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防災インタビューVol.102

高校生による耐震診断 ~減災対策を世界へ~

放送月:2007年1月
公開月:2014年10月

菊池 貞介 氏

千葉県立市川工業高校 建築科主事

信頼できる地域の技術者ネットワークづくり

市民会館で防災講演会を開催した際に、ロビーで生徒たちは「耐震診断の簡易シート10項目点検」をやりました。その時に家の弱点を知った多くの方から「では、この耐震補強は誰に頼んだらいいのか?」という質問をたくさん受けましたが、当然生徒たちは答えられませんし、私たちもどの工務店や大工さんに頼んだらいいかということに、ちょっとつまずいてしまいました。

このような質問がかなり上がってきましたので、八島先生と相談しまして「何とか地域の技術者の信頼できるネットワークをつくろう」「信頼できる大工さんのネットワークをつくろう」ということになりました。そのための方法として私たちの学校で行っている公開実験で「できるだけ安く、できれば日曜大工程度的に補強できるような方法はないだろうか」という実験をやる際に、地域の大工さんに見ていただき、何度かそういうことをやっていくうちに信頼できるネットワークづくりができるのではないかということになりました。学校が音頭取りになって、このようなプログラムを作ってみましたが、2006年夏の公開実験には、本当に多くの方が集まってくださいました。実験室は普通の教室の1.5倍以上と、かなりの広さがありますが、そこに70人近くの方が集まりまして、大変なにぎわいでした。

阪神淡路大震災の時には、木造のアパートの倒壊によって若い方がたくさん亡くなりました。彼らは親に迷惑を掛けたくないといって安い木造のアパートに入って、一生懸命勉強していた若者なのですが、そのアパートがつぶれて、たくさんの方が亡くなりました。この木造アパートというのも意外と見過ごされていたもので「実際に実験をやってみよう」と提案をしてくださったのが、地域の大矢建工という会社の大工さんでした。どうせつぶしてしまうアパートだったら、完全につぶす前にうちの学校、あるいは大学に声を掛けて実験したらどうだろうかということで、鎌ヶ谷大仏駅から近い所にあるアパートに実際に補強金具を付けて、油圧ジャッキをかけて揺さぶってみたりしました。これも地域の方に見てもらっています。その後、このネットワークは「木造住宅耐震補強施工研究会」という名前で、市民の方の相談に乗っていくことになっています。

私たちの学校は本当にお金がありませんから、材料実験するにしても、材料を買うことがままならないのですが、「切れ端でよかったらどうぞ」と本当に立派なテストピースを作ってくださって、私たちの生徒はそれに油圧ジャッキを使って思い切り圧力をかけて調べたりもしています。なかなか信頼できる地域の技術者を探すのは難しいのですが、平塚などの事例では、自分たちの施工業者のグループがやった施工についてはグループで責任を持つというところまでいっていますので、そういうふうにしていければと思っています。一般の方にとっては、業者に耐震補強をしてもらっても、それが本当に確かなものかどうか心配もありますので、きちんとしたシステムとネットワークができれば、耐震診断や補強する人も増えてくることになります。まだまだたくさんある潜在的に危険のある古い家、つぶれやすい家の耐震補強が、もっと進んでいくといいと思っています。

高校生による減災対策を世界へ

「アジア防災教育子どもフォーラム和歌山大会」がありまして、県の代表として生徒たちと行くチャンスを頂きました。アジア諸国の子どもたちも津波の被害を受けており、それを乗り越えていくための方策の一つが教育であることから行われているものです。和歌山県で行われたプログラムでは、アジア諸国の子どもたちが本当に真剣に参加していた様子がホームページにも紹介されていますので、機会があったらぜひご覧いただきたいと思います。

もう一つは、私が個人的な趣味で入った、ネパールのカトマンズの建築物調査があります。カトマンズはもともと建築物が素晴らしい地域ですので、写真をたくさん撮っていましたが、行くたびに古い建物がどんどん壊されていきました。何とかこれを記録にとどめたくて、できれば建築の勉強をしている生徒たちにも手伝ってもらおうと思い、平成15年に「目指せ、スペシャリスト」のプログラムに載せて、行き始めました。私たちは日本で耐震診断を行っていた関係で当然、建物の耐震性についても関心が湧いてきました。カトマンズでは、80年に1回ぐらいと言われている大きな地震に見舞われて、建物が跡形もなくつぶれてしまったという記録が残っているにもかかわらず、地元の方は「地震は今までないよ」などと平気で言っています。カトマンズの平均寿命が58歳ということで、先代の教訓がなかなか生かされないこともあるのですが、現状として非常に危機的な状況であることは生徒たちも分かってきました。平成15年の第1次隊から今年は第4次隊になりますが、その生徒と共にカトマンズの危機遺産に指定されている建物の調査を含めて、カトマンズの町並み全体を見て、地震について危険性がある建物をピックアップして、その現状を捉えようという取り組みをしてきました。外から見て「この建物は危ない」と分かる子どもたちが一緒ですから、面白い展開ができるのではないかと思っています。

大学や研究機関の調査活動はよくありますが、高校生が現地に行って実際に実測調査をすること自体、例がありませんので、これの最大のメリットは地域の方が「何をやっているんだ」と関心を持ってくれることです。「君たちはどういう勉強をしているのかね」という顔つきでそばに寄ってこられたとき「この建物はとても素晴らしいけれども、残念なことに今壊れそうですね」という語り掛けをすると、地元の人たちは、自分たちの町の宝物が壊れかかっていることに気が付き始めます。これがまた一つの狙いです。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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