけなかったのに、それができなかったことが、阪神大震災でたくさんの人が地震の翌日、皆泣いていたということにつながっている、ということにその時は気が付きませんでした。

死者へのアンケート

この番組にも出ていらした目黒先生は、「アンケートを取る相手を間違えてはいけない」とおっしゃっています。メディアも、地震の後に現地に入った研究者も全員、地震の被災者に「地震対策として何が必要だと思いますか」というアンケートを取るために、避難所の被災者のところに行くわけです。しかし、そこに居るのは、地震が発生した後に生き残った人です。その人に地震対策で何が必要ですか、と聞いたら、やはり自分の家の再建とか、生活の再建とか、産業の再建とか、避難所をもっと暖かくしろとか、飯よこせとか、そういうふうにおっしゃるに決まっています。これらは切実な問題ですが、それはアンケートを取る相手が今生き残った人だからです。目黒先生がおっしゃるのは、そうではないということです。もしあの世に行ったあの6,400人にアンケートを取ることができて、「地震対策って、一番大事なのは何だと思いますか」と聞いたら、もう皆口をそろえて、柱が倒れてきたらあんな痛いとは、苦しいとは知らなかった、あんな死に方をするとは自分は思わなかった、だから耐震性の高い建物に皆が住める世の中にしてほしいと、これが一番大事な地震対策だ、と言うと思います。しかし皆さんが亡くなってしまったので、アンケートが取れないし、取材ができません。取材ができないことは、メディアは伝えきれないわけです。しかし、ここで大事なのは想像力です。亡くなった人たちはどう思っただろうか、ということを本当は震災直後のメディアが頑張って伝えるべきでした。
とにかく阪神大震災直後に繰り返し報道されたのは、被災者支援の重要性です。その時、村山首相がのんびりしていた、ということが言われて、とにかく被災者を助けなくてはいけない、それは国の仕事だ、ということで被災者支援の重要性が言われ、そのために首相官邸に緊急対策室ができたり、全国の自治体に何千という震度計が設置されました。また繰り返し報道されたのは復興の道のりの難しさです。仮設住宅がないとか、震災復興のためにどんな住宅が必要だ、とそのようなことです。また産業も被害を受けましたので、「その工場をどうやって再建するのか」「何であんなすごい地震を予知できなかったのか」という地震予知に対する非難などもありました。当時は、こういうことがトピックとしては非常に重要だと感じられて、メディアがたくさん伝えましたが、あまり報道されなかった真実は、あの被災者のうちの8割が、そして直接の死者のうちの9割が地震の建物の倒壊によって起こっているということです。だからそこを解決しないと、被害の9割は予防できないわけです。実際には建物の耐震性を高めることが何よりも大事で、そうすれば阪神大震災の死者が10分の1に減ったのだという、この重要な事実は非常に地味なので、メディア的にはあまり伝えてこなかったし、たくさんの震災報道の中でかき消されてしまったのです。このことは、すごく自分としては残念だし、被災者、生き残りの1人ですから、その1人として、じくじたるものがあります。

阪神大震災の教訓を生かして

阪神大震災の本当の教訓は、建物の耐震性が一番大事だということです。死者全体の8割、9割を減らすためには建物の耐震性を高めておく必要があった、ということが最大の教訓だったのですが、ところがどうも日本の中では、阪神大震災でたくさんの人が亡くなった割には、その教訓が生かされていないと思います。
例えば、建築基準法という法律がありますが、この法律は不遡及です。不遡及というのは、さかのぼって適用されることはない。建築基準法が厳しくなっても、それ以前に建てられたものについては適用されないということです。つまり昭和20年代はほとんど緩い耐震基準しかなかったのですが、地震が発生して、何かが壊れて、これではまずいということで、どんどん厳しくなっています。一番がらっと変わったのが昭和56年の耐震基準の変更で、それは新耐震基準と呼ばれていますが、これは昭和53年にあった宮城県沖地震で想定を超えた壊れ方をしたので、やはり厳しくしなければいけないということで厳しくなりました。ですから、昭和56年以降の新しい新耐震基準で建った建物は、実は阪神大震災でもさほど壊れていないのです。しかし、この耐震基準が厳しくなったにもかかわらず、それよりも前に建っていた建物、その新しい耐震基準が適用される昭和56年の6月より前に建っていた建物については、実はその基準が改まっても、それも建て直せ、という話にはならないわけです。既にある、今の耐震基準には不適格な住宅というのは「既存不適格住宅」という言葉で呼ばれます。それは実はお上は認めているわけです。この耐震基準の考え方というのは、新しい耐震基準をどんどん厳しくしていけば、何十年もたって家が建て変わって、最後はいい町になるだろうという、のんびりした考え方なわけです。でもこれはおかしいです。例えば、消防法という法律がありますが、この消防法は遡及です。今話題になっていますけれども、火災報知器を普通の家庭にも付けましょうということが決まったら、それまでに建てた家も同じ基準になっていきます。でも建築基準法はさかのぼらないのです。

耐震補強と仮設住宅

阪神大震災の時に倒れた建物はやはり古い木造住宅で、古い耐震基準で建った建物ばかりが中心でした。不思議なことですが、それが壊れてしまった時には、すぐ国のお金、税金で仮設住宅を造ってくれます。実は1軒の仮設住宅を造ると大体300万円掛かります。小学校の校庭などに造るので土地代は必要ありませんが、土地がただでも300万円掛かるのです。1世帯当たり300万が、壊れたらすぐ税金からぽんと出るのに、壊れないように耐震補強をするときには実は補助金はわずかしか出ないのです。横浜の場合はとても幸せで、横浜市は全国でも一番耐震改修に補助金を出す自治体でして、実は150万円出るのですが、ほとんどの自治体は太平洋側でも大体60万円、北海道なんかは全く耐震補強に補助金は出ないのです。税金の使い方は、その国のポリシーが表れると思いますが、日本という国は、建物が倒れる前にはお金はあまり出さないのに、壊れたら300万でもいくらでも出してくれます。これはおかしなお金の使い方です。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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