1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報
  4. 防災インタビュー
  5. 阪神大震災から学ぶ耐震対策の重要性
  1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報

防災インタビューVol.48

阪神大震災から学ぶ耐震対策の重要性

放送月:2009年3月
公開月:2010年6月

隈本 邦彦 氏

江戸川大学教授

震災後の救済よりも災害前の耐震

建物が倒れるから人が死に、怪我をし、火災も出ます。建物が倒れなければ人も死なない、怪我人も出ない、火事も出ない。そうすると自治体の災害時消防力もいらないし、災害医療もいりません。それなのに倒れる前には税金はあまりつぎ込まない。これは実は個人の財産に税金をつぎ込むのはいかがなものか、という古い議論です。そういう考え方で、災害が起こらなければ税金はつぎ込まない、結果的に倒れてしまったら300万以上を掛けて仮設住宅を造ったり、その後いつまでも仮設に住んでいるわけにはいかないので、災害復興住宅というのを造ったりしています。現実に過去の災害では、このためにかなりの税金を費やしています。
さらに困ったことに、地震で家が倒れたり、燃えてしまったときに再建するための地震保険というのがあり、入ったほうがいいと勧められていますが、実は地震保険には深いカラクリがあって、いざとなると多額の税金がつぎ込まれるシステムになっています。
日本の国の仕組みというのは、家が倒れる前にはあまりお金を出してくれないけれど、倒れた後だとすぐに仮設住宅とか、お金を付けてくれる、というお話をしましたが、地震保険にも実はこんなカラクリがあります。被害全体が1,100億円までは保険会社が出すのですが、それを超えて、全体の被害が1兆7,300億円になると、その半分は税金が持つことになっています。そのさらに1兆7,300億円を超える被害をもたらすような、ものすごい大災害があるときには、実は超えた部分の95%を税金で出すのです。例えば今、地震保険で総額5兆5,000億円まで想定されていますが、もしそこまでの被害が起きるような大災害、東南海地震、南海地震などが起きると、被害総額が5兆5,000億を超えると言われています。その場合、大体の比率で言いますと、税金で8割を出しますので、保険会社が2割しか出さなくていいことになっています。これはもし1軒の家が壊れて2千万ぐらい再建に掛かるとすると、税金はそのうちの8割、1,600万円がつぎ込まれることになるわけです。これはどうでしょうか。家が倒れる前には補助金が少ししか出ないのに、倒れたら税金を1,600万円どんと出しますよ、というのが今の日本の国の仕組みです。恐らく今、日本全体で木造住宅のうちの25%ぐらい、4軒に1軒ぐらいは耐震性が不十分だと考えられています。その数を全部耐震補強させるとして、大体1軒当たり平均値で100万とか110万とか120万ぐらいで耐震補強できると言われていますが、それをやっても掛かるのはせいぜい20兆円ぐらいです。10年計画でやれば1回2兆円。今度、景気対策で配られるというあの2兆円を10年間やれば、10年たつと日本の木造住宅は、地震がきても倒れないというふうに変えられます。やはりそこは考えておくべきではないかと思います。

耐震改修工事のすすめ

横浜市にお住まいの方々は、耐震改修工事に対する自治体の補助金額が日本で一番ということで、実は全国的に最も恵まれています。大体の太平洋側の普通の市町村で、耐震改修の補助金は60万円が限度です。それ以外の太平洋ベルト地帯ではない所は、まだ0円という所はけっこうたくさんあります。それに比べて横浜市の場合は木造住宅で、昭和56年より前に建てられた建物で、耐震改修をする場合には150万円まで行政が補助してくれます。大体耐震改修は120万円ぐらいでできますので、ほかのリフォームを一緒にしても、150万円ならできるということです。住宅のリフォーム、ほかのリフォームを一緒にした場合には、トータルで利子補給も含めると550万円まで横浜市が補助してくれます。そういう意味では、横浜は日本で一番恵まれた所です。耐震改修工事の前提になるのが、自分の家の耐震性があるかどうかの耐震診断です。これも太平洋ベルト地帯の自治体では無料化している所もありますが、やはりそれ以外の地域では無料ではありません。横浜の場合は、市に申請をすれば無料で耐震診断が受けられて、その結果に基づいて耐震改修するときには150万円出してくれます。実際にはいろいろな自己負担分がありますけれど、仮に50万とか60万とか、そういうお金を用意したら家が倒れない、人が死なない、火事も出ない、怪我人も出ない、ということですから、軽自動車1台分で家族の命が救われると思ったら安い投資なのではないかと思います。
特に今、横浜全体で見ると、木造住宅のうちの大体20万戸、非木造の住宅でも7万戸ぐらいがまだ耐震性が不十分だと考えられています。全部で合わせて27万戸の家を改修しないと、いざ震度6強の大きな地震があったときには倒れてしまうかもしれません。そういう意味では、ぜひ皆さんには耐震改修に取り組んでいただきたいと思います。特に古い耐震基準で建てられたもので、その後、耐震改修をしていない住宅については行政の補助も出ますので、ぜひやっていただきたいと思います。

住宅支援機構のリフォームローン

住宅金融支援機構、昔の住宅金融公庫が持っているリフォームローンというのも活用できます。このリフォームローンは特に高齢者向けの非常にいい制度がありまして、高齢者向返済特例制度といいますが、一緒に住宅をリフォームするときに耐震補強をしたり、バリアフリー化をしたりする条件を満たしていれば、1000万円までリフォームローンが使えます。非常に良い制度でして、まとまったお金がなくても、収入がなくても借りられます。その高齢者向けの特例制度ですと、普段払うのは利子だけ、元金のほうは、そこに住んでいらっしゃる方全員が亡くなられた後に、その保険で払うというシステムです。だから将来、これから収入が不安というような高齢者の方も、利子だけ払えばいいわけですから、その住宅リフォームローンを使うとすぐに耐震性を高めて、しかもバリアフリー化もできる、そういう制度がありますので、横浜市の制度と旧住宅金融公庫、住宅金融支援機構の制度を使えば、実際大きな地震がきたけれど、なぜか横浜だけは火事も出ないし誰も怪我をしなかった、ということがあり得るのです。ぜひ考えていただきたいと思います。
1軒1軒が耐震化されないと、隣の家も火事や何かで巻き込まれる可能性がありますから、町内でそういった防災のことを具体的に考えていただきたいと思います。確かにお金をつぎ込んで工事をするのは、ちょっと考えてしまうかもしれませんが、実際被災した後に、いくら税金をつぎ込んでも、人の命は返ってこないし、工場が倒れて産業が止まってしまったら、もう不景気どころの話ではないわけです。それよりも「転ばぬ先のつえ」という言葉がありますが、もし同じように税金をつぎ込んだり、自分の蓄えをつぎ込むのでしたら、阪神大震災の教訓を生かして、地震がきても家が倒れない町づくりをすることが大事だと思います。

メディアの役割

私は特に科学的な知識を世の中にどう伝えるかということをメディア論として、学生たちに教えていますが、そういう意味では阪神大震災がもたらした大きな被害は、社会現象であると同時に科学的な現象でもあったわけです。揺れがあって、物が倒れ、そこで人が死ぬという、そういう現象を伝えるメディアが十分ではなかったと思っています。その反省を生かすとしたら、メディアの側も変わるべきだと思います。やはり目の前の被害や火災、人間ドラマを報道するだけに終わらずに、その地震というものを冷徹に見つめて、どうしたら同じような被害が防げるかということに着目して報道をすべきだったと思います。そういう意味では勉強が足りなかったと思います。
私が名古屋放送局のデスクをやっている時に、ちょうど同じ年ぐらいの地震学者や建築学者の名古屋大学の先生たちと一緒に、「メディアと地震の専門家たちが普段から勉強しあう会」というのをつくったのです。ネットワーク・フォー・セービング・ライフズという名前を付けたのですが、これは命を救うためのネットワークです。普段立場の違う学者やメディアの人たち、普段競争ばかりしているメディアの人たちが一緒になれるとしたら、多分「被災者の命を救う」という1点ではないかと思い、この名前を付けました。2001年4月から1カ月に1回、勉強会をやっています。もうこれで9年ぐらい続いています。この勉強会ではとにかく、地震が起きてから勉強したのでは間に合わない。地震発生からいろいろ勉強していても、その直後に報道をしなければいけないわけですから、地震が起こる前に、耐震性の重要性について理解し、メディアが報道にはそういった冷徹な目を持つことができるように勉強をしています。もちろん人が死ぬということですから、人間を伝えるメディアとしての本来の役割がありますが、同時に地震という現象を見つめる冷徹な目を持っていよう、ということで一生懸命勉強しています。これは名古屋市で始めたのですが、だんだん評判を聞いて、三重県や岐阜県の方も入ってこられ、毎月1回ぐらいのペースで勉強会を開いています。こういうことは名古屋だけではなくて、恐らく全国でやるべきなのだと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

会社概要 | 個人情報保護方針