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防災インタビューVol.69

水害を防ぐために ~先人の教えに目を向けて~

放送月:2011年11月
公開月:2012年1月

土屋 信行 氏

元江戸川区土木部長

台風の通り道

日本では2011年は、台風の被害も非常に多くありました。一番大きかったのが台風12号ですが、よく「バケツをひっくり返したような雨」と表現しますが、これはどれくらいの雨か分かりますでしょうか?

1時間に50ミリの雨というのが、よく言う「バケツをひっくり返したような雨」のことで、100ミリになると「滝のような雨」と言われます。しかし2011年には、それをはるかに超えた雨が降ってしまいました。特に三重、和歌山などで被害がひどかったのですが、奈良県の十津川村という所では明治時代に大きな洪水があって、たくさんの村人が犠牲になりました。谷底は45mも埋まってしまい、町が再建できないほどの大打撃を受け、何とか生き延びるために明治政府の許可を取って、北海道に移住しました。これにより北海道に新十津川村というのができまして、奈良県の十津川村と親戚関係にあります。

防災を考えるには、過去の歴史から学ばなければいけないとよく言われますが、今回のような三重県の例も過去にさかのぼってみますと、必ずしも今回が初めてではないということです。やはり台風の常襲地帯、台風が通る道は、おおむねですが、また再び通る可能性があるということです

台風は日本では当たり前だと思われていますが、世界中で見ると台風のような熱帯性低気圧は、ごくごく限られた地域でしか起こっていません。インド洋で起こるのはサイクロン、大西洋で起こるのはハリケーン、そして太平洋で起こるのが英語にもなっているタイフーン、台風です。このタイフーンは北緯5度から45度まで、東経100度から180度までの、地球上のごく限定された所で発生し、この範囲でしか動きません。日本はその真っただ中にいると言っていいと思います。台風が通る場所に住んでいるのですから、台風に備えないわけにはいきませんし、台風のあったことを忘れてはいけないと思います。

台風は1年に10個も来た年もありますが、1個も来なかった年もあります。こういう変動が最近大きくなってきています。これは地球温暖化による気候変動が原因だろうと言われていますし、小さい台風がたくさん来るというよりは、来る数は少なくなりましたが大きな台風になってきています。これに対して私たちがあらかじめ台風に備えないのは、やはり無謀だと言えます。

繰り返し襲う津波

東日本大震災の津波も、第1波、第2波、第3波と何波にも分けて襲来しましたが、第1波が一番大きいわけではありません。「完全に大丈夫だ」と言われるまで、危ない所には行かないということが大切です。

今、私は宮城県女川町の復興計画の策定のお手伝いをさせていただいていますが、現地で聞くと、1波が収まって、もう大丈夫かと思って2波になる前に貴重品を取りに行って犠牲になった方が多くいるということです。災害の時は必ず逃げるということも大切な防災であり、命をつなぐ大切な術だと考えなければなりません。関東地方では、昭和22年に大変な洪水が来ました。この洪水を、もう二度と東京、関東地方で大きな災害にしないということで、治水対策をしています。上流の方にダムを造って水をため、中流では遊水地を造って、そこで水をいったん受け止め、下流では放水路として河川を再整備しようという計画が決まったのも、この「カスリーン台風」という昭和22年の台風がきっかけです。

この台風が来た時に、葛飾区の水元公園では洪水がいったん止まっていました。それは桜堤と言われる土手によって止まっていたのですが、この土手が切れてしまい、下流に水が流れ込んできました。下流の人たちは低い場所なので逃げる所がなくて、一番高い場所は当時の総武線のレールが敷かれた土手の上でしたので、そこに逃げ上がったのですが、そのレールすら水をかぶってしまって、水に追われるがごとく東の方に東の方にと総武線の土手伝いに逃げたそうです。墨田区から江戸川区、そして市川の高台にある国府台が見えた時、総武線の鉄橋を渡らざるを得なかったが、その総武線の鉄橋は黒山の人だかりで、枕木の間に30センチぐらいの本当に狭い板が渡してあり、そこを人々が1列になって逃げて行ったということです。その時、小学校だった方に昔話を伺ったのですが、自分はおじさん、おばさんたちが渡って行く後ろについていたのだけれど、自分の番になって下を見たら枕木の間からゴウゴウと洪水が流れているのが見えて、足がすくんで動けなくなってしまったそうです。その時、お母さんが枕木の反対側に渡って、お母さんは枕木をまたぎながら、自分はレールの間の板を渡って、手を引いてもらって、無事に国府台まで逃げたそうです。当時1万数千人の方が逃げたそうです。この逃げるということも大切な防災対策であることも、ぜひ皆さん忘れないでいただきたいと思います。

まず命をつないでこそ、次の復興や地域の助け合いができるわけですから、何としてでも命をつなぐというのが、この地震でも洪水でも大切なことです。

アメリカのハリケーン、カトリーナ

ハリケーンカトリーナは2500人の命が失われた大変大きなハリケーンです。実はあのハリケーンに対しては1年も前に、ナショナルジオグラフィックという雑誌でも取り上げられ、ミシシッピ川の沿線は堤防が非常に脆弱なので、早く直したほうがいいと土木学会も言っていました。また市の防災担当者も早く対策をとってほしいと言っていたのですが、結局、当時ブッシュ政権は2千億円という事前対策費が捻出できずに、何の対策もせずにハリケーンを受け止めることになってしまいました。出た結果は2500人の命と、12兆5千億円の直接被害、そしてその復興にもう既に10兆円もつぎ込んでいるという大変な被害になってしまいました。このように誰もが予想していたことについては、やはり国としても備えるということが必要だったのだろうと思います。

日本でも現在、カスリーン台風級の台風がもう一度来たとしたら、34兆円の被害が出ると国の内閣府は予想しています。ですから、ぜひこれに対する備えもきちんとしてほしいと思います。日本では、事前対策に今までもたくさんのお金をつぎ込んできていますが、残念ながら関東地方において、このカスリーン台風と同じ強度の台風が来た場合に備えた治水事業は、まだ全部は終わっていません。おおむね50%という段階でしかありません。堤防の補強も必要ですし、遊水地の設置も必要ということですが、一番大きな効果があるダムの建設も、治水にとっては大事な要素だと思います。今の予算の問題もあってダムの建設中止が相次いでいますが、必ずしも全部のダムが無駄遣いとは言えないのではないかと思いますので、的確な分析、そして予測の下に治水対策を総合的に進めなければならないと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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