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防災インタビューVol.56

被災地に生協あり ~生協ネットワークを生かした災害支援への取り組み~

放送月:2010年8月
公開月:2011年2月

亀山 薫 氏

日本生協役員

災害時の物資支援協定

神戸市とコープこうべは、阪神淡路大震災の15年前の1980年に「緊急時における生活物資確保に関する協定」を締結していました。これはオイルショックの時に起こった物不足、パニック、物価狂乱に対する反省から、神戸市とコープこうべの間で物価問題研究会を設置し、緊急時対応策として1つは、店舗に品切れを起こさないために緊急時における商品手配システムをつくること、2つ目に公正適正価格を維持するための物価監視機能を強めること、3つ目に公正な分配をすることが盛り込まれています。パニックが起こるとまず困るのは、特に高齢者や体の不自由な方々であるということを踏まえ、具体的なシステムを準備するための討議が行われ、その結果、「緊急時における生活物資確保に関する協定」が結ばれたということです。協定を締結してから15年間、これは一度も発動されたことがなかったのですが、毎年、神戸市長とコープこうべの理事長、あるいは担当者が顔を合わせて、協定を再確認してきました。
そして15年後、大震災が発生したときに、コープこうべの担当役員が神戸市に走り、協定の発動を確認しました。神戸市長が「とにかく水と食料がいる、生協さん頼む」と要請を出しました。15年目にして初めての発動となったわけです。生協では他の市でも必要としているのではないかということで、物資提供などの協力を申し出たところ、たちまち明石市、西宮市など7つの被災した市から同じような要請があり、対応することになりました。
コープこうべでは、本部全壊という被害を負っているにもかかわらず、物流センターの商品在庫や取引先の協力、また全国の生協の協力を得て、協定に基づいて応急生活物資を集め、提供してきました。被災地では、必要とするものが刻一刻と変わります。ガス、水道が途絶えている地域で必要としている物と、復旧した地域で求める商品は違ってきます。このようなニーズに対応するには幅広いネットワークが必要になります。これを可能にしたものが、全国の生協との連携でした。
海外では「あれだけの大地震でパニックが起こらなかったのは奇跡だ」と賞賛されましたが、神戸市民の冷静な行動や、他のスーパーやコンビニの営業再開の努力なども相まって、パニックを未然に防ぐことになり、便乗値上げや混乱に乗じた悪徳商法も発生しませんでした。緊急時のこの協定もパニックを防止した要因の1つとして、大きく評価されました。そしてその後、全国の生協では「コープこうべに倣おう」ということで、各地の自治体と災害協定を結んでいます。現在45の都道府県と305の市町村との間で災害時の物資協定を締結しています。自治体以外にも、赤十字や地域の自治会とか町内会、自主防災会とも協定を結んでいるというところもあります。

物資協定発動に備えて

前述のように、緊急時の物資協定を結びましたが、協定を結んだ生協自身も被害を受けて協定を守れないということもあり得るわけです。そこで被災地の生協がもし行政の要請に応えられない状態になったら、近隣の生協が支援するということで、生協間の相互支援の協定を結んで準備をしています。ただ、こういうものは精神的なものが多く、生協でも協定は結んだけれど、実はしばらく何もしていないという状態が続きました。しかし東海地震がいつ発生してもおかしくないとも言われていますし、南海、東南海地震、あるいは首都直下地震も間近に迫っているとも言われています。そこで、このままではいけないということで、生協は全国に5つのブロックがありますが、その生協間で、大規模災害対策の協議会や連絡会をつくって、大規模災害への備えを行っています。
例えば、首都圏では首都直下地震を想定した図上演習を行って、行政から要請された物資をどこから調達し、被害状況に応じてどのような形で運ぶか、といったような訓練をしています。また生協の事業をどのように再開させるのか、そのための支援体制をどうするかなども毎年、訓練を繰り返して準備をしてきています。そしてその図上演習からさまざまな問題を見つけ出して、広域連携のプログラムとして、広域的な連携支援の在り方を整理しています。例えば、日本生協連では物資調達のために、72社のメーカーと240品目の商品に関して「災害時の応急生活物資優先確保協定」を結んでいます。これは災害時に行政から要請された物資に関しては、メーカーにはメーカーブランドの商品の出荷を一時中断してでも、被災者支援の物資を優先して出荷していただく、あるいは生産していただくという協定です。メーカーとは毎年、契約の締結の更新を行って、この内容や製品について確認をしています。
同時に、大規模災害対策協議会に参加した生協の間では、電話の通信が途絶えた場合に備えて、防災用の無線としてMCM線を配備しています。これは既に全国で1600台ぐらい配備されています。また職員の安否確認システムを共同で利用するために、全国で35,000人の職員の緊急連絡先などが登録されています。緊急時に物資を運ぶためには、道路制限があったりしますので、緊急通行許可証をもらうために、緊急通行車両の事前届出を全国で6500台分出して備えています。
物資協定の実際の発動という事例では、最近で言えば2月にあったチリ大地震による津波被害の際に、みやぎ生協、いわて生協、神奈川のうらがコープで避難者対応の応急物資としておにぎり、弁当、カップ麺、飲料水などを調達して、行政と住民の要請に応えてきました。

生協のインフラを生かした支援活動

生協は災害が発生したときは、その持っているインフラを最大限活用して支援活動に取り組んでいます。生協は基礎的な食料品生活物資を扱っていますので、被災直後、極端な物不足に陥っている被災地での生協の役割は、何よりも生協の事業を早期に再開するということがあります。そのことを通じて、被災者が普段の生活を取り戻すことの手助けを行うことが、何よりも重要だと考えているからです。
例えば、新潟で中越地震の時に道路が寸断されました。生協の宅配の車は「とにかく行ける所まで行ってみよう」ということで、山を越えて被災地に注文された宅配の商品を届けに行きました。「道路が厳しいときによく来てくれた」と大変、組合員さんには喜ばれました。町のスーパーやコンビニに商品が全くないという中で、その組合員さんからは「食料が手に入っただけでもこんなに安心できるものか」と喜ばれました。
それと同時に、避難所にもたくさんの避難者が来ることになりますので、備蓄品だけでは対応することができないこともあります。こうしたときに行政からの要請に応じて、食料品や生活物資を供給するということでも役割を果たしています。例えば、新潟中越沖地震では、刈羽村役場からの要請で発災初日の避難所の夕食を手配しました。また岩手宮城内陸地震では、栗原市からの要請に応じて、避難所への弁当を毎日手配するという対応を行いました。これらは地元の生協が対応したわけですが、新潟中越沖地震では厚生労働省の要請を受けて、日本生協連がウエットティッシュや紙おむつを手配するなどの協力を行ったこともあります。
インフラという意味では、生協は小型トラックを保有し、全県的に個別配達する機能があります。生協の事業の内訳は、店舗事業が4割、6割が宅配事業ということで、小型トラックを非常にたくさん全国に保有しています。被災地では道路事情が非常に悪くなりますので、1.5トンとか2トンの小型トラックが大変有効になります。新潟中越地震では、物資集積所には物資がたくさんあふれかえっているのに、避難所には物資が届いていない、ということがありました。大型車両では、道路が悪くて避難所まで運べなかったということで、生協が行政にお手伝いを申し出て、宅配の小型トラックが活躍しました。また宅配は毎週、同じ地域を配達しているので、裏道や抜け道など地域の事情を詳しく把握しています。このことが大災害の時に非常に大きな力となりました。例えば新潟中越地震の時ですが、ヘリコプターからのカメラで「SOS、ミルク、食料が足りない」という文字とともに孤立した集落の様子がテレビ画面に映し出されました。この後、行政の機関がこの集落に入ったのが2日後でしたが、生協ではこの地域に精通している職員を派遣して、裏道と徒歩でどこよりも早くこの地域に入り、被災した人たちに支援物資を渡して喜ばれた、という事例もあります。
全国規模の連携・応援ということも、生協ならではの取り組みです。生協という同じ理念の下に、暮らしの安全・安心のために活動している生協が、全国的な支援体制を組み、大きな力を発揮するということもできるということです。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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