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防災インタビューVol.69

水害を防ぐために ~先人の教えに目を向けて~

放送月:2011年11月
公開月:2012年1月

土屋 信行 氏

元江戸川区土木部長

東京の地盤について

東京都が今ある所は、西の方に武蔵野台地、東の方に下総台地という大変大きな台地に挟まれた低平地になっています。ここは利根川と荒川が運んできた上流の秩父の山や、谷川岳のような奥利根の山々から運ばれてきた土砂が大変厚く堆積した集積層になっていますので、地震があると非常に揺れやすく、同時に洪水の際には多くの水が集まる地形になっています。

徳川家康が江戸幕府を開府する時に、利根川は江戸湾に注いでいました。しかし江戸という町を発展させるためには、東北でできた米や地方の産物を何とか江戸に早く運びたいということで、そのために一番いいのは船で大量に早く運ぶという交通手段でしたので、利根川を銚子の方に付け替えました。これを「利根川の東遷事業」といいます。これは家康が号令したということになっておりますが、おおむね60年ぐらいかかっています。併せて、最下流は隅田川になる荒川も、今の関東平野のほとんど真ん中を流れていましたが、それを西の方に付け替えました。そして真ん中に大きな田園地帯をつくり、米を作り、地方の産物も入ってきやすいような江戸の町をつくったわけです。しかし無理やり川の道を変えましたので、ここに大雨が降ったり、洪水のように水が集まってくると、水は絶対に低い方にしか流れませんので、昔あった川筋に従って流れてしまいます。ですから無理に銚子に付け替えたがゆえに、東京は大きな水がいったん来ると、昔の河道に沿って洪水が起こるという特徴を持つようになりました。実際に地下水脈を見てみますと、本当に地下の水脈はいまだに利根川という昔の道筋に沿って流れています。

実は江戸時代には、公式の記録にあるだけで150回、民間伝承を入れると250回の洪水を数えていると言われています。これを起こしたもう一つの要因には浅間山の噴火があります。浅間山の噴火によって降り注いだ火山灰が雨の都度、川に注ぎ込まれて、川底が浅くなって、また洪水になります。住んでいる所よりも川の水面のほうが高くなる現象を「天井川」といいますが、そのような状態になってしまったので、ここに大きな水が来るとすぐにあふれてしまいます。江戸時代に250回の洪水が起こったということは、ほとんど毎年、洪水が起こっていたというような地域になってしまったわけです。

今でもこの荒川周辺というのは土地が割と低くて洪水になりやすいと言われていますし、武蔵野台地、そして東の方にある下総台地の間は、川のほとんど全部と言っていいほど天井川です。

現在、天井川になっているこの地域は浅間山の噴火という要素ではなく、その後、大正時代から掘り始めた地下水のくみ上げによって人工的に地盤沈下が始まってしまいました。戦後はそれに加えて、東京の真下にある南関東ガス田という大変有用なメタンガスの包蔵層から、猛烈にくみ上げたがゆえに地盤沈下してしまいました。

地盤沈下の影響

戦後の経済活動の発展に伴って、工業用水を地下から大量にくみ上げてきましたが、その地下水に大変有用なメタンガスが含まれていることが分かりました。これは言ってみればビールの中にガスが溶け込んでいるように、地下水の中にメタンガスが取り込まれているということです。数年前に渋谷の方で、女性用の温泉が爆発しましたが、あれはこの南関東ガス田の地下水を温泉としてくみ上げていたのですが、そこに含まれていたメタンガスが爆発事故を起こしてしまったということです。

江東デルタと言われる、東京のど真ん中の荒川の周辺では、一番影響が大きく出た所で4.5メートルという大変な地盤沈下をしています。海の水には干満の差がありますが、干潮になっても引かないゼロメーター地帯や、満潮になると水浸しになるゼロメーター地帯、これが東京には全部で約120平方キロもあります。江東デルタ地域の約6割から7割ぐらいの地域がゼロメーター地帯です。現在、大変心配されている伊勢湾台風級の高潮に対して、ほとんどが高潮の水没エリアということになってしまいました。これは全部、地盤沈下が原因ですので、昭和40年代の初めには「これは大変だ」ということで、地下水のくみ上げ規制をしましたので、今はもう工業用水として地下水をくみ上げていません。たまたま渋谷の事故は、このガスがどこかにたまってしまって、それが爆発したと聞いています。このような温泉のくみ上げは許可されていますが、大抵、この深い東京のメタンガス包蔵層からくみ上げますので、汲み上げた温泉からガス抜きをしないと危なくて使えないので、これは本当にご注意いただきたいと思います。

ゼロメーター地帯の危険性

ゼロメーター地帯で、地震で堤防が壊れてしまうと、そこから大きな傷口となって、東京湾の水が入ってきます。満潮になって入ってきたとすると、入ってくる水は無尽蔵の海の水ですので止まりません。ですから東京湾の水位と同じになるまで水が入り続けることになってしまいます。洪水はいずれ流れ去りますし、津波も波が引いていきます。しかし、これと違うのは、ゼロメーター地帯ではそれを守っている防御ラインが唯一、堤防だということです。この堤防が壊れてしまえば、ただちに無尽蔵の海の水が入ってきて、同じ水位になるまで入った上に、そのままたまり続けることになってしまいます。

これを私は「四重苦」と言っていますが、上流から来る洪水、海からやってくる高潮、最近あるゲリラ豪雨のような内水氾濫、それに加えて地震があると、もしかしたら洪水になってしまうかもしれない地震洪水、これも東京にとっての大きな問題です。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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