市民への呼び掛け
私たちがやっている耐震診断の活動で何よりも大事なのが、皆に関心を持っていただくことです。そのためにも、生徒たちが行っている研究の成果を市民の皆さんに報告すると同時に、耐震診断、耐震補強、防災についても興味を持ってもらいたいと思っていました。その頃、地元の市川市でも「耐震診断助成制度」を設けているものの応募が少ないので、何らかの形でアピールしたいということがあり、そこで私たちの学校の活動が目に留まって「じゃあ一緒に防災講演会をやっていきましょう」と、市川市建築指導課の主催で「市民防災講演会」が始まりました。最初の年の平成16年は約400人が消防局の大ホールに集まってくださり、本当に驚きました。おかげさまで今では毎年、年末恒例の講演会となり、市川市の中では市川工業高校という名前と耐震診断、耐震補強がリンクされて周知されています。耐震診断、耐震補強に関しては、なるべくたくさんの方に関心を持っていただくのが最も大切なことですし、このように市と学校が連携しているのは非常に新しいスタイルですので、他の県にも広がってもらえたらと思っています。
耐震診断のために市内のお宅を1軒1軒回っていきますと、市民の皆さんが生徒たちに対して、専門家の卵に接してくださるように質問をしてくれますので、生徒たちも自分の勉強していることが評価されていると実感できています。公開講座でも、生徒たちが市民の方の横に座って図面を読み取ってパソコンに入力していくのですが、その時にも、本当に専門家に接するように市民の方が声を掛けてくれますし、市民会館での研究発表の際にも同様に、専門家に対するような質問をしてくれます。これによって生徒たちは、自分のやっている勉強の大切さを自覚するようになり、使命感を感じるようになったというのが本当に大きな成果となっています。このことは地域のミニコミ誌も取り上げてくださっていますし、UHFのテレビのニュースにも流れており「市川工業というと耐震診断」ということで周知されてきています。学校なので、行政機関とは違った立場で相談しやすいのもあるのかもしれませんが、市民の皆さんから受け入れてもらっています。
工業高校による耐震診断を全国へ
私たちがやっている学校の取り組みは、確かに千葉県の中では少し目立ってきているのかもしれませんが、実際にこの耐震診断・耐震補強の取り組みが他の県の建築科のある工業高校でも広がってくれば、減災に役立つだろうと考えています。私たち建築教員の研究会が東日本では155校あります。そこに呼び掛けて、2005年から専門の教員の研修会を始めて、私たちの学校のやり方、その課題も含めて先生方にお伝えしました。2005年の研修会は40名定員で、本当に入りきらないほど先生が集まって、パソコンのソフトの使い方から難しい計算方法までやってみました。2007年には関東近県で4校の学校が取り組んでいます。群馬県の藤岡工業高校、都立田無工業高校、葛西工業高校と本校、市川工業高校の4校です。2008年はさらに9校、名乗りを上げていますので、ぜひ広げて成功させたいと思っています。
建築の教育といいますと従来は図面を描いてコンペティション、設計競技に参加し、優秀な成績をとるのがメインだったこともありますが、この耐震診断を始めてから実際、地域の方のニーズに応えていけるというのが大きいです。生徒たちも自分たちの勉強が役に立ち、また自分自身が役に立つ存在であることに気付くわけですから、見違えるようになります。特に高校時代というのは気持ちがセンシティブなので、この時点で信頼されるという大きな経験をすることによって、将来、地域で信頼される技術者になり得るということで毎年、約1万人の学生が建築科から卒業します。今後、各学校のカリキュラムで耐震診断、耐震補強を取り入れて、さらに信頼される工業高校、あるいは信頼される技術者づくりが全国に広がっていけばと思っています。
私たちの学校では総合的な学習の時間が、2年生に1時間あります。その中の防災研究班の2年生の生徒たちは、3年生たちがやっている耐震診断の取り組みを横で見ているわけですが、だんだんのめり込んでいきます。最初は面白がってやっていますけれど後半、顔つきが真剣になるようなシーンが何度もありますし、本当にいい教育をさせてもらっていると思っています。