自然災害が起きる前にやっておくべきこと
私たち、障害のある子を持つ親として、地震などの自然災害が起きる前に子どものために、これだけはやっておきたいと思うことが幾つかあります。
一つ目として、防災グッズ、災害用備蓄品などで紹介されている一般的な備蓄品の他に、自分の家族に必要なもの、障害のある子にとってのこだわりの品や、精神的に安心、安定する物品を併せて我が家の備蓄品として準備し、取り出しやすい場所に置いておくことです。絶対これがないと困るという必需品は、1カ所だけではなく複数の場所に分けておくことも必要かと思います。自家用車があればトランクの中に入れておくのもよいと思いますし、学校でも非常用の食料や備蓄品とともに、その子その子の必需品も備えることを検討してほしいと思っています。そして私たち保護者が自分自身の安全を図ることは、子どもを守ることにつながりますので、保護者も外出時には携帯電話、携帯用充電器、あめ、飲料水、大きめのハンカチ、個人の必需品などを常に持ち歩くのを習慣にするとよいと思います。
二つ目として、家の中の安全を守るということです。家具、家電などの転倒防止、移動防止の対策をしておくことが、家の中の危険を減らすことになります。家具を置かない部屋を寝室にできると理想的ですが、身を守るテーブルの確保、家の中の安全な場所を家族皆で確認しておく必要があると思います。家具、家電の転倒を防止するためにはL字金具での固定や、2種類以上の器具による上下の固定を施すとよいと言われています。また、消防署、社会福祉協議会、市区町村の防災課などに相談して、専門的なアドバイスを頂くとベターです。
三つ目として、地域の方に知っていただくということです。「この家には障害のある子どもが住んでいる」ということを近所の方に知っておいてもらえれば、いざというときに安否を確認してくれたり、避難を促す声掛けをするなど、さまざまな助けを頂くことが期待できます。そのためにも自治会や町内会の防災訓練、地域のお祭りや催し物に親子や家族で参加してみるのもいいと思います。ただ、本人の興味、関心とは異なる催し物へ参加すると、場にそぐわないおしゃべりや理解され難い行動を取り始め、私たち親としては周囲の冷ややかな視線が気になることがありますが、ここは子どものためと覚悟を決めて参加してみましょう。しかしながら保護者が負担に感じるような形での参加は、子どもにとっても逆効果ですので、無理せず少しずつでよいので参加していくことをお勧めします。中には気さくな方や優しい声掛けをしてくださる方もいますし、近所、地域の方と顔を合わせる機会が増えると、子どもの障害を理解してくださる方が自然と増えて、災害時に必要な支援も一緒に考えていただけるようになることと思っています。
四つ目は、「支援方法を明確にしていこう」ということです。災害時に保護者がけがも病気もせず、障害のある子と片時も離れずに、自宅や通い慣れた学級、特別支援学校の避難所で過ごせるならばよいのですが、そうもいかない場合があります。保護者が一緒にいられない事情ができ、避難所で面識がない方に子どもを預かっていただくときに、保護者がいつも子どもにしているような介助、支援をしていただければ安心できます。そのためには本人の特性、コミュニケーションの取り方、生活面の細かな介助、支援の方法が、他の人にも分かるように準備をしておくことが大事です。例えば、福岡市の知的障害特別支援学校保護者会連合会役員とOB役員が作成した「SOSファイル」、ある障害者団体が発行した、ライフサイクルを通じての健康、生活の様子を記録する「生活支援ノート」など、オリジナルのサポートブックやヘルプカードを作成していますので、記入しやすいものから書き始めたり、必要なファイルを抜粋したり、我が子用にアレンジして使用するのもよいと思います。
五つ目は、「学校の役割と学校再開を考えよう」ということです。特別支援学校は、先生方の障害理解や専門性、志の高さ、充実した施設と設備などから、地域の避難所や災害時要援護者の福祉避難所に適しているという見解があります。その一方、学校を再開するということは、子どもたちにとって信頼する先生や共感し合える友達との再会でもあり、被災後の心の傷を癒やし、前向きな日常を取り戻すためにも、なるべく早い時期の再開が求められています。特別支援学校の防災計画や授業継続計画、BCPといいますが、こちらの考え方を基にPTA、地域、行政が連携協力して、地域における特別支援学校の災害時の役割と、学校の早期再開に向けた方策を作り上げて実践していくことが求められていると思います。
居住地での防災訓練について
東日本大震災以降、特別支援学校では、所属する町会、自治会、関係行政機関、NPO法人や親の会、PTAなどが連携し、在籍する子どもたちを災害から守るための防災ネットワークが構築されつつあり、心強い限りです。実際に子どもたちが災害に遭遇する割合は、学校よりも家庭、地域にいるときのほうが高く、すなわち居住している地域との関わり具合によっては、災害時に得られる支援も変わってくると言っても過言ではないと思います。ここでは知的障害特別支援学校に在籍する子どもたちの居住する地域における災害時要援護者支援体制や、地域の防災訓練などへの参加、また実効性ある訓練に視点をおいた方法をお話ししたいと思います。
一つ目として、災害時要援護者としての情報提供や登録が、私たちには必要ではないかと思います。災害時要援護者となる子どもがいれば、行政、地域に子どもの障害特性や非常時に支援してほしい内容をあらかじめ伝え、いざというときの支援体制を整備しておくことが大事なことです。災害が起きたときに、保護者が元気でけがもなく、支援の必要な子どもの側に一緒にいられるとは限りません。我が子の命、安全を守るためには、平常時から備えをしておくことが必要なことです。そのためにも、この情報提供や登録をお勧めします。居住する地域によって、情報提供や登録の方法が異なりますので、ご自身の地域の方式がどのような方式なのかを、福祉関係部局に尋ねてもらいたいと思います。
二つ目として、私たちは、支援の必要な子どもたちが訓練に参加しやすい環境づくりをする必要があるのではないかと思っています。個人差はありますが、防災訓練などの活動プログラムが本人の興味や関心と異なると、不安感からかんしゃくを起こしてしまったり、走り回って行動を共にできないなど、訓練に参加する以前の課題が生じでくることがあります。それは保護者にとっても大変強いストレスになって、その後の訓練に対して前向きな気持ちでは臨めなくなります。知的障害があっても当たり前に地域の防災訓練に参加できるという環境づくりが必要だと思っています。その具体的な方法としては、同じ居住地の家族同士が誘い合って参加するとか、あるいは障害理解を仰げるような学校のコーディネーター的な先生に同行支援してもらうなど、事前に地域への知的障害の理解や啓発活動をしていくことで、地域と心の垣根を低くして、環境を整えるというか、障害理解の啓発をしながら訓練に臨むという意味で、参加しやすい環境づくりが必要だと思います。
三つ目として、実効性ある訓練を目指していくことが必要と思います。災害時要援護者として市区町村に登録された後、地域の支援組織などに名簿や情報が提供されます。個人情報の漏えいがないように、市区町村と支援組織との間では厳重な管理体制がとられていると思いますが、地域の支援組織では災害時要援護者を基に支援担当者を検討し、支援計画を立てます。そして支援計画の作成、支援体制の整備ができたら、地域の防災訓練と併せて災害時要援護者の避難支援計画に沿った訓練を、実際に実施することが必要だと思います。このような訓練を通して、支援を担当する方と災害時要援護者、あるいは保護者が顔を合わせることで、双方の理解が深まるという大事な役目もあります。